ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の約90人の記者が選ぶゴールデン・グローブ賞は、受賞者を予想するのがなかなか難しい。


1月9日(日本時間)に開催される今年の第74回ゴールデン・グローブ賞授賞式について現時点で確かに言えるのは、長年にわたる気品とユーモアを評価されたメリル・ストリープがセシル・B・デミル賞を受賞するということだけだ。

とはいえ、以下の主要部門の受賞者について、かなりの自信を持って予想することはできる。同時に、実際に受賞にふさわしいと思われる作品・俳優についてもご紹介していきたい。

ドラマ部門 作品賞

今年のノミネート作品は、残酷な第二次世界大戦のドラマであるメル・ギブソン監督『HACKSAW RIDGE』(原題)や、差し押さえの危機をきっかけとした犯罪ドラマ『最後の追跡』、5歳の時に家族とはぐれたインド人青年が20年にわたり両親を探し求める伝記映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』など、悲劇的な内容を扱った作品が多い。

どれも価値のある作品だが、この部門は『ムーンライト』(アフリカ系アメリカ人の青年がマイアミの麻薬に侵された環境の中で成長する物語)と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(兄の死後の事態を収拾するアイルランド系アメリカ人男性についての家族ドラマ)の一騎打ちだ。

受賞しそうな作品:『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は5部門、『ムーンライト』は6部門でノミネートされているが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の方が、キャストの知名度(ケイシー・アフレックやミシェル・ウィリアムズ)と興行収入(現在までで約3,000万ドル<約35億円>、『ムーンライト』は約1,300万ドル<約15億円>)の点で上回っており、優勢だ。そして、重視されるべき点ではないのだが、『ムーンライト』は貧困、黒人、ゲイの主人公の物語なので、ゴールデン・グローブ賞の投票者の共感を得にくい可能性もある。

受賞すべき作品:どちらの作品も強烈な体験を描いているが、『ムーンライト』には映画として何か全く新しいものを感じる。そして、暗くなりがちなテーマを扱っているにもかかわらず、強い叙情性と詩情を備えている。

コメディ/ミュージカル部門 作品賞

この部門は軽く捉えられることが多い。アカデミー賞にノミネートされなさそうな作品であれ、パーティー形式の授賞式により多くのスターを集めようとHFPAが追加した映画として。

しかし今年は、この部門にアカデミー賞の有力候補である『ラ・ラ・ランド』と、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』がノミネートされている。後者は、主演のメリル・ストリープが20回目のアカデミー賞ノミネートを記録する作品となるかもしれない。『デッドプール』が認められているのも喜ばしい。また、音楽映画『シング・ストリート 未来へのうた』と家族コメディードラマ『20TH CENTURY WOMEN』(原題)はあまり見られていない作品であるが、今回のノミネートを機会にもっと注目されるようになれば素晴らしい。

受賞しそうな作品:『ラ・ラ・ランド』が圧倒的に優勢だ。

今年のゴールデン・グローブ賞で最もノミネート数の多い映画であり、ロサンゼルスとショービジネスを賛美した作品として、ハリウッドのHFPA会員にまさに訴えかけるものがある。

受賞すべき作品:『ラ・ラ・ランド』。評論家も一般鑑賞者も、理由があってこの作品に夢中になっている。

ドラマ部門 男優賞

アンドリュー・ガーフィールドとジョエル・エドガートンがそれぞれ、世に知られていないものの重要な実在の歴史的人物を『HACKSAW RIDGE』(原題)と『ラビング 愛という名前のふたり』で好演。ヴィゴ・モーテンセンは、『はじまりへの旅』の中でヒッピー風の父親役を演じ、いつもの激しさを見せている。しかしこの部門は、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレックと、奮闘するごみ収集人を演じてトニー賞を受賞した役に再挑戦している、『FENCES』(原題)の監督兼主演デンゼル・ワシントンの一騎打ちだ。

受賞しそうな俳優:数々の受賞歴を持つワシントンが勝つのでは意外性がないというだけの理由であっても、アフレックのパフォーマンスの方が投票者に強い印象を与えていると思われる。アフレックは繊細な演技を見せた今回の役でスターの仲間入りを果たした。これは、ベン・アフレックの弟であるケイシー・アフレックが20年間待ち望んでいたことであり、投票者は、彼にとって最初のメジャーな賞をHFPAが授与したいと考えるだろう。

受賞すべき俳優:監督ワシントンは俳優ワシントンの作品を披露する上で最高の仕事をしたとはいえないものの、これは後世に伝えられるパフォーマンスである。

ドラマ部門 女優賞

SFヒット作『メッセージ』のエイミー・アダムス、政治ドラマ『MISS SLOANE』(原題)のジェシカ・チャステイン、ポール・ヴァーホーヴェン監督のスリラー『ELLE』(原題)のイザベル・ユペールがノミネートされるなど、赤毛の女優たちにとって良い1年であった。対するは、歴史ドラマの『ラビング 愛という名前のふたり』、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でそれぞれ主演した、ルース・ネッガとナタリー・ポートマンだ。

受賞しそうな俳優:深い悲しみに襲われたジャッキー・ケネディを演じたポートマンが、ほぼ受賞確実だ。

受賞すべき俳優:ユペールは40年にわたりフランス映画界の大物女優として活躍している。特に、ポートマンの演じた、時にいらいらするほど不可解なジャッキーを考えると、多くの評論家が「ユペールのキャリアの金字塔」と評価するパフォーマンスに対して栄誉が授けられれば素晴らしい。

監督賞

今年再び、メル・ギブソンが受賞シーズンの栄誉を手にするかもしれない。しかし、『HACKSAW RIDGE』(原題)は芸術面と商業面の両方で成功しているものの、評論家により好まれがちだった作品の監督たちと接戦の様相である。『NOCTURNAL ANIMALS』(原題)のトム・フォード、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケネス・ロナーガンなどだ。優勢なのは、評論家に最も強い印象を与えた、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルと『ムーンライト』のバリー・ジェンキンズである。

受賞しそうな監督:チャゼル。壮大な野心的プロジェクトを掲げ、技術的にもほとんどの面で実際うまくやり遂げている。

受賞すべき監督:ジェンキンズ。さらに型破りな物語を見事に成功させている。


第74回ゴールデン・グローブ賞授賞式は、日本時間の9日(月)に海外ドラマ専門チャンネル「AXN」で生中継される。放送スケジュールの詳細は公式サイトをご確認頂きたい。

注目のノミネート一覧は以下をどうぞ。

【映画の部】

ドラマ部門 作品賞
「HACKSAW RIDGE」(原題)
「最後の追跡」
「LION/ライオン ~25年目のただいま~」
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
「ムーンライト」

コメディ/ミュージカル部門 作品賞
「20TH CENTURY WOMEN」(原題)
「デッドプール」
「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」
「ラ・ラ・ランド」
「シング・ストリート 未来へのうた」

監督賞
デイミアン・チャゼル 「ラ・ラ・ランド」
トム・フォード 「NOCTURNAL ANIMALS」(原題)
メル・ギブソン 「HACKSAW RIDGE」(原題)
バリー・ジェンキンズ 「ムーンライト」
ケネス・ロナーガン 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

ドラマ部門 男優賞
ケイシー・アフレック 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
ジョエル・エドガートン 「ラビング 愛という名前のふたり」
アンドリュー・ガーフィールド 「HACKSAW RIDGE」(原題)
ヴィゴ・モーテンセン 「はじまりへの旅」
デンゼル・ワシントン 「FENCES」(原題)

ドラマ部門 女優賞
エイミー・アダムス 「メッセージ」
ジェシカ・チャステイン 「MISS SLOANE」(原題)
イザベル・ユペール 「ELLE」(原題)
ルース・ネッガ 「ラビング 愛という名前のふたり」
ナタリー・ポートマン 「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」

助演男優賞
マハーシャラ・アリ 「ムーンライト」
ジェフ・ブリッジス 「最後の追跡」
サイモン・ヘルバーグ 「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」
デヴ・パテル 「LION/ライオン ~25年目のただいま~」
アーロン・テイラー=ジョンソン 「NOCTURNAL ANIMALS」(原題)

助演女優賞
ヴィオラ・デイヴィス 「FENCES」(原題)
ナオミ・ハリス 「ムーンライト」
ニコール・キッドマン 「LION/ライオン ~25年目のただいま~」
オクタヴィア・スペンサー 「HIDDEN FIGURES」(原題)
ミシェル・ウィリアムズ 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

脚本賞
デイミアン・チャゼル 「ラ・ラ・ランド」
トム・フォード 「NOCTURNAL ANIMALS」(原題)
バリー・ジェンキンズ 「ムーンライト」
ケネス・ロナーガン 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
テイラー・シェリダン 「最後の追跡」

作曲賞
ニコラス・ブリテル 「ムーンライト」
ジャスティン・ハーウィッツ 「ラ・ラ・ランド」
ヨハン・ヨハンソン 「メッセージ」
ダスティン・オハロラン、ハウシュカ 「LION/ライオン ~25年目のただいま~」
ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムス、ベンジャミン・ウォルフィッシュ 「HIDDEN FIGURES」(原題)

主題歌賞
「キャント・ストップ・ザ・フィーリング! 」 「TROLLS」(原題)
「シティ・オブ・スターズ」 「ラ・ラ・ランド」
「フェイス 」 「SING/シング」
「GOLD」 「GOLD」(原題)
「HOW FAR I'LL GO」 「モアナと伝説の海」

アニメ作品賞
「KUBO AND THE TWO STRINGS」(原題)
「モアナと伝説の海」
「MY LIFE AS A ZUCCHINI」(原題)
「SING/シング」
「ズートピア」

外国語映画賞
「ディヴァイン」(フランス)
「ELLE」(原題)(フランス)
「NERUDA」(原題)(チリ)
「THE SALESMAN」(原題)(イラン/フランス)
「TONI ERDMANN」(原題)(ドイツ)


【テレビの部】

コメディ/ミュージカル部門 作品賞
「ATLANTA」(原題)
「BLACK-ISH」(原題)
「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」
「トランスペアレント」
「Veep/ヴィープ」

リミテッドシリーズ/テレビムービー部門 作品賞
「アメリカン・クライム」
「THE DRESSER」(原題)
「ナイト・マネジャー」
「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」
「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」

コメディ/ミュージカル部門 男優賞
アンソニー・アンダーソン「BLACK-ISH」(原題)
ガエル・ガルシア・ベルナル「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」
ドナルド・グローヴァー「ATLANTA」(原題)
ニック・ノルティ「GRAVES」(原題)
ジェフリー・タンバー「トランスペアレント」

コメディ/ミュージカル部門 女優賞
レイチェル・ブルーム「クレイジー・エックス・ガールフレンド」
ジュリア・ルイス=ドレイファス「Veep/ヴィープ」
サラ・ジェシカ・パーカー「Divorce/ディボース」
イッサ・レイ「INSECURE」(原題)
ジーナ・ロドリゲス「ジェーン・ザ・ヴァージン」
トレイシー・エリス・ロス「BLACK-ISH」(原題)

助演男優賞
スターリング・K・ブラウン「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」
ヒュー・ローリー「ナイト・マネジャー」
ジョン・リスゴー「ザ・クラウン」
クリスチャン・スレイター「MR. ROBOT / ミスター・ロボット」
ジョン・トラヴォルタ「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」

助演女優賞
オリヴィア・コールマン「ナイト・マネジャー」
レナ・ヘディ「ゲーム・オブ・スローンズ」
クリッシー・メッツ「THIS IS US」(原題)
マンディ・ムーア「THIS IS US」(原題)
タンディ・ニュートン「ウエストワールド」

リミテッドシリーズ/テレビムービー部門 男優賞
リズ・アーメッド「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」
ブライアン・クランストン「オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男」
トム・ヒドルストン「ナイト・マネジャー」
ジョン・タトゥーロ「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」
コートニー・B・ヴァンス「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」

リミテッドシリーズ/テレビムービー部門 女優賞
フェリシティ・ハフマン「アメリカン・クライム」
ライリー・キーオ「ガールフレンド・エクスペリエンス」
サラ・ポールソン「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」
シャーロット・ランプリング「ロンドン・スパイ」
ケリー・ワシントン「アニタ ~世紀のセクハラ事件~」

■参照リンク
海外ドラマ専門チャンネル「AXN」
http://axn.co.jp/
https://www.moviefone.com/
RSS情報:http://news.aol.jp/2017/01/07/goldenglobes/