音楽のリリースの形態がCDといったいわゆる「フィジカル」から、配信やダウンロードなど「デジタル」などへの変化が進み、しかし一方ではレコードのプレス数が増加するなど、新たな転換期を迎えている音楽産業。その中で様々なアーティストやレーベルが、次の一手を探し、ブレイク・スルーの機会を狙っている。
ジャパニーズ・ヒップホップ・シーンにおいても、新宿を拠点にしたグループ:MSCの顔役として活躍し、最近では映画「TOKYO TRIBE」にも出演し、存在感を見せつける登場を果たした漢 a.k.a. GAMIが、自身の立ち上げた会社「鎖グループ」、そして傘下にレーベル「9SARI GROUP」と「BLACK SWAN」を立ち上げ、新たな展開を進めている。
彼らは東京は高田馬場に事務所、レコーディング・スタジオ、ショップ、カフェ(予定)など、複合した鎖オフィスを開設。「ヒップホップの生まれる/交わる/得れる場」をオープンな形で作り出している。それについて漢は「アンテナ・ショップ的、集合場所的な店ってあるんだけど、それってスゲェ大事なことだと思うんだよね。フッド感があって、集まる場になるような場所がオープンな形であれば、いろんな奴が繋がるし、そこでいろんな活性化が生まれると思うから」とオフィスの開設理由について話す。それは、勿論ビジネスの場であると同時に、この場からムーブメントを起したいという気概を感じさせる言葉であろう。
前述の「9SARI GROUP」は漢自身がヘッドを、そして「BLACK SWAN」はアーティスト活動は勿論、「クラブとクラブカルチャーを守る会」の広報や、一種のムーブメントとして大きな注目を集めている「BAZOOKA! 高校生ラップ選手権」のレフェリーも務めるダースレイダーがヘッドに就任。その意味では、漢/ダースレイダーの両者とも、アーティスト活動に加え、レーベル展開/会社運営/様々なネゴシエーションなどなど、多岐にわたる「仕事」をこなす、ハードワーカーである。
現状、9SARI GROUPには漢/D.O/HI-BULLET a.k.a. CORN HEAD/DOGMA/LORD 8ERZ a.k.a. DJ GATTEMの5組、BLACK SWANにはDARTHREIDER/GOKU GREEN/PONY/LIBRO/MSCの5組と、総勢10組のアーティストが所属。その中で、9月には漢が「9Sari」、ダースレイダーが「Reiders EP」をリリースし、新たなレーベルのスタートを切った。
漢の「9sari」は現状に至るまでの思いを描き、レーベル本格始動の幕開けに相応しい"oh my way"でスタートし、漢のリリックも一曲だろう。USのヴェテラン:FIENDの傘下や、漢らしいハードな側面を捉えた"my money long"、大きな注目を集めたLIBRA RECORDSとの決別を形にした"the first and the last diss song"などを収録。
一方、ダースレイダー「REIDERS EP」は、既発曲は「BLACK SWAN CASE#~~」と変化し、ほぼ新録と同じような構成になり、新たな彩りを見せる。D.Oを迎えた"HOOD TOOK ME UNDER"の強烈なリリックや、BLACK SWANレーベルの存在証明とも言えるラッパー:GOKU GREENの参加、そして新曲"死に損ないHIGH""REIDERS"などを収録。どちらの作品にも両レーベルからのアーティストが参加し、ある意味ではショー・ケース的な展開も感じる。
今後も毎月リリースを展開する両レーベル。そして「鎖グループはアーティストが儲かるシステムで動く」と、会社の設立会見で宣言した漢。その意味では、彼らの考える「ビジネスとしてのレーベル運営」という舵取りの向かう先はどこなのか、注目していきたい。
文/高木JET晋一郎
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