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8月5日、トヨタ自動車の高級ブランド・レクサスが宙に浮かぶホバーボード「SLIDE」のCMを公開した。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」(1989年公開)で、未来の2015年にタイムスリップした主人公・マーティが乗った空飛ぶスケートボード「ホバーボード」を彷彿とさせる映像に、心を躍らせた映画ファンも多いのではないだろうか。

https://youtu.be/y2tid0nFW7k


このCMは、「AMAZING IN MOTION」というプロジェクトのひとつ。これまでにも、レクサスがデザインしたドローンや、アンドロイドのような手動の巨大人形が夜の街を歩き回る映像など「期待を超えた驚きと、その先にある感動」を表現してきた。今回のCMはスペイン・バルセロナで撮影されており、撮影終了翌日に、実際にこのホバーボードに試乗する機会を得たのでレポートしたい。

現場は、ビーチ沿いのスケートボードパーク。この撮影のために、倍以上の面積の専用スケートボードパークを増設したのだが、目の前にはあたかも以前からそこにあったかのような巨大なパークが現れた。見た目はコンクリートだが、足を踏み入れると木の感触でダミーだと分かる。この下に強力な磁石のレールが張り巡らされているらしい。これが、ホバーボードが宙に浮く秘密だという。



このホバーボード「SLIDE」は全長85センチ、重さ15キロ。サイズは普通のスケートボードより若干大きめ。デザインは、レクサスの象徴であるスピンドグリルがモチーフにされており、カーボンなどの最先端の素材や、竹といった自然素材で作られている。

側面から液体窒素を注入することができ、その液体窒素でマイナス197度まで冷却された内部の超伝導体が、地面に埋め込まれた永久磁石のレールと反発することにより浮く仕組みだ。ホバーボードから出ている煙の正体は液体窒素だったわけだが、これがビジュアル的にも良い演出になっている。使用環境にもよるが、液体窒素を注入すると約30分~1時間駆動し、ジャンプなど大きな動きをすると、液体窒素が漏れてしまい、持続時間が短くなるという。地面からの浮遊距離は4センチで、体重120キログラムまで耐えることができ、人が乗ると地面からの高さは2センチ程になる。



構造上、磁石のレール上でしか走れないが、磁力を使っているため、電気やガソリンなどのエネルギーを使わずに動かすことができる。また、映像で確認できるように、水の上を走るというトリッキーなことも可能だ。まるで映画さながらのSF世界のような映像だが、CGもワイヤーも一切使っていない。このホバーボードの開発で一番苦労した点を現場にいた技術者に聞いてみた。

「デザインと技術のバランスをとることが難しかった。レクサスは、よりスマートで格好いいデザインを要求してくるので苦労したが、逆にそれがモチベーションにもなった。そもそも、ホバーボードを地面から離すことは、最初は不可能だと思っていた。しかし、スケートボーダーのロスが『やってみようよ!』とチャレンジして、フリックや大きなジャンプを成功させたことには驚いたよ。彼らの熱意や探究心が我々の想像力を超えたんだ。それはとても楽しく素晴らしい体験だった」

レクサスのグローバル・ブランディング室の室長、デイビッド・ノードストロム氏に、なぜ今回ホバーボードを開発したのか聞くと、「レクサスは車のブランドとして知られていますが、それだけではありません。自分たちのファッションやイノベーションをクリエイティブに処理することが得意なブランドなので、それを見せたかった」と話した。

しかし、このホバーボード、浮いているために地面との摩擦がゼロになるので、プロのスケートボーダーでも乗りこなすことは難しい。今回、世界初のホバーボーダーとなった、プロ・スケートボーダーのロス・マクゴーラン氏は、「不安定で前後左右にバランスを取ることが難しく、普通に乗れるまで1週間くらいかかった」と明かす。



摩擦がゼロのため、下り坂はかなりのスピードが出る。実際にこの撮影中に彼は転倒し、4針を縫う怪我を負った。しかし、「小さい頃の気持ちに戻ったような気分だよ。ファンタジーのものが現実に目の前にあることが嬉しいんだ」と、少年のように無邪気な瞳を輝かせた(と思う。サングラスをかけていたので未確認)。

さっそく記者もホバーボードの試乗をすることに。おそらく、初めてホバーボードに乗った日本人だっただろう。スケートボード経験のある記者だが、勝手が全く違う。まず、ボードの上に立った感想は「あれ? これ本当に浮いてる?」だった。
磁力の反発力で浮いていることと、2センチほどの浮遊なので、ボードが上下する感覚がない。また、スケートボードは、進行方向に向かって左右に体重移動することで曲がることができるが、ホバーボードの場合は左右に体重をかけるとボードの側面が地面に接触してしまい、摩擦で止まってしまう。身長170センチの記者より小柄なロス氏の体重に合わせて設計されているようで、基本的に体重は真下にかけなければうまく乗れない。そのため、最初は漕ぎ出してボードに乗ることも困難だった。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマーティ風に言うなら「This is heavy.(ヘビーだ)」。



しかし、コツを掴んでくるとボードに乗って少しずつだが進めるようになった。地面との摩擦がゼロなので、音も抵抗もなく不思議な爽快感がある。近いところでいえばアイススケートのような感覚だろうか。この感覚は唯一無二で、マーティになった気分に酔いしれ「Perfect.(完璧だ)」などと言っていたところで、試乗時間終了。ホバーボードから降ろされ、「バック・トゥ・ザ・現在」させられてしまった......。ドク〜!!!

ちなみに、レクサスのデイビッド氏に、「やっぱり、バック・トゥ・ザ・フューチャーの2015年に合わせて制作したのか?」と尋ねると、「いえ、たまたまだ」と即答されてしまった。

残念ながら、このホバーボードが市販される予定はないが、この超伝導体と永久磁石を使った技術は、重いものを運んだり、エネルギーを貯蓄する技術などに応用ができるという。もう少し先の未来には、このCMを見た未来の技術者によって、映画に出てきたような本物のホバーボードが開発され、街で普通に乗られている日が来るかもしれない。その頃にはレクサスは、デロリアンを発表しているかもしれないが......。



https://youtu.be/y2tid0nFW7k


https://youtu.be/q_BYvUlDviM

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