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現実に潜む紙一重をめぐる白石和彌監督の挑戦 映画『凶悪』をめぐる、3つの「境界線」

2013/09/27 10:30 投稿

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Filed under: 国内, カルチャー, 映画, アフター5, トピックス
【連載】
真実の先にあるもうひとつの闇を・・・ 映画『凶悪』の挑戦(第三回)


かつて先生と呼んで慕ったビジネスパートナーが生きていることが許せない死刑囚。告発を受け取材を始める記者。3人を軸に、映画『凶悪』には、善良な人々が多数登場する。記者の妻に池脇千鶴、家長である父親の殺しを依頼する家電店の妻に白川和子、その息子に廣末哲万。『凶悪』スペシャル最終回は、人々に潜む凶悪さを追う。

参考:
『凶悪』スペシャル連載第一回
『凶悪』スペシャル連載第二回

白石和彌監督
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一回り大きなミステリーにするための参考作品は『母なる証明』だった。

「『凶悪』は一見クライム・ミステリーに見えるかも知れませんが、冷静に読み解くとミステリー要素はゼロなんです。全ては須藤が言っている告発の確認作業でしかない」と語り始めた白石監督。死刑囚と記者が面会し、告発を裏付ける取材を始める前半は、ミステリー仕立てにしたという。
そして、『母なる証明』を参考作品として、もうひとつの味付けを加えることを目指した。「告発を裏付ける取材だけでは成立しないので、後半は「"凶悪"という存在は何なのだろう」という別のミステリーにしました。参考にしたポン・ジュノ監督の『母なる証明』では、ウォンビン演じる無実の息子を信じる母親が真犯人を捜すのですが、途中から犯人捜しはどうでもよくなって、母親という存在って何なのだろうという問いかけに変わります」

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真実の先に潜む"凶悪さ"とは何か。

『凶悪』は一筋縄では行かない。単に凶悪な所作を行った人物たちを描くだけでなく、観客である我々をも含めて、善良と思われている人々の中に潜む"凶悪さ"に踏み込んで来るからだ。
原作では描かれないジャーナリストの日常もそのひとつ。妻と、痴呆の母と三人で暮らす記者は、取り憑かれたかのように取材を続ける。だが、母を介護する妻の日常は変わらずに繰り返される。ある日、症状が進む母を叱る義娘に呆けた母は手を上げる。その瞬間を目にした夫は「忙しいから」と重い資料を抱えて自分の部屋に逃げ込んでしまう。

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多額の借金を抱えた父親を持て余す家族。家電店経営では借金は減らない。生活に窮した彼らの前に、保険金に目を付けた男が現れ、保険料振込の肩代わりし、酒好きの父親を預かると申し出る。その時、家族はどうするのか。

人々の内面、真実の先にあるもうひとつの「闇」とは。白石が目指したのは、「『藤井が事件の本質を追いかけるミステリーから、本人が事件に取り憑かれ、やがては"凶悪さ"や人間の本質を問う、もう一回り大きなミステリーに持っていけないか」という挑戦だった。

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完成した『凶悪』から見えてきたこと。そして、白石和彌のこれから。

完成した『凶悪』を、師である若松孝二監督が観たとしたらと話を向けると、「まず長いって言うんじゃないですかね。そして『まだまだだな』って...」と屈託なく笑う。
完成した自分の作品と向き合って、「救いのない映画にはなると思っていたし、実際そうだった。よくこんなにエッジの効いた作品を撮らせてもらえたという思い、自分自身やったぞという感慨もありました」と率直に語る。
そして3ヶ月後に見直し、捉え方に変化があったという。「意外ですが、救いがない感じがしなかった。これだけの経験をした藤井は、ジャーナリストとしても、家庭人としても一歩前に進めたのではないか」と思えた。
初体験となるローカルキャンペーンを経験し、「助監督の時は"映画を作る"ことに一生懸命でしたが、"映画を届ける"興行や宣伝を、改めて若松監督に教えてもらった」気がしたという。

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最後にこれからについて尋ねると、「単純に面白い映画を撮りたい。社会派と言われていますが、面白いものを作るために人を掘り下げていけば自然と社会を描くことになる」と潔い言葉が返ってきた。
今後もストイックな作品を撮り続けるに違いない白石和彌のこれからに期待しよう。そのためにも『凶悪』は観逃すべきではない。

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映画『凶悪』は、新宿ピカデリー他、全国で公開中!

写真:(C)2013「凶悪」製作委員会

【参照リンク】
・『凶悪』公式サイト
http://www.kyouaku.com/

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