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いきものがかり・水野良樹単独インタビュー デビュー10周年を迎えて初めて明かされたストーリー

2016/09/21 17:00 投稿

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いきものがかりが今年、デビュー10周年を迎えた。3月にベストアルバム『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』を発表した彼らは、地元・神奈川県海老名、厚木での4日間(8/27・28、9/10・11)に渡る凱旋ライブの開催を発表。実に10万人にも及ぶ観客を動員し大成功を収めている。......と、これだけでも十分話題性のあるトピックではあるが、ファンと世の中をより驚かせたのは、8月下旬、32枚目のシングル「ラストシーン/ぼくらのゆめ」(両A面)をリリースした直後に発表された、リーダー・水野良樹氏による自伝『いきものがたり』(Amazon・J-POPカテゴリ1位獲得)のインパクトだったのかもしれない。そんなわけで今回は、その気になる自伝本と前述の最新シングル、そしてデビュー10周年を迎えたいきものがかりについて伺うべく、水野氏に単独インタビューを試みた。


――まず、自伝を出すことになった経緯からお伺いさせてください

3月にデビュー10周年を迎えてベストアルバムを出すことが決まっていたので、少しでもそれを盛り上げるような企画を何かやりたいって思って、ずっとTwitterの個人アカウントで、これまでのいきものがかりを振り返るエピソードをつらつらと呟いてたんです。ちょっとでも僕たちに興味を持ってもらえたらなって思いで。そしたら小学館の編集者の方から、まあ、その方は僕の高校の先輩でもあるんですけど、本出してみないかってお声掛けを頂いて。

――そうだったんですね。実際にそのお話を受けてどう思いましたか?

これまで僕たちは、曲だけが聴いてくれる人の元に届けばいい、作ってる人間と歌ってる人間が曲と紐付くことで聴き手の解釈を狭めてしまうのは避けたいって思ってた部分があって。曲がより遠くへ届くようにと、自分たちのことは敢えてあまり喋らないようにしてきたんです。だけどこの本に関しては、自分たちのことを振り返るっていう、要はこれまでとは真逆のことをしてるわけなんですよね(笑)。まあ、でも10周年っていうことで、それも許してもらえるのかなと。本を読んで頂くことで、いきものがかりのストーリー自体もひとつの作品として楽しんで頂けたら嬉しいなと思いました。

――Twitterに書かれた文章を拝見しましたが、膨大なテキスト量に驚きました。あれだけでも読み物として面白いと思いましたが、実際の本は450ページもある力作なんですよね。

本はTwitterの文字量の倍以上あります(笑)。去年10月から呟き始めたんですが、こんなに長いこと続けるなんて思ってなくて。当初はベストアルバム発売のタイミングで完結させるはずだったんですが、全然終わらないっていう(笑)。書き出すと止まんなくて、中々デビュー当時の話まで辿り付けませんでした。すごく時間がかかっちゃいましたね。

――AmazonのJ-POPカテゴリ1位になってましたね! 率直にどう思いました?

そんなカテゴリがあること自体初めて知りましたけど(笑)、やっぱり嬉しいですね。CDはこれまで何十枚と出してきたけど、本を出すのは初めてじゃないですか。周りから本の感想を頂けるのがすごく新鮮でした。それに、本屋で自分の本が並んでるのってなんか不思議な感じで。初めて自分たちのCDがショップに並んでるのを見た時の、嬉しいけどなんだかちょっとこっぱずかしい感じを、久しぶりに思い出しましたね。

――もともと文章を書くのは好きだったんですか?

嫌いではないですね。インディーズ時代はチラシやパンフレットも自分たちで作ってたんですが、そのテキストは僕が書いてましたし、文章を書くことを苦に思ったことはないです。まあ、作詞するのとは全然違う感覚ですけど。

――本を出してみて、今後も執筆活動やってみたいっていう風にはなりませんでした?

いや~、僕の場合は単に今まであったことを書いてるだけなんで。今はいきものがかりの歩んできた道や自分の経験してきたことを、皆さんに知って楽しんでもらえればって思ってるだけです。今後さらに10年、20年経ってまだグループが続いてたら、今回の続編が出るかもしれませんけど(笑)。

――それでは、デビュー10周年を迎えたいきものがかりに関してお伺いさせてください。ありがちな質問かもしれませんが、この10年で変わったものと変わらないものはなんでしょうか?

メンバー3人、そして僕たちの関係性に関しては変わってません。大きく変わったのは周りにいる人の数ですね。本にも書きましたけど、デビューが決まった瞬間なんて、周りにいたのはマネージャーと宣伝担当のスタッフ数人だけ。それが今では、ライブをやるとなれば100人以上のスタッフがいるんですから、すごいことですよね。それに、これまで音源に参加してくださったミュージシャンの数も凄まじいです。自分たちの活動に手を貸してくれる人たちの数は、10年前と比べ物にならないくらい増えましたね。僕たち3人だけのグループじゃないんだなと、より意識するようになりました。

――ちょうど2006年は音楽業界の当たり年と言われていて、今年10週年を迎えるアーティストって結構多いんだとか。確かにその当時のシーンは華やかだった印象が強いですが、水野さんは10年前と比べて今のシーンはどのように変化したと感じていますか?

僕が青春時代を過ごした2000年位までは、CDバブルでヒットチャートがキラキラしていた頃なんですよね。で、今思うと僕たちがデビューした当時って、そこまでじゃないにしても"最後の残り火"みたいなものはあったのかなと。そこから10年が経って、仮に今いきものがかりがデビューしてたらヒットしたか微妙だったと思うし、単純にCDが売れなくなってきたという側面から見ても、厳しい時代になってきたと言えるのかもしれません。でも2010年代から面白いものが出てきてるのは確か。若い世代が僕たちとは違うフィールドで自分たちの城を築き始めてて、ネットがあることが当たり前な、デジタルネイティブの世代がどんどん増えてますよね。本当に面白い時代になってきたと思います。僕らなんてPHSの世代ですからね(笑)。結成当時なんてホームページって言葉がやっと聞こえ始めた位だったし。僕たちはアナログとデジタルの間にいるちょっと特異な世代、と言えるのかもしれません。

――そう考えると、この10年で起きた変化って物凄いですよね。でもそんな中でいきものがかりは、タイアップの多さだったり8年連続の紅白出場だったりを見てもわかる通り、常に世の中から求められているバンドなんだなって思います。ご自身ではその音楽性をどのように受け止めていますか?

ヒットって意味では他にももっと売れている方々はたくさんいて、やっぱ叶わないなって思ったりするんですけど、例えば運動会とか結婚式とか、皆さんが生活で経験する行事や日常の中で僕らの音楽をかけてもらってるっていう実感はあって。そう思うと、僕たちの音楽は皆さんにとってすごく身近なものであるって言えるのかなと。また、常にそうあってほしいと思ってますしね。タイアップが多いというのは、世の中と接触できるチャンネルがいくつもあるってことなので、すごく幸運でありがたいことだなって感じてます。僕たちの音楽は、デビュー当時から「泣き笑いせつなPOP」って形容されてるんですが、これに関してはもはや愛着が湧いてきましたね(笑)。今は気に入ってます。
――曲を作る際に大事にしていることは何ですか?

聴く方にとってどうなのかっていう視点は、すごく大事にしています。やっぱり聴かれてナンボだし、自分たちだけが気持ちよくなってもしょうがない。聴いてくれる方が自分や、自分の大切な人を思い浮かべてくれたら嬉しいですね。タイアップで曲を書き下ろす時もそうでない時も、そのスタンスは変わりません。例えば企業のクライアントさんも僕らも商品や作品を届ける相手、つまり消費者の方に喜んでもらいたいって気持ちは一緒なので、同じ方向を向いてると言えるんです。だからクライアントさんからは、曲を作るためのヒントを与えてもらってるんだって考えるようにしてます。

――「ラストシーン/ぼくらのゆめ」についてはいかがでしょう?「ラストシーン」は映画『四月は君の嘘』(9/10より全国公開中)の書き下ろし、「ぼくらのゆめ」はベストアルバム収録の新曲であり、爽健美茶のCMソングでもありますよね。

まず、「ぼくらのゆめ」について話すと、この曲はちょっと特殊なものなんです。今まで話してきたことと少し矛盾しますが、今回の本と同じように、自分たちのことを語らないようにしてた僕たちが、ようやく語り出したっていうのがこの曲で。僕たち自身の物語を楽しんでもらうっていう、新たないきものがかりの楽しみ方に挑戦してみたかったんです。ベストアルバムに新曲を入れようって話になって、最後の方に出来たのがこの曲だったんですが、自分たちのことを振り返るような曲が1曲くらいあってもいいかなって考えて、メンバーに宛てた手紙のような気持ちで書いてみました。そういう意味ではすごく特別な曲なので、ベストアルバムに入れた後、より多くの人に聴いてもらいたいなって思ってシングルカットすることにしたんです。本を読んでから聴くと、より一層理解が深まると思うし違う楽しみ方ができるので、是非本とセットで手に入れて頂きたいですね(笑)。

――なるほど(笑)。では、「ラストシーン」の方はいかがですか?

こちらは映画の原作となった漫画を読んで書いた曲です。作ってる当初はまだ撮影中で、映画自体を観ることはできなかったので。あまり言うとネタバレになってしまうんですけど、僕自身はこの物語にすごくシンパシーを感じました。自分の問題意識とつながるところがあったんですよね。僕は常に"終わりがある"ということを、曲中でちゃんと描きたいなって思ってるんですが、まさにそういった部分こそが作品の世界観とつながる要素だったんです。

――終わりがあること?

ポップソングって、ともすれば何かが永遠に続くかのようなファンタジーの世界を描いてしまいがちだし、そういうことを求められがちなんですけど、僕はその中で自分のブレーキとして"いつかは終わりが来る"ってことを胸に留めて曲を書いてるんです。実際それを言葉にした時もありましたし。震災があったり、自分も周りも年を取ってきたりする中で、"本当の別れ"を経験することが増えてきて、"終わりの後"を生きなきゃいけない人たちがたくさんいるんだってことに気づいたんです。そして、そんな"別れの後を生きなきゃいけない人たち"に寄り添えたら、という想いで書いたのがこの曲です。

――そう聞くと、今作に収録されたのは、どちらも深くて意味のある曲でありながら、方向性としては対極的な2作品でもありますね。

そうですね、そうかもしれません。

――では、最後にこれからの目標や展望を。いきものがかりとしては色々なところで度々聞かれていると思いますが、作家デビューを果たした水野さん個人としてもお聞かせいただければ嬉しいです。

いきものがかりとしての目下の目標は、10周年の大きな区切りをちゃんとやりきるってことですね。今年に関しては、改めていきものがかりを多くの人に知って頂くっていうのが大きな目標なので。曲や本を通して僕たちに興味を持って頂けたら嬉しいです。その後はまあ、割と淡々と進んでいくのかなと。これまでと同じく、曲を書いて歌っていくってことを1年でも長く続けていけるように、メンバーそれぞれが成長して自分たちを磨いて......って、全然具体的じゃなくてすみません(笑)。で結局は、僕自身もその延長線上にあるので、あんまり変わらないです。より幅広い楽曲を書けるようになりたいし、自身の存在もより多くの方に知ってもらえるように努める、というのが僕の目標ですね。


以前、ある対談記事で「水野さんは優秀なクリエイティブディレクターみたい」と書かれているのを見たが、実際に会ってみてなんとなくそれが理解できた気がした。自分のためではなく聴き手のための音楽を作り奏でる、というのは実はとても難しいことなのだと思う。長く続けていると、どうしてもそこにエゴが出てしまうからだ。しかし、そのような曲を実直に作り発信し続けてきたいきものがかりが今年、纏っていたベールを少しだけ脱いだという事実は、彼らにとってもファンにとってもすごく意味のあることなのだろう。世の中が激変したこの10年を経てなお、実に多くの幅広い層に愛され国民的な人気を得ている彼らだが、その根幹を支えているのは、やはり水野氏の生み出した楽曲が持つ普遍的な魅力に他ならない。10周年にして垣間見えたいきものがかりというグループの物語は今後、一体どのように紡がれていくのだろう。



■参照リンク
いきものがかり 公式サイト
http://ikimonogakari.com/
水野良樹 公式twitter
https://twitter.com/mizunoyoshiki

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