これを読んでる方の中にも、ブルーカラーな肉体労働、いわゆる3K(キツい・汚い・危険)な仕事をしている人がいらっしゃると思います。ナニを隠そう、これを書いてる僕も何度か肉体労働は経験してきました。
中でもショッキングだったのが地下鉄の線路にアナコンダみたいな極太電線を引く仕事。まず終電後に駅の改札で集まるんですけど、現場責任者に会って2秒で「マスク持ってきてないの? 死ぬよ」って超ぶっきらぼうに言われまして。なぜノーマスクが死ぬ理由になるのかはコワ過ぎて聞けなかったんですけど、なるべく呼吸をせずに朝まで仕事をしたのは今となってはイイ思い出。
で、今回ご紹介する『ファーナス 訣別の朝』の主人公ラッセル(クリスチャン・ベイル)も肉体労働者。彼の暮らす町はアメリカ北東部にあるペンシルバニアのブラドック。そこで暮らす男たちの主な働き口は製鉄所なんですね。なのでラッセルも例に漏れず溶鉱炉の炎にさらされる汗だくな日々。
そんなラッセルの家族は、病気で寝たきりの父親とイラク戦争帰りで傷心の弟ロドニー(ケイシー・アフレック)。共に目が離せない状況でありながらも、ラブラブな彼女の存在もあって、ギリギリな平穏を保てていた。と思っていたら、平穏な日常をブチ壊す事件勃発。ラッセルは飲酒運転で人身事故を起こしてしまい、刑務所送りに......。
それから5年。無事刑期を満了したラッセルに、ずいぶん変わり果てた現実が突きつけられる。父は死に、彼女は顔見知りの警官に寝取られていた。そんな中、弟ロドニーは兄に黙って町のワル(ウィレム・デフォー)とつるみ、ストリートファイトに出場中。ついには金欲しさがヒートアップし、山奥でヤクを密造売している危険な男デグロート(ウディ・ハレルソン)に試合を申し込みに行ってしまう......。
観ている最中は物事が一切好転しそうにない(褒め言葉です)見事なストーリー。それに、やたら男っぽい役どころの役者陣も豪華だし、寂れた工場や埃っぽい町並みなど味のあるロケーションも最高。というわけで、監督のスコット・クーパーが「ラッセルのように自分の仕事に誇りを持った労働者こそが僕にとってのヒーロー」と語っているとおり、全労働者におくる一級品のクライム・サスペンスに仕上がっております。
『ファーナス/訣別の朝』は9月27日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
文/市川力夫
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