1972年当時、外務省条約課長として日中国交正常化交渉に携わり、後に外務事務次官も務めた栗山尚一・アジア調査会長が、「赤旗」7月3日付第3面の大半を費やしたインタビューで、尖閣諸島問題のいわゆる「棚上げ」について、「暗黙の了解」に止まっている「棚上げ」を定義してお互いがそれを守るよう明確な合意にすべきだと提言している。

 日本政府は「日中間に領土問題は存在しない」との立場で、中国側は「棚上げ合意があった」と主張している。私の理解はやや異なっていて、尖閣の領有権について「決着をしない」という「暗黙の了解」が72年に成立して、78年の日中平和条約のときに再確認されたということだ。

 国交正常化という大義のために、尖閣問題を「決着しない」ことで当面の決着とする。これが中国側の言う「棚上げ」だ。78年の日中平和条約締結の後、10月に来日した鄧小平副首相が記者会見で「棚上げ」を明言し、「次の世代が良い方法を見つけるだろう」と述べた。

 「棚上げ」が成立するためには、2つの条件が必要だ。第1に、自国の立場を主張するのは自由だが、相手国に受け入れを要求しない。第2に、現状を一方的な手段で変更はしない。そして、日中間で将来の世代に新たな知恵が出て来るまで現状を維持する。

ところが中国は92年、尖閣周辺の水域は自国の領海だとする領海法を制定した。これは明らかな「棚上げ」のルール違反で、外務省も抗議した。今では中国は艦船や航空機を侵入させるなど、明らかに現状を変更しようとしている。他方で「日中間棚上げ合意がある」とも言っている。そうであるなら、日中間で「棚上げ」が成立する2つの条件は守るべきだということを中国側が認識する必要がある。

 だからこそ、中国と話し合う必要がある。まず、現状を踏まえて「棚上げ」とは何かを定義して、お互いがそれを守る、そこには「暗黙の了解」ではない明確な合意が必要だ……。(孟)