Omasuki Fightの北米MMA抄訳コラム――今回のテーマは「マーク・ハントの壮絶人生」
暴力って、いったいなんのためにあるんだろう……僕はかつて、そんなことを長い時間をかけて考えていた。そんなことは自分とは特に関係がないんだ、ということに気がついたのは、わりに最近のことだ。ほかの何かのせいなんだ。僕が知ろうとしなかったほかの何かの。
父はほんの小さなことで僕らを殴った。やり方もいろいろだった。拳のこともあったし、足のことも、ほうきも、棒も、電線の場合もあった。水道と洗濯機を繋いでいるホースはひどかったな。あれは本当に重たくて、この世の物とは思えないほど痛かった。それに、父がどんなに本気で殴っても、あのホースだけはこわれないんだ。
だからあのホースがあれば、父は自分がヘトヘトになるまで、ずっと殴りつけることができた。それに父は本当に、そういうことにかけてはエネルギーに満ちあふれた人だった。あのホースが大好きだったんだろうな。
父が大好きだったことはほかにもある。兄弟一人一人を呼びつけては、全体重をかけて太ももを殴ってくるんだ。こちらは足が動かなくなって、その場に転がるしかない。走って逃げることもできない。ただその場に転がって、父のやりたい放題が済むまで待っているしかなかった。次はホースかなあ、いやほうきかな、ブーツだろうか。踏みつけかもしれないな、などと思いながら。
父は兄弟をお互いに戦わせるのも好きだった。で、もし誰かが泣いたりしたら、あの人は拳と蹴りで飛びかかってきた。殴られているときに泣いてはいけない。もっと殴られることになるからだ。最終的にはいつも連帯責任だった。僕らはたぶん、そこまでやられっぱなしでいるべきではなかったんだ。
―― マーク・ハントの自伝「Born to Fight」が出版された。著者のBen Mckelvey氏によると、取材を始めた頃のハントはひどく口数が少なかったという。父親について尋ねても、「あの人は悪い人だった。ただただ、悪い人だった」としか説明しなかった。ただハントは、姉のビクトリアの連絡先を教えてくれたのだという。ビクトリアとの対話がこの自伝の基礎となっており、そこからハントもいろいろな話をしてくれるようになっていったのだそうだ――
僕たちに比べれば、父は姉のビクトリアには優しかった。姉は僕ら兄弟の面倒を見てくれていて、僕らを清潔できちんとしておくのが役目で、それができていないときには姉もしこたま殴られていた。それでも、僕やスティーブ、ジョンに比べれば、姉への当たりはそんなに強くないと思っていた。
だれもが、父はビクトリアにだけは甘いと思っていた。父はよく、ビクトリアの部屋にいた。でも部屋からは、物が壊れる音や、殴られる音は聞こえてこなかったし、部屋から出てきた姉は血も出ていなかったしケガもなかった。なんだか不公平だなあと思っていたほどだ。部屋の中で何かおかしなことが起きているようには思っていたけれど、それがそこまで極悪で罪深いことだとは知らなかった。
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コメント
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壮絶...
(ID:32626167)
キックであり、MMAであり、
僕がボクシング以外の格闘技を身を入れて
チェックするようになった切っ掛けの選手。
スーパーヒーローだよ、ハントは。