『垂直落下式のブレーンバスター 53歳』(天龍源一郎)
今年の11月に引退を発表したミスタープロレスこと天龍源一郎選手。65歳、すなわち普通の会社員にとっての定年の年齢まで、肉体をいじめぬくマット界で、ど真ん中にい続けたその生き様からは、われわれハードワーカーズも多いに学ぶべきところがあります。
1976年に大相撲からプロレスに転向後、ジャイアント馬場・アントニオ猪木という日本プロレス界の二大巨頭からピンフォールを奪った唯一の日本人レスラーでありながら、ハッスルではマイクを持ってカラオケもするという振り幅。まさに記録より記憶に残るプロレスラーです。
天龍選手といえば、最近ではCMや競馬の実況中継などで、その滑舌の悪さが注目されるばかりで、実際の発言の中身が取り上げられることはあまり多くありません。
しかし、たとえば後楽園ホールで激闘を繰り広げたあとに、すぐ近くの東京ドームで同日開催されていたマライアキャリーの初来日ライブと比べて『隣より熱かったろ?』と観客に問いかけてみたり、あるいはアメリカのプロレスから輸入した過激な投げ技DDTをデンジャラス・ドライバー・テンリューと名付けるなど、いぶし銀の男ならではのユーモアと男気のベストマリアージュな発言が多いことにも注目したいと思います。
そんな天龍源一郎選手の男気ユーモアの象徴ともいえるのが、12年前、天龍選手が53歳の時に開発した決め技、その名も『53歳』です。垂直落下式のブレーンバスターですが、変則的なタイミングで落とすので、かけられた相手は受け身のタイミングを取り損ない、深刻なダメージを受けるというものです。
天龍選手が年を経て、美しく相手を持ち上げる見た目重視のブレーンバスターから、途中でいきなり頭から落とすことで見た目は地味ですがより痛い、効く技としての53歳を開発したということです。
年齢による肉体の衰えを隠さず、無理に抗うこともせず、それでも自分自身の仕事において最前線にいようとするための工夫がこの技には込められています。
さらに、その自分の高年齢を客観的に、技名にして自らいじることで、多くの同世代のファンの共感を集めました。
われわれ現役バリバリのハードワーカーもいずれは肉体的な衰えや、変化するビジネス環境とのギャップを感じることもいつかはあるかもしれません。実際に31歳のぼくの友人の同世代の医者は100%レビトラを服用しています。
嘆かわしいですが、これが現実です。
それでも、うまくごまかしたり、安易に逃げたりしせずに、自分の年齢や能力を武器にするやり方を考えることも必要な成長の過程でしょう。
そして、そこにはささやかなユーモアがあれば言うことなし。ミスター仕事の称号はあなたのものです。
天龍源一郎選手の象徴的な技としてもう一つ、グーパンチという技があります。実態は単なる顔面パンチなので、プロレスのルール上、本来は反則なのですが、天龍選手が使用する場合はなぜか反則カウントを取られることがないという奇跡の技です。そもそもパンチなんだからグーなのは当たり前だし。これはいつか誰かが言わなくてはいけないことだったと思います。
こんな矛盾が許されることこそ、天龍選手がミスタープロレスである証拠です。彼の男気とユーモアに惚れたファンや関係者の思い、そして天龍選手自身のプロレス界への貢献が、リングという職場における最大の自由を保証しているのです。
われわれハードワーカーズも「ミスター仕事」として、職場に貢献し、男気とユーモアを見せつけ、ファンを増やしながら、少しずつ職場の自由を勝ち取っていきたいものですね。72時間連続勤務とか、グークリックとかしたいじゃん?
引退を決意した理由を聞かれ「ここまでプロレスラーを続けてこられたのはうちの家族の支えがあった。一番支えてくれた家内の病気があったので、今、身を引いて今度は俺が支えていく番だと思った」と答えた天龍選手、最後までつくづく男気に満ちたミスタープロレスのラストスパートを、見守り、いや見つめながらわれわれハードワーカーズも学んでいければと思います。
http://youtu.be/FAH0BfPFpRA
文/三浦崇宏
【参照リンク】
・http://tenryuproject2010.com/
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