今回は、書店で見かけることもあるけど、ちょっと敷居高くて読めねえな系二大巨塔である、この2誌をレビュってみました。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』(月刊)
ダイヤモンド社/定価2000円
『Think!』(季刊)
東洋経済新報社社/定価1890円
●メソッド誌ってなんだよ
えーと......まず、値段高い。高いっす。でもそれは当然でして、この程度の値段に躊躇するようなクラスの人は、まず読んでも意味がないのです。それは、最近の両誌の記事タイトルを見れば一目瞭然。
「ロレアル流グローバル・チームのつくり方」
「『夢の職場』をつくる6つの原則」
「世界の同族企業からしたたかさを学ぶ」
「真に偉大な企業が実践するシンプルな法則」
以上、『ハーバード・ビジネス・レビュー』
「抽象と具体をつなぐプロトタイピング」
「イノベーティブな組織を作り出すアイディア創発型ファシリテーション」
「組織の生産性を上げるハイコンテクスト・コミュニケーション」
「日本的感性に裏打ちされた"リーダーシップZEN"」
以上、『Think!』
......もう、すごいよね。この時点でお腹いっぱいだよ。ロレアルさんって誰だよとか、ZENってなんだよとか、質問する気力も失せる、圧倒的エグゼクティブ感と上昇志向に気圧されて、グゥの音も出ません。
で、おわかりかと思いますが、この2誌、完全に完全に(2回言いました)、上に立つ人のための本です。記事タイトルに「メソッド誌」と書きましたが、"メソッド"とは"方法"のこと。ただ"方法"と言っても、部長の決済をスムーズに取る方法とか、そういうちっこい話じゃありません。
社員の満足度を上げる方法。社員の能力を120%引き出す方法。もっとも効率的な人材の配分方法。企業が国際貢献する方法。――それを学術的かつ超ロジカルに、理論でご教示いただくわけです。
2誌とも、新商品とか、新サービスとか、最近元気のいい企業研究とか、そういう『ワールド・ビジネス・サテライト』的なシモジモの小っちゃい視点、ほとんどなし(私はWBS大好きです)。視点高っ、カリン様(『ドラゴンボール』より)のお住まい並みに高っ!
●社長しか読んじゃいけなかった――『HBR』
まずは『ハーバード・ビジネス・レビュー(以下HBR)』を読んでみましょう。これは1922年に米ハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として創刊された老舗雜誌の日本版。国際的な超有名コンサルティング会社やビジネススクール講師が書いた論文の邦訳が中心の内容です。
......って、論文? そう、論文です。マジでムズいです。10数年前に某国立大学の経済学部を出た程度の頭じゃ、半分もピンと来ませんでした。
で、ページめくればめくるほど、「これって社長とかCEOクラス、もしくはそのポジションを3年以内に狙ってる人しか読んじゃダメなんじゃねえのか感」に襲われます。伊勢丹メンズで1枚2万円以上のワイシャツを季節ごとに買い足すくらいのステータスじゃないと読者の資格ないのでは?と不安に思ったところで目に入ったのが、スイスの時計メーカー・ピゲの広告。すぐさま検索窓に「ピゲ 価格」と打ち込んで全てを納得し、静かに誌面を閉じた次第です。
●高級感ただようお召し物――『Think!』
『Think!』は「実践的ビジネストレーニング誌」と謳ってるだけに、もう少しワークショップ風。『HBR』が格調高い講演会場なら、こちらはコンベンションルーム的な感じですかね。意識高い系ビジネスマン以外は近寄らないという意味では、どちらも同じですが。
で、『HBR』を先に読んだせいか、なんだかほっとしました、『Think!』。デザインも広告業界誌っぽいテイストだし。出てるのは基本的に日本人ばかりだし。少し軽めのコラムや記事も入ってますし。社長だけじゃなくても読んでいいみたいです。
とはいえ、それって完全に『HBR』との相対的な話です。生米を口に頬張ったあとで、冷蔵庫に一晩入れといた茶碗の白飯を食べて「やわらかい」って言ってるのと同じ。一般的にはじゅうぶん上級者向きですからね、『Think!』も。誤解なきよう。
余談ですが、誌面に掲載されている経営者やコンサル系要職の方のお召し物がいちいち上質です。尋常でない「できるオーラ」を発してるピンストライプのスーツとか、丸洗いできなさそうなワイシャツとか。フェイス周りのグルーミングも完璧ですよ。「清・潔・感」を絵に描いたようにスタイリングされた若々しい短髪、ナチュラルに整えられた眉毛、テラっと光る血色の良い頬。これが「成・功・者」のご尊顔というやつです。
●2誌買うと3890円
というわけで、ほとんど内容レビューになってなくて申し訳ありません。とにかくAmazonの「よく一緒に購入されている商品」には高確率でこの2誌がペアリングされてますから、同じ属性のかたが購読されているのは確かです。ただまあ、2誌買うと3890円でして、筆者の溺愛する手羽先チェーン「世界の山ちゃん」なら、2時間ほど飲み食いしてもお釣りが来る価格でございます。
最後に、2誌がどんなシチュエーションで読まれるのが似つかわしいか考えたところ、「出張中の新幹線グリーン席で『HBR』を、土曜の午前中に自宅の書斎で『Think!』を読むのが正解」という結論に達しました。出張も書斎もない方は、迷わず世界の山ちゃんへGO!
(稲田豊史)
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