10月11日に行われたセ・リーグ、CSシリーズ・阪神×広島(甲子園)の初戦、広島・前田健太、阪神・メッセンジャーの両エースが投げあい、緊迫した投手戦が続く中、0対0で迎えた6回、1アウト走者なしの場面で打席に立ったのは、シーズン終盤に調子を上げ、この日、スタメン6番・右翼で出場していたベテラン・福留孝介(37)。福留は、カウント3-1で迎えた150km/hの速球を振りぬくと、均衡を破る値千金の一撃をバックスクリーンへ叩き込んだ。今にして思えば、球団創設以来、初めてCSを制し、日本シリーズへと駒を進めた阪神の快進撃は、この不屈のベテランが放ったホームランから始まったと言っても過言ではない。
【動画】http://youtu.be/1nb7Tqvp0kY
中日、米大リーグのシカゴ・カブス、クリーブランド・インディアンスと渡り歩いた男が、日本球界復帰の場所として阪神タイガースを選んだのは、2012年のオフのことであった。しかし、復帰初年度にあたる2013年は不振に苦しみ、わずか63試合の出場で、打率.198、本塁打6、打点31と、かつて2度の首位打者に輝いたスタープレイヤーとは思いがたい成績に終わり、心無いファンやマスコミからは、契約1年目にして「不要論」まで囁かれる始末であった。
そして、不退転の決意を持って望んだ今シーズン、福留は開幕3戦目の巨人戦で、不運にも、同じく大リーグからの復帰組であった西岡剛と激突事故を引き起こしてしまう。その際、自身も負傷したが、これを期に、チームの斬り込み隊長・西岡が長期離脱を余儀なくされたことから、マスコミやファンからはさらに容赦ないバッシングが相次いだ。以後、前出の衝突事故の際に負った傷の影響からか、なかなか調子が上向くことのなかった福留は、阪神移籍後、はじめて不調を理由に出場選手登録を抹消されるなど、絶えず苦しい局面に立たされ続けるのであった。
【動画】http://youtu.be/hmyjHsWPMaY
しかしその後、首脳陣からの期待に応える形で、徐々に本来の姿を取り戻しつつあった福留は、ようやくシーズン終盤に差し掛かり、チームの勝利に貢献する姿が目立ち始める。そして、その勢いのまま広島とのCS初戦に望むと、第1戦からいきなりの決勝本塁打。その後、4タテを目指して挑んだ巨人と のCS決戦においても、福留はマートンによる先制打の直後、ベテランらしく、間髪入れずに貴重な追撃弾を放つことで、試合の流れを大きく引き寄せることに成功している。
【動画】http://youtu.be/CI15Z2VF2cA
昨シーズンの低迷から、今シーズン、日本シリーズ進出を賭けたCSでの活躍に至るまでの間、福留を取り巻く境遇は、必ずしも好ましいものではなかったことだろう。しかし、プロというものは、いつでも無言の背中で語り、自身の活躍によって、その存在価値を証明していくもの。そうしたプロの野球人としての生き様を誰よりも理解し、寡黙に戦い続ける男だからこそ、福留は心無い野次やバッシングに腐ることなく、今日まで自身の復調とチームの勝利に、全身全霊を傾けていたに違いない。
チームを牽引し、CSファイナルを4連勝に導いた不屈のベテランが、日頃は胸に秘めたその闘志を全面に出しつつ、1985年以来の日本シリーズ優勝に向け、今、バッターボックスに向かおうとしている。
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