何か新しいことに挑戦するとき、どうしても躊躇してしまいます。特に仕事など責任が生じる場合、そのプレッシャーがのしかかってしまうものです。その責任やプレッシャーをやわらげるため、他の人の"前例"に頼ることも多いでしょう。他の人の通った道は、仕事を成功させるためには当然、参考になり、近道です。しかし、一方でそれが足枷になってしまうこともあります。
欽ちゃんこと萩本欽一は「誰もやっていないこと」に挑戦することが「いちばんたのしい」といいます。
「誰もやってないから、すくなくても、失敗がない」からというのです。なぜなら、失敗も成功もそれを判定できる人がいないからです。
たとえば欽ちゃんはコント55号でブレイクした直後、番組の司会の仕事が舞い込みました。
今でこそ、お笑い芸人が番組の進行役を務めることは当たり前になりましたが、当時そんな前例はありませんでした。しかも欽ちゃんはあがり症。決まり事をうまくこなすことができないからコント55号もアドリブ満載のネタになったのです。だから欽ちゃんは司会の仕事はできないから断ってくれと事務所には言っていたそうです。けれど来るのはそんな仕事ばかり。
だから1回だけというつもりで覚悟して引き受けたのです。段取りが覚えられないから、隣にそれをサポートするアシスタントを配した当時としては異例の司会でした。
「さぁ、次のチームは......誰ですか?」
そうやってアシスタントに聞きながら進行していったのです。自分では上手くいかなかったと感じ「ほんとに前に進まないでごめんなさい」と謝る欽ちゃんにディレクターは言いました。
「でも、たのしかった。あたらしい司会がいると、気づいた。きのうまでは、進行するというのが司会のすべてだったけど、『前に進まない司会』は、あたらしい」と。
欽ちゃんはそれ以降、独自の司会術を確立し、"視聴率100%男"などと呼ばれるようになっていくのです。だから欽ちゃんは言うのです。
「したくない仕事しか来ないんです。でも、運は、そこにしかない」
文/てれびのスキマ
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