「そもそも私は、映画に興味はありながらもフィルム・スクールには行ってなかった。でも、映画の原理にはとても興味があったんだ。本来映画とは本を読めなくても、小さな子供でも、目が見えればわかるものだ。私は、小さい頃からサイレント映画を観て育った。バスター・キートン、ハロルド・ロイド、マック・セネット......そして西部劇。70年代までのアクション映画の代表作はすべて観てきたよ」
しょっぱなからこう語ったのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』の監督ジョージ・ミラー。誰がどう見ても、いま世界でいちばんエネルギッシュな70歳の映画監督だ。
映画誕生から120年を経過したこの2015年に、CGをほとんど使わず、無声映画を意識して作られたという本作は、上映時間の98%がアクションシーンというミラクル連発の大傑作!
そんなわけで、先日の監督来日時に合同取材のチャンスが到来! お話を聞いてまいりました!
ーーそもそも監督が『マッドマックス』シリーズで提示している、「暴走族たちがのさばる核戦争後の荒廃した近未来」という設定は、日本の『北斗の拳』などをはじめ、数多くのフォロワーを生んできたエポックなものでしたが、どういった経緯で生まれたものなのですか?
ジョージ・ミラー(以下ミラー):とてもイイ質問だね! 1作目の『マッドマックス』で、マックスは警察官だ。しかし家族を失い、良き友人である同僚も失う。これらはすべてロード(道)で失われた。なぜかというと、予算が非常に少なく、街中では撮影ができなかったからなんだ。
だから、誰も通らないような裏通り、人や車があまり通らない場所を選んだ。そうなると背景には必然的に崩壊寸前の廃墟がある。そこで冒頭に「今から数年後......」とテロップを出して、意識的ではなかったが、近未来の設定にしたんだ。でも、続編の『マッドマックス2』でははっきりと「世紀末」と明示した。ちなみに、『マッドマックス2』のマックスは、車に乗ったサムライというイメージなんだよ。
ーー『マッドマックス/サンダードーム』から30年経ち、その間に『ベイブ』や『ハッピーフィート』などを作られていたジョージ・ミラー監督ですが、それらの経験が本作に生かされたことはありますか?
ミラー:私は『ベイブ』や『ハッピーフィート』を監督した時、テクノロジーについて多くのものを学んだ。最初の『マッドマックス』のころはフィルムだったから、ラッシュを見るのに一週間待たなくてはいけなかった。いまは12台同時に撮影しても、その場でモニターチェックができる。カメラは驚くほど小型化しているから、どこにでも置ける。これは映画作りにとって、非常にエキサイティングなことなんだよ。
ーーこの30年間の間で、今作やご自身に影響を与えた出来事などはありましたか?
ミラー:世界で見てきたもの、すべてが影響している。例えば私は2006年にインドに行った。湖が美しいレイクホテルという場所に泊まったんだが、そこで「ウォーター・ウォー(水をめぐる戦争)」という言葉をはじめて聞いたんだ。「オイル・ウォー(石油をめぐる戦争)」はしょっちゅう聞くけどね。だから、人生で経験することがすべてが、私の作る映画に影響を与えているよ。
(筆者注:本作の舞台設定は、核戦争後の荒廃した近未来。地上は荒れ果て、地獄のような砂漠が延々と続いている。そんな中で、貴重となるのはもちろん水。支配者イモータン・ジョーは、水を徹底的に独り占めし、民や兵士を思うがままに操る独裁者として君臨している)
ーー『マッドマックス 怒りのデスロード』では女性が格好よく、強く描かれていましたが、そのことについての理由や、メッセージはあるのでしょうか?
ミラー:私は3人の男兄弟の家庭だったんだ。田舎町で育ち、男子校でラグビーをやって、医者になるために医学部に進んだ。その過程ではほとんど女性がいなかったんだ。しかしその後、素晴らしい女性と出会い、結婚をして、娘もできた。母も強く素晴らしい女性だった。私はつねに素敵な女性達に囲まれている......とはいっても、実は意識なんかしていない(笑)。そもそもこの映画のアイデアはとても単純で、「延々とチェイスをしている映画にしよう!」と思ったことがはじまりなんだ。戦いの目的はモノとして扱われている人間を取り合う、というものだ。5人の妻を男性の戦士が盗むとしたらストーリーが変わってしまう。だから女性戦士フュリオサが生まれたんだ。
(筆者注:荒野の支配者であるイモータン・ジョーは、子どもを産むために5人の若く美しい妻を「所有」している。今作では、その妻たちをイモータン軍の大隊長である女戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)が連れ出し、脱走を図るところから長きに渡る大チェイスがスタートする)
ーー「脚本」にクレジットされているコミック・アーティストのブレンダン・マッカーシーさんは本作の初期段階から携わっているそうですが、起用した理由と、彼とどんな作業をしていたのかを教えてください。
ミラー:この映画は、音楽のようにしたかったんだ。無声映画のように、言葉がわからなくても映像だけで何が起こってるかわかるようにね。だから、セリフは極端に少ない。そんな映画を目指すんだから、最適なのは脚本を書くことから始めるのではなく、絵で全てを伝え表す方がこの映画にはふさわしいと思ったんだよ。だからコミック・アーティストのブレンダン・マッカーシーを筆頭に、3人のアーティストたちがこの映画のチェイス・シーンを絵にし、作業部屋に3500の絵をバーっと張り出した。最初はブレンダン・マッカーシーから、『マッドマックス』をテーマにした絵が大量に送られてきたんだ。とくに彼は『マッドマックス2』を気に入っていたようで、とにかくブレンダンの絵からはほとばしる情熱を感じたな。とはいっても、絵というのは表面的な部分であって、その後にはキャラクター、武器、改造車両を、どうしてこの世界にあるのか、ということを論理的に裏付けをしていく作業をしていったんだ。
ーー劇中、スピーカーを大量に積み、数名のドラマーとギタリストを乗せた車、ドゥーフ・ワゴンが印象的でした。あの車両はメタルのコンサートを凝縮したかのようなものでしたが、具体的なバンドやアーティストから影響を受けたのものなんですか?
ミラー:言葉が発達する前、紛争や戦争では音楽を使ってコミュニケーションをとっていたという歴史がある。ドラムはもちろん、バグパイプなどで音を鳴らすんだ。だが『怒りのデスロード』の世界では、車両があまりにも爆音を出すので、ギターも大きい音を出さないと聞こえやしない。だからアンプを大量に積んだドゥーフ・ワゴンを登場させたんだよ。ドゥーフ・ワゴンに乗って、ギターを弾くドゥーフ・ウォリアーは、ただ楽器を持っているだけでは戦闘時に役に立たないので、彼の持つダブルネック・ギターは火炎放射器になってるわけだ。ちなみに、これらの設定には今作で音楽を担当したジャンキーXLと、私の19歳の息子の意見を取り入れている。僕の息子はギタリストなんだよ。
ーーこの作品には世代や国境を越えて通じるものがあると思うのですが、この作品にはどういう魂が込められていますか?
ミラー:35年前、1作目を一番最初に受け止めてくれたのは日本なんだ。『マッドマックス』シリーズの世界観は寓話であり、神話的な要素がある。普遍的で、時代を超えたテーマとストーリーだったんだ。舞台設定は「近未来」だけど、そこは非常に原始的な世界だ。だからこそ、誰にでもわかる普遍的なテーマがあり、国境を超えて様々な文化に響くものがある。例えば、アメリカの西部劇というのは非常に寓話的なもので、倫理観や道徳観を描いていたが、黒澤明の『七人の侍』が、『荒野の七人』としてリメイクされた。同じストーリーを違う文化が描いているんだ。これと同じように、『マッドマックス』シリーズもひとつの世界的な文化になっていると思うんだ。
ーー公開されたばかりで気が早い話ですが、続編の構想はあるのでしょうか?
ミラー:ストーリーは考えがあるんだけど、いまは小さな映画を作りたいな......。
というわけで、ジョージ・ミラー監督の合同取材は終了! 終止紳士的でソフトな物腰でしたが、俺は騙されない! 丸いメガネの奥にある眼光は時に鋭く、マッドな雰囲気はビンビンでございました。
三部作、もしくは四部作の構想だとも噂される『マッドマックス』の新シリーズ。劇場で観ないと一生損をした気分で過ごすことになります!
テキスト/市川力夫
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は6月20日(土)、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他2D/3D & IMAX3D 公開
(C)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
■参照リンク
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』公式サイト
http://www.madmax-movie.jp/
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映画は最高の出来でした。まだ見てない人はぜひ映画館でご鑑賞ください。
TVじゃあの圧倒的な映画体験は味わえないよん