「集団的自衛権と解釈改憲の危険性」 孫崎享
1:民主主主義を危うくする
5月8日ニューヨーク・タイムズ紙は「日本は民主主義の真の危機に直面している」とする社説を掲載
・軍事力を変えようとする安倍氏の試みは憲法解釈の変更を必要とする。それには国会の3分の2の承認と国民投票での承認を必要とする。
・安倍首相は政府が憲法解釈を変えることで憲法九条を避けようとしている。これは民主主義の過程を覆すものである。
・日本は民主主義の真の危機に直面している。
さらに5月28日国民安保法制懇が発足したが、この記者会見で坂田元内閣法制局長官は次のように述べた。
「集団的自衛権を行使できるようにするなら、十分に国民的な議論を尽くした上で、憲法改正で国民の意見を集約し、国民の覚悟を求める手続きが必要だ。憲法解釈と言う。極めて安易な手段による日本の針路の偏向に異を唱える。憲法九条の解釈は60年にわたって政府自らが言い続け、国会でも議論を積み重ねてきた。国民にもそれなりに定着している。一政権の手で軽々に変更することは立憲主義の否定であり、法治国家の根幹を揺るがすものだ。」
2では日本は今こうした民主主義の危機を犯してまで行わなければならない緊急性に直面しているか。
安倍氏の説明に沿って考えたい
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尖閣諸島等、日本国国土への攻撃はすでに安保条約で規定されていて、今{集団的に}どうすべきかという事は何ら議論になっていない。
安保条約第5条
「 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宜言する
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邦人保護
外務省は各国大使館で緊急時に邦人をどのように避難させるかプランを持っている。
事前に逃避することを考える。民間飛行機、船舶が主である。
イランイラク戦争の時、テヘランでの避難はトルコ航空
米国艦船ない
「いまや海外に住む日本人は150万人。さらに年間1,800万人の日本人が海外に出かけていく時代です。その場所で突然紛争が起こることも考えられます」としてその安全を守るために武力行使が必要だというような論理を展開」の論理こそ、「自国民を守る」として武力行使を拡大していった植民地支配の論理そのものである
いずれも集団的自衛権でないものを持ってきている。
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紛争地への経済協力は避ける。
戦闘の一方に対する住民の政治的支持獲得の行動。敵の攻撃の対象。
紛争後に支援を行うを主。
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ミサイル防衛は機能しない
3:集団的自衛権は米軍のために自衛隊を使うシステム
2005年10月29日日米政府間で「日米同盟:未来のための変革と再編」という文書に署名した。
米国側は、ライス国務長官、ラムズフェルド国防長官、日本側は町村外務大臣、大野防衛庁長官が署名し、通常2プラス2文書と呼ばれている。
ここでは、今日の集団的自衛権の方向性が示されている。
「地域及び世界における共通の戦略目標を達成するため、国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった。この目的のため、日本及び米国は、それぞれの能力に基づいて適切な貢献を行うとともに、実効的な態勢を確立するための必要な措置をとる」。
日本に世界に向けての軍事戦略はない。従って「共通の戦略目標」とはアメリカの戦略目標ということである。
2005年10月29日は小泉首相の時である。2006年9月26日発足した第一次安倍内閣で、集団的自衛権の容認の動きが強まった。しかし、2007年9月26日安倍首相は政権を放り出し、引き継いだ福田首相は集団的自衛権に慎重な姿勢を示し、流れは止まった。
そして今再び、第二次安倍政権で集団的自衛権が再度復活してきたのである。
4、国際的に認められた集団的自衛権は、安倍首相などのいう「集団的自衛権」とは同一ではない。
その理解のためには国連憲章を見る必要がある。国連憲章は次の規定を持つ。
第2条〔原則〕
1:この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
3:すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4:すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
第51条〔自衛権〕
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。
この体系で明確なのは「各国は主権を持つ」「武力攻撃を行わない」「加盟国に対して武力攻撃が行われたら自衛権を持つ」という事である。
集団的自衛権は同盟国(米国)と行動することを考えている。アフガニスタン戦争やイラク戦争の事態を想定している。これらの戦争が行うべき戦争で無かったことは今日米国国もが認めている。こうした米国主導の戦争に入っていくことが集団的自衛権の主たる目的である。
5:安全をもたらすか
安倍首相は「内閣総理大臣である私は、いかなる事態にあっても、国民の命を守る責任があるはずです」「人々の幸せを願って作られた日本国憲法が、こうした事態にあって"国民の命を守る責任を放棄せよ"と言っているとは、私にはどうしても考えられません」等と言っている。集団的自衛権に参加しないことが「国民の命を守る責任を放棄せよ」と同じであるかのように言っている。
集団的自衛権を持つことが本当に日本国民の安全を高めることになるのか。
今日イスラム社会の人々がある日突然に日本を攻撃することは考えにくい。
もし、日本が集団的自衛権で米軍と共に行動する事態になったらどうなるであろうか。
攻撃された人々は当然報復を考える。
イラク戦争、アフガニスタン戦争の中、ロンドン、パリ、マドリードがテロに見舞われた。2004年3月11日マドリードで合計一〇カ所での爆破が起こり、191人が死亡、2000人以上が負傷した。スペインのイラク戦争参加に対するアルカイダの報復である。
北朝鮮―ノドン200-300発ノドンを配備。
北朝鮮に対する軍事介入はこれで日本本土攻撃
集団的自衛権の適用で米軍と一緒に行動すれば、日本への報復攻撃が予想される。集団的自衛権は安倍首相の発言とは逆に日本を不安定にする。
5:結論:集団的自衛権は日本国民のための制度でない。自衛隊を米軍の“傭兵”にする制度だ。