そのミスキャンパスは、全くアピールをしてこなかった。
結城香織ちゃん、19歳。立教大学経済学部の2年生。現在、『ミス立教コンテスト2014』のファイナリストとして、11月の本選に向けてしのぎを削っている最中だ。
彼女に取材した10月のこの日も、他雑誌や媒体の取材も立て込む忙しいスケジュールの最中。票数を入れてもらうことがグランプリへの近道であるので、取材陣である僕らに対して、自分のとりえや面白ポイントをアピールしてもいいものだし、他大のミスキャンにはもちろんそういうコも多いし、それが悪いわけでも全くない。ただ、この結城香織ちゃんは一切そのアピールがゼロだった。
「なりたいものも、何もなくて......」
全体から漂う、野心ゼロの雰囲気。取材側の目を真っ直ぐ見てくるタイプと違い、ふわっと、空を見るような視線の動かし方。素朴な疑問がよぎる。なぜ、ミスキャンパスコンテストという競争のありそうなものに出場を決めたのだろうか?
「去年も誘われたけど、出なかったくらいで、ホントに出る気がなかったんです。でも私、サークルもバイトもしていないし、授業受けて帰ったらご飯を作る......みたいな大学生活だったんですよね。このまま何もしないままじゃ就職もヤバいなと思って。出たらなんとかなるかなとか思っちゃったんですよね(笑)」
と、割と消極的な理由に、かわいく笑いながら
「私、ホントこうやって取材とかされても、話すことがないんですよー。何もないんです」
という言葉が続く。ただ、それは、大人に対して緊張しているからアピールできない、とかいったそういう類のものではなかった。逆に、大人には慣れている雰囲気がするんだけど?
「ものごころついた頃から叔母とずっと一緒にいたんです。音楽の先生で、ピアノを教えてくれたこともあって、とても仲が良くて」
おおー、なんともジョン・レノンのようなエピソード!
「叔母が、同年代の人と食事に行ったりする場にも一緒に顔を出していたんですね。そうすると、周りの大人の人達とも話すようになっていって、それで大人と話すのは慣れているのかもしれません」
就職が不安って言っていたけど、大人と話し慣れしてると就活も有利だと思うよ!
「ありがとうございます(笑)。うーん、でも私、働ける気がしない......」
まあ、無理に働かなくてもいんじゃない、とダメ人間から悪い煽りをしてみると......!?
「いやいや、でも、お金はちゃんと稼がなきゃいけないんで働きます。私、5人兄弟の長女なんですけど、一番下の弟が障害をもっているんです。だから、お金もかかるから働かないと、と思って」
その瞬間、これまで、ふわっとしていた、彼女の目線がしっかりと定まって前を見た。ただ、彼女が今回ミスコンに出るという決意をした本質的な心の奥底の部分まで、いささか踏み込み過ぎた気もした。確認をとる。この話、書いても大丈夫?
「大丈夫です......けど、なんか、いやらしいアピールをしてるみたいですよね」
美談になりえること、すなわちアピールになってしまいそうなことを、逆に気にするという控え目さ。でも、こういうタイプのコが、意を決して、ちゃんと人前に立っているということに、大きな意味がある気がするのでした。
文・写真 霜田明寛
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