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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「ハクの正体は●●!感動と怖さの両立『千と千尋の神隠し』完全解説」

2019/11/28 07:00 投稿

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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/28

 今日は、2019/11/10配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]」からハイライトをお届けします。


 『千と千尋の神隠し』13の謎、6番目の謎は「ハクの謎」です。
(パネルを見せる)

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【画像】ハクを抱きしめる千尋 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 はい、これは「血まみれになって帰って来たハクを抱きしめる千尋」なんですけども。

 そもそも、ハクというのはどういう存在としてデザインされているのか? テーマ的なものではなく、お話の中の構造として、どんなふうにデザインされているのかというと女の子から見た不良少年なんですね。
 強い大人に命じられて、純粋な少年が外の世界で悪いことをして、そして血まみれになって帰って来る。「そんな人なんだけども、周りから怖がられている人なんだけども、私だけには優しいんだ」っていう、少女マンガにおけるヒーロー、彼氏設定ですね。
 俺、昭和の時代、『ホットロード』という少女マンガを読んだことあるんだけど、まあ、あんな感じなんですよ。『バナナフィッシュ』とかもそうなんでしょうね。

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【画像】ハク © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 このハクが、千尋に「私はずっとお前を見ていた」と言うシーンがあります。
 「どうして私の名前を知っているの?」と千尋が聞くと、「そなたの小さい時から知っている」と答えます。
 これ、さっきの、千尋におにぎりを渡すシーンなんですけど。ここでは、ハクは自分の名前を思い出せないんですね。やっぱり名前を奪われているから。
 そんなハクが、自分の名前も思い出せないのに「でも、不思議だね。千尋のことは覚えていた」と言うんですよ。
 これね、ここから先のストーリー展開を全てセリフ通りに考えると、「ハクというのはコハク川という川の守り主の神様で、千尋が小さい時に溺れかけたのを助けてあげた」ということになるんですけど。
 でも、なんで、そんな事件だけで「そなたの小さい時から知っている」ことになるのか? 「自分の名前も忘れたのに、お前のことだけは覚えていた」というセリフは、辻褄があわないんですよ。

 他にも、倒れたハクを千尋が心配する様子を見て、釜爺は「愛だね。愛じゃ」と言うんです。
 これも、それまでの宮崎アニメの文法とは違いすぎるんですね。仮に、こんなふうに、主人公同士が思い合っている恋愛感情みたいなものがあったとしても、「それは愛だ」というふうに、あまりハッキリと言い切らないんですね。
 では、なぜ、そんなにハッキリと言い切ったのか?

 あとは、謎の歌詞という問題もあって。
 宮崎駿が『千と千尋の神隠し』を作った時に、音楽を担当した久石譲に送ったイメージ歌詞というのがあります。
(パネルを見せる)

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【画像】イメージ歌詞

 『あの日の川で』という詩なんですけど。全文読むとこんな感じになります。


『あの日の川で』

陽のさす裏庭から 忘れていた木戸を抜け
生け垣が影落とす道を行く
向こうから走ってくる幼い子は わたし
ずぶぬれで泣きながらすれ違う
砂場の足跡をたどって もっと先へ
いまは 埋もれてしまった川まで

ゴミの間の水草がゆれている
あの小さな川で 私はあなたに出会った
私のクツがゆっくり流れていく
小さな渦にまかれて消える
心をおおうチリが晴れる
目を隠すくもりが消える
手は空気に触れ
足は地面のはずみを受けとめる

誰かのために生きている私
私のために生きてくれた誰か

私は あの日 川に行ったのだ
私は あなたの 川へ行ったのだ


 こんな歌詞なんですね。
 「ずぶ濡れになって帰ってくる」「私の靴がゆっくり流れていく」「私のために生きてくれた誰か」みたいに、なんか、物言いいたげな、不思議な歌詞。
 結局、この本編には採用されなかったんですけども。

・・・

 さらに不思議なのが「千尋が過去を思い出す」というシーンなんですね。
 もう本当に物語のラスト、龍の姿になったハクの上に乗って一緒に飛ぶシーンなんですけど。銭婆に会いに行って、ハクを許してもらって、ハクの化身である白い龍に乗って空を飛んでいるシーン。ドラマの中で一番盛り上がるところです。
 ここで千尋は突然、思い出すんですよ。
(パネルを見せる)

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【画像】水に伸ばす手 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 こんなふうに「水の中に手が伸びていく」というシーンなんですけど。
 しかし、これ「靴が川に落ちて拾おうとした」にしては、水しぶきのサイズが大き過ぎるんですよね。
 「じゃあ、千尋が落ちた時の水しぶきなのか?」というと、手が伸びる前から水しぶきが立っている。
 何か大きなものが落ちた時の水しぶきに向かって手が伸びているように見えるんです。

 これをハッキリさせるために、このシーンの絵コンテを見てみましょう。
(パネルを見せる)

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【画像】手の絵コンテ

 絵コンテを見ると、実際の画面に映し出されているものと同じことが描いてあるんですけど。
 ここで注目すべきは、コンテに描かれた説明文。ここには「サーッと伸びていく子供の手」と書いてあるんですよね。

 なぜ「子供の手」と書いているのかと言うと、「千尋の手」と書かないためなんですよ。
 つまり、「手を伸ばしているのは千尋じゃないから」なんですね。
 そして「それは誰か?」ということを明かしたくないからです。
 「誰かの手が伸びていって、そして、水の中に落ちた者を助けようとしている」という状況を描こうとしているわけです。

 続いて、千尋がその時の記憶を思い出すシーンです。
(パネルを見せる)

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【画像】水中の千尋 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 ここで、千尋の肩のところを見てください。顔と肩の色が同じです。つまり、これ、裸なんですね。
 では、なぜ、記憶の中での千尋が裸だったのかと言うと。「幼い頃の千尋が川に落ちた時に裸だったから」です。
 よく、パンツだけで川遊びする子供がいますよね? あれと同じで、川に落ちた時の千尋は、実は上半身裸だったんですね。

 しかし、水に落ちた何かに向かって手を伸ばしている子供の手は、Tシャツの袖が見えるんですよ。
 おかしいですよね? Tシャツを着ている子供が手を伸ばしている。幼い頃、川に落ちた千尋は上半身裸だった。矛盾しています。
 じゃあ、これは一体、何を描こうとしているのか?

・・・

 前回も話したんですけど、『千と千尋の神隠し』について、宮崎駿はインタビューの中でこう語っています。


「自分の中でいつか『銀河鉄道の夜』をやらなきゃいけないと思い続けてきた」
「今回でそれに答えられたと思う」
「テーマは、自分が生きているとき、それは誰かが自分を生かしてくれたのだ、という事実があるということ」


 それをちゃんと言いたい。
 こんなふうに言ってるんですね。
 これはもう、本当に、映画のパンフレットの中でも「誰かが自分を生かしてくれた」ということを言っているんですけど。
 ところが、『千と千尋』のアニメのストーリーだけを追っていると、なぜ宮崎駿がそれを何度も強調するのか、よくわからない話になっているんですよ。

 『千と千尋』の研究書はいっぱい出てるんですけど、この『銀河鉄道の夜』について……もちろん、海原電鉄のシーンがオマージュになっていると言ってる人は多いんですけども。もっと、この作品のテーマ的な部分になっていると言っている人は、ほとんど見当たらないんですね。
 なぜかと言うと、やっぱりみんな、『千と千尋』をストーリーとか、何よりもセリフから理解しようとしているからなんですよ。
 でも、宮崎駿というのは絵で語る作家なんですね。
(パネルを見せる)

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【画像】二つの家 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 例えば、これを見てください。上の絵と下の絵、ほとんど同じ絵に見えます。こう、家が1軒だけ建っている。上の絵では、水の中に建っている。下では丘に建っているんですけど。
 上が『千と千尋の神隠し』の海原電鉄のシーンです。下が、アニメ版の『銀河鉄道の夜』の「もうすぐ、みんなが死の世界に行く」というところで出てくる風景なんですけど。
 こうやって並べて見たらわかる通り、ほとんど同じ構図で描いているんですよ。これは、やっぱり『銀河鉄道の夜』に対する宮崎駿のリスペクトの1つなんですけど。わざと構図を同じにしているわけですね。

・・・

 『銀河鉄道の夜』では、主人公のジョバンニは、ケンタウル祭という夏祭りの夜に、丘の上でボーッとしているんですよ。
 すると、ジョバンニは、いつの間にか銀河鉄道に乗っているんですね。そして、なぜか目の前に、親友のカンパネルラが、全身ずぶ濡れで立っています。
(パネルを見せる)

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【画像】カンパネルラ ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 カンパネルラが、肩をハンカチで拭うと、水玉がいっぱい落ちます。
 ジョバンニは「なんで濡れているんだろう?」と思うんですけど、喜んで「カンパネルラ、僕達はずっと一緒だね!」と言うんですけど、そこでカンパネルラは寂しく笑うだけなんですよね。

 映画が進行して行くと、3人の人物が乗ってきます。
(パネルを見せる)

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【画像】3人の人物 ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 アニメ版の『銀河鉄道の夜』って、もう、ほとんど全てのキャラクターが猫として描かれているんですけど、唯一例外的に、この3人だけは人間の姿として出てくるので、ちょっとドキドキするんですけど。
 ここで3人の人物、弟と姉と家庭教師が出てくるんですよ。この弟、最初から、靴を片方、履いていないので、もう本当にドキッとするんですけど。

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【画像】頭に水のついた弟 ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 靴を履いてない弟と一緒に姉が入って来るんです。この弟の頭には、水玉がいっぱいついているので、お姉さんが優しくそれを拭いてあげるんですね。

 この3人は何かと言うと、タイタニック号に乗っていた人なんですね。彼らが乗った船は氷山にぶつかって、それはもう大変な事故で、みんな水の中に沈んでしまった。
 このシーンだけ、やっぱり人間が登場してるから、見てるともう本当にドキドキして、「なんか、この雰囲気、怖いな」と思うんですよ。
 そんな自分たちの身に起きた事故のことを、家庭教師が、すごく淡々と、本当に優しい声で淡々と語るんですよね。


この子たちの手を引きながら、ボートへと並んでいる子供たちをむりやり追い抜きながら考えました。
これは本当にこの子たちの幸せになるんだろうか?
罪を私一人で受けて、この子たちを生かすのが私の務めなんだろうか?
そう思いながら、並んでいる子供たちを追い抜いてボートに近づくと、やっと我が子だけをボートに乗せて泣いている母親や、同じようなたくさんの親たちを見ていると、もう、そんなことはどうでもよくなって、沈んでいく船の上でしっかり二人を抱きしめていました。


 こんなふうに、ゆっくりゆっくり語るシーンがあるんですよ。
 家庭教師がこの話を語っている時、お姉さんは、弟の濡れている髪を拭いてあげて、どこかから見付けてきた靴を履かせてあげるんですね。
 このあたりのお話が『よだかの星』を描いた宮沢賢治の真骨頂なんです。「自己犠牲による、他人のための幸せ」というやつです。
 これは、宮崎駿がずっとずっと「描きたい。描かなくてはいけない」と思っていたテーマなんですけど。

 そこで出てくるのが、さっきの『あの日の川で』という詩なわけですね。
 「私の靴がゆっくり流れる」「小さな渦に巻かれて消える」「私のために生きてくれた誰か」というこのテーマ。
 本当は、これをやろうとしてたんですよね。

 『銀河鉄道の夜』で、家庭教師は「でも、もう大丈夫。南十字まで行けば、苦しいことも全部なくなってしまう」と言って、南十字の駅でこの3人は降ります。
(パネルを見せる)

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【画像】南十字 ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 この南十字の駅というのは、巨大な十字架が地平線の遥か向こうに立っていて、それに向かって参礼者が無限に列をなしているんですね。

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【画像】参列者たち ©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

 そんな列をなす猫たちに混じって、この3人、家庭教師、お姉さん、弟も、礼拝者のような格好をして、ずっと歩いて行くんです。

 石炭袋の駅を過ぎた後、カンパネルラは「もう僕は一緒に行けないんだ」とジョバンニに言います。そして、そのまま、車の後ろに行って、消えてしまうんですね。
 実は、カンパネルラは、川に落ちたクラスメートのザネリという猫を助けて、そのまま溺れて死んでしまっていたわけです。だから、カンパネルラも、家庭教師達この3人も、身体が濡れていたんですね。
 友達を助けるために、自分の命を犠牲にしたカンパネルラ。

・・・

 『千と千尋』の話に戻りますけども。
 何かが落ちた水しぶきに向かって、誰かの手が伸びている。絵コンテには「子供の手」とだけ書いてあるわけですね。
 じゃあ、これは千尋の手なのかというと、千尋ではない。千尋はこの時、裸なんです。裸で落ちた千尋を助けるために、誰か子供の手が伸びているわけなんですね。
 つまり、裸だった幼い千尋に手を差し伸べて助けたTシャツを着た子供が、どこかにいるはずなんですよ。

 それは誰かと言うと……あの、これが今回の前半の考察の主なところなんですけど。
 「どうして私の名前を知ってるの?」と千尋が言った時、ハクは「小さい時から知っている」と言うんです。
 なぜ、自分の名前も思い出せないハクが、千尋を小さい時から知っているのかと言うと、ハクは千尋の死んだお兄さんなんですね。

 あの日、千尋は「川で靴を流した」んじゃなく、川に落ちたわけです。
 そして、それを助けようとお兄さんが手を引っ張って、代わりに、お兄さんは川に流されて帰って来なかった。
 お兄さんは他人のために命を捧げたので、この川で神様になれた。
 そういうお話なんです。

 千尋は、この日の出来事を覚えてないんですね。「私、覚えてなくて、お母さんから聞いたんだけど」って言ってるんです。
 つまり、「靴を流した」というのは、あくまで千尋が聞いた証言であって、この事件自体を、千尋は全く覚えていないんですね。
 母親は、千尋に「お兄さんがいた」とか「千尋のせいで死んだ」ということは伝えてないんです。「子供の頃に川で溺れかけた」ということだけを伝えている。
 だから、千尋は覚えてないんですけども。ハクは「そなたの小さい時から知っている。不思議だね。千尋のことを覚えていた」と言うんです。

 釜爺が「愛の力だ」と断言するのは、これが兄妹愛だからなんですね。
 ハクは、千尋を傷つけたくないので、たぶん、これを思い出したとしても絶対に言わないし、釜爺も言わない。または、ハク自身も気付いていないのかもわかりません。
 セリフの上では「ハクの川は埋もれてしまった」ということになっているんですよ。この「埋もれてしまった」というのも「地中に埋葬されてしまった」という、死を暗示させる言葉ですね。いわゆる、葬式とか死体のメタファーとして「今は埋められてしまって、見えなくなった川」という言い方をしているわけなんですけど。

 しかし、ハクはまだ完全な神様ではないんですよ。千尋にも見えてしまっているから。
 本当の神様であれば、夜になって、灯りがついて、油屋に近づかないと見えないはずなんですけど。ハクはまだ完全な神様ではない。
 『千と千尋』というのは「そんなハクが最後は完全な神様になる」というお話なんですけど。
 これを話すために、まだ無料放送は続きます。無料の最後は「両親の謎」というコーナーをやりたいと思います。


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