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世界各国の観客から熱い支持を受ける映画『孤独のススメ』とは?「最初から拒絶するのではなく、受け入れることが大事」

2016/04/14 18:30 投稿

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世界各国の映画祭で観客賞を中心に多数の賞に輝いた、オランダ映画の『孤独のススメ』が公開中だ。オランダの田舎町を舞台に、すべてをなくした男が何も持たない男と出会い、不要なしがらみを手放すことで本当に大切なことが見えるようになる人生のドラマ。その注目作で長編映画デビューを飾ったディーデリク・エビンゲ監督をスカイプで直撃した!


――本作は数多くの観客賞を受賞したほか、日本で開催のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でも最優秀作品賞を獲得しました。多くの人に受け入れられた理由は何だと思いますか?

"一人の人間が自由になる"ということを描いた点で、"普遍的"だからだと考えます。誰しもが外に対して自由を求めるほか、内面も解放されるため日々戦っている、そんな心理に訴えかけるものがあったのだと思います。

――劇中ではバッハの音楽が多用されているほか、シャーリー・バッシーの「This is my life」のカバーも挿入され音楽が非常に印象的ですが、選曲にはどんな意図があったのですか?

バッハが個人的に好きで両親から受け継いでいるというのが大前提としてあり、僕にとっては日常の中にあるものです。物語としては、宗教的に厳格なコミュニティですから、現代的な音楽を聴くことが許されていないという設定上、ここで使う理由が見つかったわけです。こういう社会で育ったという知り合いに聞いた話でも、唯一許されているのがバッハだったそうです。主人公フレッドに"バッハしか聞かない"という設定を与えることで、彼のキャラクターが浮き彫りになると考えたのです。「This is my life」はアメリカを中心にビッグヒットした曲であり、ゲイコミュニティの人々にとっての"QUEEN"として崇められている存在です。フレッドが今いる小さなコミュニティを出て、新たな世界へと出ていく意味で象徴的に使われるのが「This is my life」です。

――主役のトン・カス、ルネ・ファント・ホフという俳優の魅力とは?

わたしは彼らのファンであり、長年の親しい友人であり、オランダという小さな国の映画界においては仕事仲間でもあるのです。物静かなフレッド役のトン・カスは通常"マフィア"のような役柄が多いため、ドラマティックなキャラクターを与えたかったのです。結果的に大正解でした! ルネ・ファント・ホフのことは演劇で初めて見たのですが、彼のディテールを捉えた肉体的な演技に感嘆したのです。オランダという小さな国で彼が生まれたのは不運です。アメリカだったら大スターになったことでしょう。

――監督はコメディグループの出身であり、短編などコメディ作品もたくさん手がけられています。そのこだわりを聞かせて下さい。

『孤独のススメ』を例に挙げると、これは"悲喜劇"です。わたしは演劇の出身なので、そういった人間の白黒つかない繊細な感情を表すことが好きなのです。必死にもがき葛藤する人物たちや、シリアスなメッセージというものは、ある程度の軽妙さを保ちながら観客に伝えた方が良い、というのが持論です。わたしはキャリアをコメディアンから始めたので、その方法が好きなのです。


――本作を製作するにあたって、何かご自身にインスピレーションを与えるきっかけがあったのですか? それとも"解放"というテーマはずっと扱いたいと思っていたのですか?

きっかけというわけではありませんが、オランダでは今、宗教というものが失われつつあります。厳格に無神論を掲げるコミュニティがあるほどです。わたしはこの映画で、"宗教"と"信仰"が違うものであるということを見せたかったのです。無神論者の友人たちに本作を見せたところ、「主人公が厳格な宗教を失ってコミュニティから出ていくのが素晴らしい」と言われましたが、彼は失うわけではないのです。彼は、しがらみから解放され、自分の妻との思い出であるマッターホルン(山)に登り、自然の中に新たな精神のよりどころを見つけ、過去の過ちを悔い改めることができるのです。

――セクシャルマイノリティ(LGBT)を扱った理由はなんでしょう?

実は逆なんです。オランダはLGBTの問題に非常に寛容であり、皆その存在を知っていて日常にあることなので、この映画がとりわけそういった人々にスポットを当てたり、これを機に知ってほしいという意図はなかったのです。映画祭などで外国に持って行った際初めて、"これはLGBT映画だ"と定義されたのです。オランダではテーマになりえないほど、一般的なことなのです。

――本作の"Matterhorn"が"孤独のススメ"として日本公開されるように、タイトルが変わることをどう感じますか?

各国によって、たとえば山の名前など、地名やモチーフが有名でないこともあります。宣伝としての意図があってふさわしい名前を与えられるわけですから、わたしが口だしすることではないですね。しかし、とても面白いことだと思います。

――数々の国で評価され、多くの映画賞を獲得されたわけですが、ご自身のキャリアに変化はありましたか?

外国で映画を撮ってみないか? という声がかかるなど、確かにキャリアを変える機会はたくさんありました。でもわたしとしてはキャリアは与えられた環境によってではなく、自分で選びたいと考えています。監督としてだけでなく、俳優として出演したり、TVショーを持ったりしているので、母国オランダでの作品作りにはこだわりたいですね。

――フレッドはテオという奇妙な存在との出会いによって人生を一新させていきます。これから映画を見るわたしたちが、ふいに現れる大切なものとの出会いに気づくためには何が大切だと思いますか?

難しい質問です(笑)。オランダも難民の問題を抱え、多くの相容れない文化を持つ異邦人がたくさんやって来ます。まずどんな人と出会った時にも、"違う存在"として最初から拒絶してしまうのではなく、可能性を残して話し合うことが大事なのではないでしょうか。互いを受容し合うことで、より良い関係を築いていけるのではないかと思います。


映画『孤独のススメ』は、2016年4月9日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開中!



■参照リンク
映画『孤独のススメ』公式サイト
kodokunosusume.com

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