ぼく、相沢直は、お正月が苦手である。というと、語弊があるかもしれない。お正月ならではの雰囲気にみんなが盛り上がっている様子に水を差すつもりは一切なくて、単純に、お正月に集まってくる親戚と顔を合わせるのがしんどいのだ。
もともと対人コミュニケーションに難があるのだが、ある程度社会人経験も踏み、愛想笑いのスキルも成長した。ただ、それでも、親戚はしんどい。むこうからの距離感の近さがしんどい。空虚な会話でも続けなくてはならないという、暗黙のルールがしんどい。
だからぼくは、ある程度の挨拶を済ませ、二階の自分の部屋に引っ込んでいる。仕事があるのですみません、なんて嘘をつきながら。実際何をやっているかと言えば、横になって、スマートフォンで「モーニング娘。天気組オフィシャルブログ」を読んでいるのだった。
ふと、玄関が騒がしい。
「あけましておめでとうございます!」
少女の元気な声は、自分の部屋にも届いた。親戚のおばちゃん連中が、あらハルちゃんおめかしして、ハルちゃん大人になったねえ、なんてざわざわしてるから、その元気な声の主が誰だかはぼくにも分かる。
「直にいちゃん、いますか!?」
ドキッ。慌ててスマートフォンの電源を切る。机に向かい、仕事をしているフリ。ドタドタと、階段を上がる音が聞こえる。
「直にいちゃん、入るよっ!」
こちらの返事も待たずにドアが開かれる。
「おいハル、ノックぐらい......」
と言いながら見ると、晴れ着を来た彼女が立っている。いつもは少年みたいな彼女は、馬子にも衣装なんて言うと叱られそうだが、女性らしい美しさもちょっとだけ漂わせていた。
「久しぶり、直にいちゃん!」
彼女とぼくは、イトコの関係にあたる。昔から、直にいちゃん、直にいちゃん、と慕ってくれていた。でも、嬉しいじゃないか。真っ先にぼくに挨拶に来てくれるなんて、なかなか誇らしいものだ......と思ってたら、彼女は一言、
「じゃあ、直にいちゃん。お年玉ちょうだい!」
ったく。これだもんな。笑顔で両手を差し出す彼女は、ハルこと工藤遥。いま最も熱いアイドルグループであるモーニング娘。の最年少メンバーであり、2014年1月現在、日本で一番の美少女である。
(※注)本記事は個人の妄想を勝手に書き連ねたものであり、以下の写真は本文の内容とは一切関係ありません。
ハルこと工藤遥は、ぼくからお年玉の五千円をかっさらって、すぐに二人の弟くんたちと一緒に出かけて行ってしまった。このお年玉はハルと弟くんたちのぶんを合わせたものだからな、ときつく言い渡したので、弟くんたちのお菓子でも買いに行ったのかもしれない。ああ見えて、弟思いなのだ、ハルは。
一人部屋に残されたぼくは、横になって、工藤遥のことを考えている。
あの娘はすごい。14歳の彼女のことを、ぼくは尊敬している。決して体は丈夫ではない、というかまだ体が出来上がっていない年齢ながら、ハードなツアーで全力のパフォーマンスを披露する。今のモーニング娘。のダンスは相当な体力を要求されるはずだが、文句一つ言わずに日々自分を高めている。
それに彼女は、中学生なのだ。だから日曜日に公演が行われたら、翌日は学校に通わなくてはいけない。その努力はちょっと想像し得ないものがあるが、それでも彼女は辛さをおくびにも出さずに、日々人を幸せにしている。
彼女はいつだって、強くなろうとしている。優しくなろうとしている。モーニング娘。のメンバーであるという誇りを胸に抱いて。そんな彼女のことを観て、ぼくは思う。強さとは、強くなろうとする過程そのものであり、優しさとは、優しくなろうとする過程そのものなのだと。
ハルは、工藤遥は、14歳にしてそれを生き方で実践していて、彼女のその姿を観て、ぼくらはぼくらの生きるべき道を知るのだ。「自分を信じて行くしかない」。モーニング娘。がそうであるように、ぼくらもまた、愛の軍団の一員なのだから。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。遠くからハルの声が聞こえる。
「......にいちゃん。起きてよ、直にいちゃん!」
目を開ける。すぐ近くに、ハルの顔がある、というか近すぎる。きれいな二重。整った顔。真っ白な肌。慌てて顔を背ける。これ以上目を合わせると、もっと好きになってしまいそうだったから。
「だからハル、ノックぐらいしろって言ってんだろ!」
「はぁー!? ノックしたもん、ハル。寝てたから気付かなかったんでしょ? この、寝坊助にいちゃん!」
「寝坊助にいちゃん、って......」
と、改めて晴れ着姿のハルを見て、口ごもってしまう。
「......何ですか。直にいちゃん、急に黙っちゃって」
「......いや、まあ、何だ。ハル、お前、きれいになったなあ」
思わず本音を口に出すと、ハルは顔を真っ赤にして、照れを隠して怒り出す。
「バカッ! 直にいちゃんのイジワル!」
褒めたつもりだったのだが、工藤遥さまのお気には召さなかった様子で。きれいとか、可愛いとか言われると、未だにこうだ。こういうところは、まだまだ子どもなのだった。
「せっかく買ってきてあげたのに、もう知らないからねっ!」
と、ハルはぼくに何かを投げつけて、ドタバタと一階に降りて行った。ふと見ると、それはお守りだった。『商売繁盛』と書かれた裏に、うちのすぐそばの神社の名前が書かれている。部屋にまだ残っていたハルの弟くんがぼくに教えてくれる。
「それ、さっき貰ったお年玉で買ってきたんだよ。ハルねえちゃんが選んだの」
ったく。子どものくせに。自分が欲しいものを買えばいいものを、ハルはこういうところがある。だけど、お守りを選んでいるハルの姿を想像すると、思わず笑みがこぼれた。
「そっか。でも、お守り、五千円もしないだろ? お釣りで何か好きなものでも買ってもらったか?」
「ううん。ハルねえちゃん、お釣りは全部お賽銭に入れちゃってさ。直にいちゃんのお仕事がうまくいくように、ってお祈りしてたよ」
これだよ。昔からハルは、中途半端なところで妥協するってことを知らないのだ。モ
ーニング娘。での彼女のパフォーマンスや、そのプロ意識の持ち方がそうであるように、彼女はいつだって目一杯なのだ。工藤遥は、いつだって、そういう娘なのだ。
ぼくは弟くんの手を取って、部屋を出て、一階に降りる。「ありがとう」なんて直接言ったら、彼女は照れて、怒りだすだろう。だからその言葉は胸に隠そう。その代わり、ハルと弟くんを連れてお正月の街に繰り出して、好きなものでも買ってあげようと思う。
今年のお正月は、思いのほか出費が多くて困る。だけどまんざら、そう悪いお正月でもないのだった。
(相沢直)
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