多くの人に支持される小説を書くには、登場人物を魅力的に描くことも大事な要素でしょう。何も、完全無欠のヒーローや、類まれなる美貌の持ち主である必要はありません。むしろ、人間らしい弱さをもっていたり、いい加減さが見えたり、少し欠点があるくらいのキャラクターも好まれるはず。なぜなら、読者の共感を呼ぶからです。
脚本家である木皿泉氏の初の小説、『昨夜のカレー、明日のパン』には、そんな登場人物がたくさん出てきます。1話読み切りの話がまとめられて1冊になっていますが、それぞれの登場人物は中心人物となっている「ギフ」「テツコ」の二人と何らかの関わりをもっています。そのため1冊読み終えると、そういうことだったのか!と合点がいく構成で、読者にとってはうれしい仕掛け。そして、それが感動の余韻を引き起こす原因にもなっています。
今、最も本の売れ行きを左右するとも噂される番組『王様のブランチ』(TBS系)で紹介され、すでに同番組の「BOOKアワード2013」大賞を受賞した同作。さらに「本屋大賞」も受賞するかどうかは、微妙なところと言えそうですが、書店員が自信をもって推薦する本であることには変わりがありません。
物語の中心にあるのは、若くして急逝した一樹の妻・テツコと、一樹の実父であるギフの少し変わった同居生活。現実にはなさそうな設定なのに、こんな家族がいてもいい、いてほしいと読者に思わせてしまうのは、作者の愛情が注がれているキャラクターだからなのかもしれません。
一度読んでも、またいつかもう一度読みたくなるような物語。古本屋には売らずに自分の手元に置いておきたい作品です。
【書籍データ】
・『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉著 河出書房新社
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