世界中に熱狂的なファンを持つ日本の名匠・黒沢清監督が初めて作り上げたフランス映画『ダゲレオタイプの女』。世界最古の写真撮影方法"ダゲレオタイプ"の写真家・ステファンのアシスタントになった青年・ジャンを主人公に、芸術と愛情を混同したステファンのエゴや、彼の犠牲になる娘のマリーに対しジャンが募らせる恋心、さらに、自ら命を絶ったステファンの妻の幻影などが複雑に絡み合うホラー・ラブロマンスだ。
主演をつとめたのはジャック・オディアールやロウ・イエら名だたる巨匠映画監督の作品に主演してきた気鋭のフランス人俳優タハール・ラヒム。もともと日本文化に造詣が深い彼は、映画祭で出会った黒沢監督に、直接、映画出演の意思をぶつけたという熱心な黒沢ファンだという。そんなラヒム氏に黒沢作品に出演することになった喜びや初来日の感想をうかがった。
--もともと監督のファンだったとのことですね。
『CURE』、『叫』、『回路』、『贖罪』、『トウキョウソナタ』、『岸辺の旅』を観ました。中でも一番好きなのは、『叫』です。
--そんな黒沢監督の作品出演が決まったとき、どう思いましたか?
とても嬉しかったです。そして運命のようなものを感じました。大学の映画の授業で勉強していた黒沢監督から電話があって、「僕の映画に出ないか?」と言われたわけですからね。初めは、「日本で映画を撮るのかな」と思って期待したのですが、フランスでの撮影となりました。
--今回一緒にお仕事をされて、黒沢監督の才能や人となりをどのように感じられましたか?
黒沢監督の才能は、数え切れないほどたくさんあります。素晴らしいストーリーテラーであること、スピーディーに、絵画のように素晴らしい映像を作り上げることです。監督はとても穏やかで、周りの人にも敬意を払う方です。感じが良い方ですし、ある種の神秘性のようなものを持っています。
--黒沢監督は「夢のような時間だった」と撮影を振り返られていましたが、現場の雰囲気はいかがでしたか?
撮影は、私にとっても本当に良い時間でした。スタッフも俳優も本当に良い人ばかりで、私たちは毎日楽しく撮影を行っていましたし、とても上手くいったと思います。楽しいときはやはり時間の流れ方が違いますね。この現場は楽しく、まるで学校の休み時間にいるような感覚でした。
--ラストシーンのラヒムさんの表情が印象に残りました。ラヒムさんご自身がベストアクトだと思うシーンや、好きなシーンはありますか?
私がこの映画の中でいちばん難しかったシーンが、まさにラストのシーンです。主人公のジャンは幻覚を見ているのか現実にいるのか、そして観客にはヒロインのマリーが見えているのに、自分には見えないのか。このシーンを演じるにあたって、たくさんの疑問が頭の中にありましたし、「これだ」という答えはありませんでした。だから、あくまで演技は私がその場で直感的に行ったものです。 私が素晴らしいと思っているのは、マリーが岸辺に現れるシーンです。まるで蛍がそこに現れるかのようで、とても美しいシーンです。黒沢清監督はCGを使わずに照明だけであのシーンを撮っています。本当に素晴らしいシーンです。
--主人公のジャンや写真家のステファンは、私利私欲に走ったり、他人にエゴを押し付けたりします。この映画では、出てくるキャラクターの弱い部分がかなり描かれていますよね。
登場人物が不完全な人間であることは幸運なことだと思います。なぜなら完全な人間というのは退屈だからです。人間には良いところも悪いところもあって、そういう複雑性があるからこそ、観客の方も(自分と)同一視することができます。とにかく、完璧な人間は退屈以外の何物でもないと思います。
--対照的に、マリーは美しい存在として描かれているようにも思います。マリーを演じたコンスタンス・ルソーさんに影響を受けたことはありますか?
彼女自身が幽霊のようなところがありました。たとえば彼女の目。とても個性的です。彼女の中の幽霊のような要素は私が演技をする上で良かったです。なんだか、陶器の人形を前にしているような感覚になる、そういう個性的な方だと思います。
--日本のカルチャーについて詳しいとのことですが、黒沢監督以外の好きな映画監督や、好きな漫画は何ですか?
映画監督でいうと深作欣二監督です。特に『現代やくざ 人斬り与太』、『カミカゼ野郎 真昼の決斗』が好きです。他には、北野武監督、黒澤明監督、是枝裕和監督、河瀨直美監督たちの映画が好きです。漫画だと、「デスノート」、「MONSTER」、「北斗の拳」、「聖闘士星矢」、「シティハンター」などです。漫画に関してはたくさんフランスで流通しているので、好きな作品がいっぱいあります!
--本当に日本のカルチャーがお好きなのですね! 初来日ということですが、ゴールデン街にも遊びに行かれたとうかがいました。いかがでしたか?
とても気に入りました! せっかく東京に来ているのにホテルの部屋にいるのは残念ですし、親しい友人に「とてもいいところだから行ってみて」と勧められたので行ってみたのです。小さなバーがたくさんあって、天井の低い狭いところに色々な国の人たちが来ていました。日中は仕事が多く自由時間がなかったので、夜に出かけてみました。
--では、日本をもっとよく楽しんでもらうためにも、ぜひ今度は日本で撮影する日本の作品のために来日していただきたいです。
私もそういう映画のオファーを待っているところです!(笑)
映画『ダゲレオタイプの女』は10月15日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテほか全国公開
(C)FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS - LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinema
■『ダゲレオタイプの女』公式サイト
bitters.co.jp/dagereo/
■リンク
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