1972年に公開された、フランシス・フォード・コッポラ監督による映画『ゴッドファーザー』。マーロン・ブランドやアル・パチーノら名優が多数出演し、公開されるや当時の興行記録を塗り替える大ヒットとなった。同年度のアカデミー賞で作品賞・主演男優賞・脚色賞を受賞した『ゴッドファーザー』だが、中でも印象に残るのは「ゴッドファーザー 愛のテーマ」に代表されるイタリア映画音楽の巨匠、ニーノ・ロータによる哀愁感漂う音楽の数々だろう。
そんな名作がこのたび、デジタル・リマスター版の大迫力の最新映像と、シンフォニー・オーケストラの生演奏によるニーノ・ロータの映画音楽という、夢のコラボレーション『ゴッドファーザー・シネマコンサート』として復活。2015年10月3日(土)に、東京国際フォーラムで上演されることが決定。
全世界で話題沸騰の『シネマコンサート』のアジア圏初上陸、しかも『ゴッドファーザー』ということで、ここはやはり、日本で最もこの映画を愛している人物、井筒和幸監督にお話を伺うことになった!
しかし、編集部が取材現場に到着するや「やっぱりフィルムで撮らないとダメなんだよ」「粒数が違うんだよ、画面の細かさが!」と、関係者に映画論をアツく語っていた井筒監督。そんな状況に尻込みしながらも、ビビりながらインタビューを開始したところ、監督はすぐさま『ゴッドファーザー』モードに・・・
Q:井筒監督は『ゴッドファーザー』を1972年の劇場公開時に鑑賞されたそうですが、その時の興奮をお聞かせいただけますか?
井筒:そらあ、もう席立てなかったよ、ドーン!!って衝撃で。今までの全映画を否定するかのような、そして、19歳だったボクの甘い将来まで全否定されるような感じでさ(笑)。これから何をしてったらいいのか?って
生きる勇気をくれる映画、生きる指針を示してくれる映画なんかと土台、違うんだよ。明日への勇気が出ますよ、なんて映画はウソっぱちばっかりよ(笑)。ふざけんなよって。茫然自失ってやつですよ。
Q:ストーリーや人物の描き方、撮影やカメラワークについてはどう思われましたか?
井筒:パラマウントのマークが消えた瞬間から、別の世界が始まったんですよ。あの、か細い旋律から入ってきて、「パラマウント」「マリオ・プーゾのゴッドファーザー」って出るだけ。フランシス・フォード・コッポラとすら出ない。そのあとフワーっと、あの葬儀屋のオヤジが「アイ・ビリーブ・アメリカ」と、はじまる。あの時に打ちのめされるんですよ、あの光と影、あの色合いに。
ただ光量が少なくて暗いだけじゃない。ゴールデンアンバー、琥珀色と漆黒の暗さっていうのを、フィルムは持ってるんですよ。
それは撮影監督のゴードン・ウィリスが仕掛けたことですね。コッポラもカリフォルニア大学(ロサンゼルス校:UCLA)出身だから、当然そういうことは勉強しまくってるだろうけどね。でも現場でさ、ゴードンがそんなこと目の前で「やる!」って言ったらさ、止めらんないよ、まだ青二才だったコッポラには(笑)
パラマウントの連中も当時は怒ったらしいよ。「もっと分かりやすい画にしろ!」とか。いろんなメイキングに出てくるし、プロデューサーも言ってる。そういう戦いはガツガツあったらしいから、コッポラも狭間で悩んだじゃないですか。それくらいの革命的な画作りの実験だったですよね。
ちなみに、ゴードンはこれでアカデミーを穫ったわけじゃないのよ。彼はウディ・アレンとか、アラン・J・パクラの映画、それと『ゴッドファーザー』と、数えるほどしか撮ってない。ハリウッドが大嫌いなおっさん、ハリウッド映画を全否定してる人なのよ(笑)。一度会ってみたかったですね。
Q:井筒監督作品の中で『ゴッドファーザー』の影響が色濃い作品といえば?
井筒:なんだろうね〜。『ガキ帝国』(1981年)なんて結構色濃いと思いますよ。なぜかと言うと、あの有名なステーキハウスのシーンで「おい、イタリア語で話そうぜ」って言うでしょ? ああいうとこがすごくショッキングだったんですよ、だって下に英語の字幕が出るんだもん。そしたら、2人ともイタリア語に切り替えて話してるの。マフィア業界のややこしい話を。
『ガキ帝』でも、途中から主人公たちが朝鮮語を話し出すようなね、あれが影響のひとつですね。あの鳥肌が立った感じを、俺らもやってみようかって。意識的ではなかったと思うけど、"大阪の不良を描く"..."在日"...「お、朝鮮語喋らそう。ゴッドファーザーもやってるじゃん」って、そういう発想。いま思えば、それは『パッチギ!』(2005年)に影響していったとも言えなくない。
そういうところで先ず大感動したのよ、腹を割って話をするときは母国の言葉を使うアメリカ移民の複合社会っていうのを、はじめてリアルに感じた。それまで観てきた映画はドイツ軍だって英語喋ってやがる(笑)。アメリカとイギリスの帝国のためにさ、『バルジ大作戦』(1965年)でも全編英語やからね!(笑)
Q:『ゴッドファーザー』を観たことがない人は、どんな点に注目して観るべきでしょうか?
井筒:それはもう映画そのもの、根本の成り立ちですね。今の若い子も観たらドキッ!!となるよ。もう色んなことに忙しくて「ゴッドファーザーを夜ゆっくり楽しもう」なんていう余裕はないんですよ。だからね、たまにはちゃんと"人間"を観てみなさいと。
ハリウッド映画みたいなCG画像に金だけかけて、何でも有りのアクロバットアトラクションのような映画くらいなら観に行けるんだろうけど、あんなもん何百本観ようが人生の深淵には到達しないんですよ。人生にはまったく役立たない(笑)もっと深淵を覗いてごらんと。映画の観方というか、人間への価値観が変わるよと。僕らもそうだったんだから。
『ゴッドファーザー』は、ニューシネマの代表作ですから。『イージーライダー』とか『真夜中のカーボーイ』とか、センスと即興で撮られた同時代の映画たちとも違う、格調の違うもの。『イージーライダー』なんて実は格調のカもないからね、勢いだけで(笑)。
俺らが高校生くらいのときに勢いで観てきたのがニューシネマだったわけですよ。堅苦しくなくて面白いし、最後に主人公はあっけなく死ぬし、「殺されるってカッコイイな」って(笑)
そんなニューシネマの中でも、とりわけ『ゴッドファーザー』が歴史を塗り替えたわけですよね。"イージームービー"じゃなくなった。重厚なタッチ(見せ方)になったわけです。
Q:監督にとってもっとも印象的なシーンを教えて下さい。
それはやっぱりステーキハウスの復讐でしょう!怖いよね、あれは・・・
スタジオのプロデューサーも同じだったみたいよ。あのシーンのラッシュ(見本の試写)を観て、やっと納得したらしい。
多分だろうけど、最初のうちはファミリーの心情描写とか親分と子分の会話のやり取りを撮ってたんでしょう。それまでは目鼻のしっかりしたシーンがなくて、「パチーノはもうひとつか」とか「コッポラを降ろそう」とか、いろんなこと言われたらしいんだけど。
それであのステーキ屋のラッシュが上がってきて、粗編集を見せたら、何も言わなくなったんだって。あのシシリアンらしいシーンの説得力で「最後まで撮らせよう」って話になったんですね。
https://youtu.be/qbF_wpsNxQw
■参照リンク
ゴッドファーザー・シネマコンサート 公式サイト
http://www.promax.co.jp/godfatherlive/
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