ラップバトルの番組やイベントが人気を博す昨今、日本のカルチャーシーンにおいて"ヒップホップ"は重要な地位を占めつつある。ヒップホップと言えば、キャップや腰履きのパンツ、大きめサイズのTシャツ......などのイメージからか、"若者文化"として捉えられがちだ。
しかし、岐阜県多治見市にいる平均年齢69歳のヒップホップダンスグループ TGK48(T=多治見、G=元気、K=高齢者)が話題を集めたり、ニュージーランドで結成された平均年齢83歳ヒップホップクルーの姿を描くドキュメンタリー映画『はじまりはヒップホップ』がここ日本でも大絶賛されたり、シニア世代のヒップホップダンサーたちも実はかなりの注目を集めているのだ。
この度、AOLニュースでは、ヒップホップダンサー・Tacさんのもと、日々ヒップホップダンスに勤しむ、大串香代子さん(60歳、ダンス経験歴15年ほど)、香取良子さん(68歳、ダンス経験歴18年)、林初美さん(62歳、ダンス経験歴4年)、3人の60代ダンサーにお話をうかがった。
■生活の中心はダンス?! ヒップホップダンスが大好きな3人
もともと"ヒップホップ"自体を知らなかったという香取さん。ヒップホップダンスとの出会いは、「通っていたジムにヒップホップという新しいメニューができて、どんなものだろう?と思って」と些細なものだったが、「ストレッチをよくするので歳を取っても身体が硬くなりません!」と今ではそのメリットを実感している。気持ちの面でも効果はあるようで、「踊っている間は、たとえ他にイヤなことがあったとしても何もかも忘れられますよ(笑)」とダンスの魅力を教えてくれた。
友達に誘われてヒップホップを始めたという林さんは、「テレビでダンス選手権などを観るのは好きだったのですが、まさか自分がやるとは思っていませんでした」と振り返り、「ダンスを始めた頃、発表会で観て『楽しそう!』と思ったのですが、次の発表会では自分が出る側になっていました(笑)!」とダンスのトリコになった経緯を語る。
大串さんは映画の中で"世界最高齢ダンサーズ"が目指すワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップの日本大会において40歳以上の部門で3回優勝、一昨年にはラスベガスの世界大会の同部門に出場したという、かなりの腕前の持ち主だ。「身体が痛いことさえ忘れて踊ってしまいます」と語るほどハマり込むヒップホップだが、惹きつけられる理由について「人との繋がりが深くなることです。今通っているところは、年齢など関係なく、小学生くらいの子から自分たちくらいの世代まで一緒になってやっています。皆でワイワイやれるのが楽しくて、そういう仲間がいるから続けられると思います」と話してくれた。
「ダンスを中心に全部の予定が組まれているんです(笑)」というほどダンスを愛してやまない3人。しかし大勢で身体を動かしたいのであれば、エアロビクスなど他にもありそうなものだが...どうしてヒップホップダンスなのだろうか?
「リズム取りが楽しそうだったので、まずヒップホップから入りました」と林さん。香取さんは「エアロビクスとヒップホップダンスはリズムが違うんです。やっぱりダンスなんですよ。きっとダンスが好きだったのね」と笑顔を見せた。
そんな3人のコーチをつとめるTacさんは、日本有数の実力者。なんと、あのアメリカの伝説的音楽ダンス番組「ソウルトレイン」に出演したこともあるのだ。
今回は、Tacさんが指導するレッスンの様子も見学させていただいた。
■年齢を感じさせない超クールなダンス さっきまでの柔らかい笑顔とのギャップがすごい!
まずはウォーミングアップから始まる。ダンサーの方々が柔軟な身体でストレッチに励む様子は、彼女たちの年齢を一切感じさせない。ジャスティン・ビーバーの代ヒット曲「What do you mean?」が流れる中、身体を大きく動かし音楽にのる姿やスタジオの鏡を見つめる眼差しは真剣そのもの。レッスン前に楽しく談笑していた姿とは別人のようだった。
さらに、コーチが取る拍に合わせ、身体を前後に揺らしたり、ステップを踏んだり。だらしなく見えてしまう可能性もある、ヒップホップ特有の"うねり"のある動きも、体幹の整っているダンサーのみなさんならとてもクールにキマる。
約20分のレッスン終了後、ストレッチに取り掛かるダンサーのみなさんは、レッスン前の柔らかい表情に戻っていた。20分間ほぼノンストップで運動を続ければ、普通、かなり体力を使うはずなのだが、特別疲れた様子も見えない。実は、3人の普段のレッスン時間は60分だといい、一日中レッスンを受ける日もあるという!
■「ダンスでみんな繋がっている。"ファミリー"のような感じです」
コーチのTacさんは、「風邪の日でもレッスンを休まない(笑)」と大串さんに指摘されるほど、自他共に認める"ダンス中毒"だ。「人と人が繋がったり、みんなで目標を持ったり...。仲間がいるのが楽しいです。『みんなで踊れば怖くない』ですね(笑)」とダンスの魅力を話す。町内会のような、大人のためのコミュニティが減りつつある現代、ヒップホップダンスが幅広い年齢層から注目を浴びている理由は"仲間"という言葉がキーワードなのかもしれない。
「小学生から60代まで、みんなで同じステージに立って同じ衣装を身につけます。(年齢が)上の方にもズボンを腰履きをしてもらうんですよ(笑)」と、自身が受け持つクラスのメンバーが、ダンスを通じて年齢に関係なく交流を深めている様子を笑顔で教えてくれた。「ダンスでみんな繋がっています。"ファミリー"のような感じです」と語る姿は"大黒柱"然としていた。
ちなみに、今回のレッスンでは、映画『はじまりはヒップホップ』の男性宣伝マン(ダンス未経験)もヒップホップダンスに挑戦。「汗をかくことに良いイメージがなかった」と話しながらも、いざレッスンが開始すると一心不乱になってレッスンに励んでいた。ダンサーのみなさんは、レッスンに追いつかない際に「できてるよ!」と声をかけてくれたとのこと。そんな優しさを受け取ったこともあってか、「仲間と何かするって本当に良いことだと思いました」と実感したようだ。初対面で、かつ年齢が離れているにもかかわらず、レッスン後はみなさんと自然に笑い合うようになり、「年齢なんて本当に関係ないと感じました」と感想を語った。
■いくつになっても大事なのは"アンテナ"を張ること
Tacさんは「ダンスは、上の年齢層でも挑戦できるもので、"引退"というくくりがありません」と語ったが、映画『はじまりはヒップホップ』にはなんと94歳のシニアダンサーも登場する。映画を鑑賞した大串さんは「80歳以上の年齢で、"新しいことに挑戦する"ということはできない場合が多いですが...。『やってみよう!』という気持ちを持って、いろんなものにアンテナを張っていようと思います」とチャレンジ精神の大切さを述べた。続けて「ぜひヒップホップダンスをやってみてください!」と元気な笑顔を見せた。
今回取材した3人のダンサーのみなさんより年齢層はさらに上、"世界最高齢"のダンスグループ「ヒップ・オペレーション・クルー」のメンバーは年齢を気にすることなく新しいことに挑戦していった結果、ラスベガスの世界大会への出場を果たす! やはり、夢を追うことに年齢など全く関係ないのだ。そんな彼らを映した『はじまりはヒップホップ』は絶賛公開中。昨今いちばんのホットワード"ヒップホップ"に少しでも興味がある人はぜひクルーの勇姿を目に焼き付けるべし!
■Tacさん プロフィール
振付師。映画『はじまりはヒップホップ』劇中で"世界最高齢ダンサーズ"が目指したワールド・ヒップホップ・ダンス・チャンピオンシップにおいて日本人コーチとして最多メダル獲得数(金4、銀8、銅6の計18個)を誇り、2013年のラスベガス大会で"世界最高齢ダンサーズ"のパフォーマンスも見ている。今年の同大会では、ダンスチーム「JB star」を率いバーシティ部門で銀メダルを受賞した。1996年にはアメリカの伝説的な音楽テレビ番組「ソウル・トレイン」に出演経験もある。「ダイワハウス」のほか国内外のTVCMに出演。
公式サイト:www.site-tac.net
■映画『はじまりはヒップホップ』公式サイト
hajimari-hiphop.jp
■平均年齢83歳!来日した世界最高齢のヒップホップダンスグループ「ヒップ・オペレーション・クルー」インタビュー記事
http://news.aol.jp/2016/08/26/hajimari-hiphop/
映画『はじまりはヒップホップ』