8月27日、AKB48のメジャー37作目のシングル『心のプラカード』が発売された。さきに行われた総選挙で1位になった渡辺麻友がセンターを務めるこの曲。『恋するフォーチュンクッキー』と同じく、覚えやすい振り付けが印象的で、AKB48の公式YouTubeチャンネルではスタッフ陣が同曲の振付を踊った動画も公開されている。
【動画】http://youtu.be/6LCybuSKwTQ
今回振り付けを担当したのは、タレントとしても知られるダンサーのラッキィ池田(54歳)だ。AKB48系列グループの総合プロデューサーで作詞も担当している秋元康(56歳)とは同世代となっているが、この『心のプラカード』の制作にあたっては、彼らの世代、すなわち現在50代の人たちが喜びほくそ笑むような仕掛けが込められたと推測される。
そのキーとなるのは、1971年に発売された「クック、ニック&チャッキー」というグループによる和製ソウルの名曲『可愛いひとよ』(作曲:大野克夫、作詞:阿久悠)だ。同曲を一聴すればピンとくる人も少なくないだろうが、『心のプラカード』(作曲:板垣祐介)は、おそらく明確な意図のうえに同曲をオマージュして作られていると思われる。
【動画】http://youtu.be/JgC5A7UlSzo
『心のプラカード』のイントロには、「パイヤイヤイヤイヤイ」という擬音的なコーラスが入っているが、『可愛いひとよ』のイントロにも「ヤィヤヤィヤヤィヤィ」というコーラスが登場。コーラスの前にキャッチ―なホーンサウンドが入っている点も似ている。
また、歌い出し。『心のプラカード』は「こっち向いて」と始まり、『可愛いひとよ』は「可愛いひとよ ここへおいで」と始まる。内容や音節の数は若干違うものの、こちらも一聴すれば雰囲気が限りなく近いことが感じ取れる。
そして、振り付けだ。発売後、徐々に全国のディスコを席巻するようになった『可愛いひとよ』。当時のディスコでの遊び方は、現在のクラブのようにそれぞれが自由に踊るというよりは、みなが同じ振り付け(ステップ)を踊って楽しむというものだった。もちろん、『可愛いひとよ』にも振り付けは存在。遊び人たちはディスコに通い、こぞって覚えたようだ。
『心のプラカード』の振り付けでは、この世界観が再現されていると思われる。あれだけ大所帯で、テレビの音楽番組に出演する選抜メンバーでも16人いるAKB48だが、この曲の振り付けは全員が同じなのだ。『恋するフォーチュンクッキー』もそうだったが、よりシンプル化されていて、『心の~』ではそれぞれの立ち位置もほぼ変わることはない。つまり、当時のディスコの中の風景のように、遊びに来ている人たちが"今"いる場所でそれぞれ決まった振付を踊る様子を再現しているのではないだろうか。
ここまで書いたことはあくまで推測ではあるものの、『可愛いひとよ』が50代の人たちの心に今も深く残っていることは間違いなく、2008年にカバーという形でこの曲への愛情を示した有名アーティストがいる。それは、日本屈指のソウルR&Bボーカリスト・鈴木雅之(57歳)だ。
鈴木はこの年、『Martini Duet』というデュエットアルバムを発売。これに、「コック・マック&ノッキー」という変名で『可愛いひとよ』のカバーを収録したのである。これには鈴木の他に2人参加しており、"マック"は鈴木、"コック"はBro.KONE(ブラザーコーン、58歳)、そして"ノック"は、とんねるずの木梨憲武(52歳)だ。
この3人による『可愛いひとよ』は、音楽番組『ミュージックフェア』(フジテレビ系)で披露され、この時3人は70年代当時の振り付けを再現したパフォーマンスを見せた。
鈴木、ブラザーコーン、木梨、そしてラッキィ池田と秋元。5人とも50代だ。『心のプラカード』は、そんな50代の人たちが当時の記憶を少しでも蘇らせるように作られているのかもしれない。
文・宇佐美連三
■参照リンク
・心のプラカード STAFF Ver. / AKB48[公式]
http://youtu.be/6LCybuSKwTQ
・クック・ニック&チャッキー - 可愛いひとよ
http://youtu.be/JgC5A7UlSzo
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