Amy Harris/Invision/AP
8月21日、ヒップホップ歌手エミネムのパブリッシャーEight Mile Styleが、Spotifyを相手取り、連邦裁判所に訴訟を起こしました。理由は数百曲におよぶエミネムの楽曲を適切なライセンスを得ずにストリーミングしたから。エンタメ系ニュースサイトThe Hollywood Reporterが入手した訴状のコピーによれば、Spotifyはエミネムの作品に関するライセンスを持っていないにも関わらず、これらの作品を数十億回もストリーミングし、適切な支払いではなく何らかの基準によるランダムな金額をEight Mile Styleに送金したとのこと。

またこの訴訟では、Spotifyが著作権者不明な楽曲をストリーミングするための「Copyright Control」と呼ばれるカテゴリーに、エミネムの代表曲とも言える『Lose Yourself』を含む楽曲を入れていたとも述べられています。『Lose Yourself』はエミネムが主演した映画『8マイル』の主題歌で、Billboard Hot 100で12週連続1位、グラミーを2部門受賞した超有名曲です。

Spotifyのチャートデータを見ても、エミネムはブルーノ・マーズ、コールドプレイ、テイラー・スウィフトらに匹敵する再生回数を叩き出しており、いくらなんでも音楽ストリーミングの代表格であるSpotifyがそのアーティスト、および楽曲を知らなかったとは思えません。

トランプ大統領がこれまでに残した数少ない功績とも言われるのが、音楽近代化法(Music Modernization Act:MMA)の成立。これは音楽制作者が本来得られるべき収益を確実に手にするための法律です。

MMAでは、音楽ストリーミングに関するライセンス契約と印税規約を時代に即したものとし、著作権所有者への支払いを効率的に実施できるように定められています。また、著作権所有者が不明な楽曲においてはそれを「Copyright Control」カテゴリーに置くことで、なかなか流通させられなかった音楽作品のライセンスを得られるようにする仕組みが組み込まれています。

Spotifyがなぜこの「Copyright Control」にエミネムの『Lose Yourself』を入れたのかはわかりません。仮にSpotifyの担当者がたまたまエミネムを知らなかったとしても、ググればすぐにエミネムのことは調べられたはず。MMAでは「Copyright Control」カテゴリーに楽曲を入れる前に、その曲について誠実に調査をすることが定められています。

訴訟は、MMAそのものに違憲性があるとも指摘します。というのも、MMAは著作権所有者が利益、法定損害賠償および弁護士費用を回収するための遡及的な訴えを禁止し、実質的にMMA施行前に発生した侵害でストリーミング会社などを訴えられなくする免罪符になるから。これがアメリカ合衆国憲法修正5条の一部条項に違反していると考えられるとのことです。

Eight Mile Styleは、Spotifyに対し損害賠償として数十億ドルを求めています。しかし、法定損害賠償の最大額は楽曲あたりの賠償額 x 曲数で算出され、3645万ドル(約39億円)になると予想されるため、勝訴したとしても賠償額は請求に遠く及ばない可能性があります。

もし訴えのように、エミネムのような大物アーティストですらSpotifyのようなメジャーな音楽ストリーミング企業から本当に本来得るべき収益を詐取されているのだとすれば、その他の大物から小物まであらゆるアーティストたちのライセンスと収益の扱いはいったいどのようになっているのかが非常に疑問に思えて来るところです。

MMAの恩恵を最も受けているのは3大メジャーレーベルだとも言われており、これらレーベルはいずれもSpotify株を一部所有しています。音楽制作者のための法律であるはずのMMAによって、支払われるべき収益が音楽制作者に渡っていないのなら、それはなんとも皮肉な話です。なお記事執筆時点では、The Hollywood Reporterの報告に対するSpotify側のコメントなどはまだ伝わってきていません。

ちなみに、Eight Mile Styleは過去にもiTunesにおけるエミネム作品のダウンロード販売に関し、適切なライセンス取得が行われていないとして米AppleとAftermasth Recordsを訴えたことがあります。

この記事はEngadget 日本版からの転載です。

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