手元が留守になるという言葉がある。
気がそぞろで、手元の注意力が散漫になることだ。

あの時の私もそうであった。
帰り道、疲れていた私。脳内でその日やった事の復習をしつつ電車を降りようとしたその時、握っていたスマホが手元の留守を狙ってスルッと落下を開始した。
電車とホームの隙間に吸い込まれるスマホ。車内から注目を集める私。
一応、「最悪だぁ」と口走り、聴衆の注目に応える。閉まるドア。走り去る電車。残される岡崎。留守の手元。

留守になるのは亭主だけで良い。
そんなわけで、身体の色んな部分が留守になるほど、充実した年末であった。

ディナーショーのコーラス、タンゴの発表会、演劇ワークショップの助っ人、オーディション、デザイン。あ、帝劇VRも。
ジョワイユがノエるする慌ただしくも楽しい12月であった。

何が大変って、絶対に風邪がひけないのである。

あらゆる予防を講じたが、中でも注力したのが鼻うがいだ。

自宅用と外出用の鼻うがいセットを用意している。
だいたい1日3回くらいやっている。
ディナーショーの前と間と後にも鼻うがいをした。興奮していたせいか昼公演の後、鼻うがいしたら鼻血が出た。「はは!これがほんとの真っ赤なお鼻のトナカイさんってか!」と威勢よくつっこんだが、ホテルの自室なので周りはシーンとしていた。テレビから流れるスカイステージのインタビューだけがハキハキと聞こえていた。



鼻の通りをよくする手術をしたのが今年の5月某日。その2日後には古川雄大君のライブの振付のリハに参加していた。両鼻の穴が詰まっていたのでとても苦しかった思い出がある。
「アンパンマン!新しい顔よ!」というバタコさんの叫びととも古い顔と新しい顔が即座に入れ替わるように
「おかぴー!新しい鼻の穴よ!」という感じで僕の鼻の穴も入れ替わればよかったのに。

ただ、その為には鼻の穴が空中を移動する必要がある。その現象は空間を穴自体が移動するという観念的な問いとならざるをえない。