快進撃が続く錦織圭が、子テニスツアーのBNPパリバ・マスターズ・シングルス準々決勝で第4シードのフェレールを下し、遂にアジア人初のATPワールドツアー・ファイナルの出場を自らの手で決めた。
世界上位8位までが出場できるファイナルへの出場、その快挙の達成の裏にいるスペシャル・コーチ、マイケル・チャンの存在が非常に大きい。
僅か1年前、錦織にとってジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マレーらいわゆるビック4とは歴然とした差があった。抜群のテニスセンスが国内外で認められながらも、体格的にも精神的にも「一歩何かが足りない」と彼が言われ続けて来た中で「勝者のメンタリティ」を植えつけたのが、今年から特別コーチに就任したチャンコーチだ。
ご存知の通り、マイケル・チャンは17歳で初のグランドスラムとなる全仏を制覇。世界ランク2位まで上り詰めた元トップ・プレイヤー。アジア系のアメリカ人として小柄ながら世界で戦う姿は、当時の日本人にも勇気を与えた。
そんな彼が、今シーズンに入りコーチングの中で錦織に植えつけたもの、それは技術面も勿論だが、メンタル面での強化が大きい。全米でも「マラソンマン」と呼ばれ粘り強く長時間の試合を勝ち抜くメンタリティーは今年に入って、非情ともいえる鬼特訓によって培われたものと言っても過言ではない。
技術面で常に語られているのは徹底した基礎の反復練習。コーチ就任直後から「基本がなってない」「あのサーブでは世界一に程遠い、一から作りなおそう」と弱い部分と徹底的にダメ出し、その一方で最大の武器であるフォアハンドをより強く重いボールへと強化すべく技術指導を続け、持ち前の判断能力の高さなどが見事に調和して今の「世界に通用する強い錦織」を作り上げた。
ねちっこい基礎練習への拘りは精神鍛錬にも繋がる。元々繰り返すような練習を子供の時から最も嫌っていた錦織に反復練習を「強制」することでメンタルを強化。
「故障抱えてるのを言い訳にするな」「まだ才能に頼っている」「その身長で他の奴らと同じことやって強くなれるわけないだろ?」と言い訳できない状況に追い込んでトレーニングを重ねて来た。その他にも「練習2時間前に来てストレッチの時間を倍にしろ」などコーチの無茶振りは続いたが、これも頻繁に試合で負傷棄権していた数年前の錦織を思い出すとなるほど頷ける。
チャンがコーチについてからの錦織の躍進はご存知の通り、グランドスラムでは全豪4回戦、怪我の影響が深刻だった全仏は1回戦で落とすものの、続く全英4回戦、そして全米オープンでのファイナル進出。ATPツアーで4勝と大ブレイクを果たした。
試合の最中にチャンが錦織にかける言葉も自信を深めて来ている。「コートに入る時は相手に対するリスペクトは捨てろ」「勝手に自分で調子悪いと決めつけるな お前には勝つ力がある絶好調だ」と暗示のように勝者としてのメンタリティを植えつけ、それが世界ランキング1位のジョコビッチ相手でも発揮できるようになる。この暗示の中で彼はこれまで中々勝ちきらなかったゲームでも逆転する場面が増え、仮にブレイクされた場面でも冷静にブレイクバックできるような試合がどんどん増えて言った印象だ。
ただ、この大躍進、全米ファイナルをチャンはまだ通過点と考えいるようだ。全米の決勝戦でチリッチに敗戦し、落ち込んでいる錦織に「よくやった」と褒める一方で、「何も希望が見えない中でここまで来た」とまだ勝負は始まってもいないと鼓舞したという。
ATPワールドツアー・ファイナル=世界8強、この凄さがなかなか日本国内では伝わっていない印象だが、いよいよ錦織圭が世界のトップ選手の仲間入りした何よりの証拠といえる。いよいよ日本人初の四大大会制覇も夢ではない所まで来ているのだ。
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