プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回はかつて世界のプロレス界を牛耳っていたプロモーター連合組織「NWA」の盛衰からプロレスの流れを読み解く! イラストレーター・アカツキ@buchosenさんによる昭和プロレスあるある4コマ漫画「味のプロレス」出張版付きでお届けします!






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――今日はかつてプロレス業界を支えたNWAやAWAといったアメリカのプロレス団体をテーマにプロレスの移り変わりをお聞きいたします。70・80年代の日本のプロレス界において、とくにNWAは巨大な権威、幻想がありましたね。

小佐野 というのは、プロレスはアメリカから日本にやってきたスポーツであって、80年代の半ばぐらいまではアメリカがプロレスの本場という認識が強かったわけですよね。わかりやすくいうと舶来物をありたがっていた。

――“あこがれのアメリカ”ですね。

小佐野 そう。当時の各団体の勢力を簡単に説明すると、全米のほとんどのエリアをカバーする連合組織がNWA。ニューヨークを中心とした北東部にはWWF(現在はWWEに名称変更)があり、AWAはミネアポリスを拠点とした中西部地域の一部をカバーしていた。

――AWAやWWFと違って、NWAという組織は各地区のプロモーターの集合体になるんですよね。

小佐野 わかりやすくというと、WWFは独立国的な感じでNWAは合衆国なんですよね。AWAは独立国と合衆国の中間的な存在かな。アメリカのほとんどの州にプロレスのプロモーターが存在してたんです。テキサスなんかは広いから何人もいた。それぞれが独立採算制でやっていたんだけど、NWA世界ヘビー級チャンピオンという共通の王者を認定していて。そのチャンピオンがNWAに加盟している各テリトリーを回る。年間のスケジュールもきっちり決まっていて、世界王者が興行を支えるわけですよね。世界チャンピオンの役目はそのテリトリーの観客動員を増やすこと。それができるレスラーじゃないといけない。

――そうなると、NWA王者に求められるものは人気なんですか?

小佐野 基本的にNWA世界王者はヒールなんです。各テリトリーに存在するローカル王者の挑戦を受けるわけですから、ファンは挑戦者を応援するじゃないですか。ヒールじゃないといけない。

――なるほど。たとえば全日本プロレスはNWAに加盟しているけど、全日本にもチャンピオンは存在しますね。そのローカルチャンピオンの挑戦を受けることでその土地の興行に貢献するわけですね。

小佐野 そうなるとファンに「もうちょっとで勝てそうだ!」とドキドキさせるヒールじゃないといけない。それはもともとはベビーフェイスでもヒールができるかどうかなんです。反則三昧のヒールでなくてもいいですよ。ドリー・ファンク・ジュニアみたいに華麗なテクニシャンぶりが嫌味に見えたりしてもいい(笑)。ルー・テーズが日本に来たときだって、ロープ際で力道山の顔面にパンチを入れたり、そういう小狡いことをやってお客さんを煽るわけですよね。

――そうやって「おらが村」の王者に引き立てるわけですね。

小佐野 逆にプロモーターの集合体ではないWWFなんかは、ブルーノ・サンマルチノというベビーフェイスが王者でいいんです。AWAはNWAのように連合体の側面もあったから、ヒールの王者が多かったかなあ。ベビーだったのはリック・マーテルくらい。ジャンボ鶴田もヒールだったでしょ。やってることは日本と同じなんだけどね。

――NWAやAWAに“伏魔殿”のイメージが強かったのは、そういった組織の構造上、ヒール王者が求められていたところもあったんですね。

小佐野 “幻の王座奪取”、“疑惑の3カウント”が多かったよね(笑)。NWA王者は見かけがムキムキマンで強そうであってもダメだし、もちろん弱くてもダメ。基本、強くなきゃダメなんですよ。中には本当に潰しにくる挑戦者が出てきてもおかしくないから。そこできちんと対処することも世界チャンピオンとしての責務。つまりガチンコに強くないとダメなんだよね。相手は何をしてくるかわからないんだから。

――そうするとハーリー・レイスなんかはピッタリだったわけですね。

小佐野 レイスはスタイルも受けだし、そうして怒ったら本当に怖い(笑)。そこに各地のプロモーターが納得するような人間性も求められるんです。中には才能はあるのにチャンスすら与えられないレスラーもいるわけですよ。たとえばディック・マードックは強くてヒールもできるのに「アイツは無理だろ」と認められなかった。ムラッ気のあるマードックにNWA王者としての責務をこなせるかは不安ですよね。

――たしかにマードックは難しそう(笑)。

小佐野 NWA王者は1週間のサイクルでいろんな土地を渡り歩くわけでしょ。どこへ行っても、それなりのクオリティで試合をこなさないといけない。よく知らない相手といきなり試合をしなきゃいけない。しかも60分フルタイムドローの試合も多かったわけじゃない。

――それって凄い技量の持ち主ですよねぇ。四天王プロレス以降の近代日本プロレスって、何回も手を合わせることで試合のクオリティを上げてきましたけど。

小佐野 ドリーが日本プロレスにNWAチャンピオンとして来日したとき「アントニオ猪木の試合を見たこともない。記者会見で初めて会った」というのに翌日60分フルタイムドローの試合をやったわけだからね。

――凄いなあ!(笑)。

小佐野 そこは猪木さんも凄いんだけど、ドリーのプライドはそこにあったわけだから。誰が相手でも自分は一流の試合ができると。さらに驚愕なのはドリーはキャリア6年でNWAチャンプになったわけだからね。

――ドリーって20代で王者になってますけど、エリート中のエリートだったんですね(笑)。

小佐野 NWA王者のスケジュールは、セントルイスのプロモーターでNWA会長のサム・マソニックが切っていたから。彼が王者の力量があるかどうか認めないとチャンスはもらえないんだけど。ドリーの場合は父親のシニアがプロモーターとして力を持っていたとこもあるんだろうけど。アマリロのシニアがドリー、カンザスのボブ・ガイゲルがハーリー・レイス、フロリダのエディ・グラハムがジャック・ブリスコという一流レスラーを抱えていた。

――政治力がモノを言う世界でもあったんですか?

小佐野 そういうわけでもない。だって自分のテリトリーから世界チャンピオンが出たら、そのレスラーは世界中をサーキットしないといけないんだから。自分のテリトリーに常時いたスターがいなくなっちゃうわけだからね(笑)。だからちゃんと次期エースを確立しておかないといけないんだよね。

――変な話ですけど、そんなに多忙だと、チャンスがあってもNWA王者になりたくないレスラーもいたんじゃないですか?

小佐野 ドリーはもうなりたくなかった。テリーもたぶんなりたくなかった。それは家庭が壊れちゃうから。テリーはNWA王者時代に離婚しちゃって、チャンピオンから陥落してから再婚してる。チャンピオンのままだと離婚した奥さんを迎えにいけなかったんでしょう。

――サーキットに出っぱなしでほとんど家に帰れなかったんでしょうしねぇ。

小佐野 だから「もういいや、NWA王者は無理!」というレスラーはいたのかもしれないね。やっぱり責任が大きいもん。

――そう考えると8度もNWA王座に就いているハーリー・レイスは、おかしなことやってますよね(笑)。

小佐野 だって自分だけの身体じゃないからね。ケガして欠場したらプロモーターが困るんですよ。

――ケガすらできない!

小佐野 だってケガして休んだらスケジュールに穴を空けて、そのテリトリーに不利益をもたらすわけだから。

――お話を聞くと、アンドレ・ザ・ジャイアントがNWA王者になれなかった理由がわかりました。いろいろと無理かなあ。

小佐野 まずアンドレだとベビーフェイスすぎるでしょ。世界中どこに行っても人気者だし、それにアンドレがNWA王者だと……挑戦者が勝てそうな感じがしないでしょ(笑)。

――勝利への期待感がないわけですね(笑)。

小佐野 だからアンドレはピープルズ・チャンプというかたちのスーパースターだったんだろうね。

――ところで小佐野さんが認めるNWA最高の王者は誰になりますか?

小佐野 そうですね……やっぱりドリーかなあ。レイスもよかったと思うけど、日本人は世界チャンピオンをヒールとして見ないじゃない。リスペクトの対象に見てるから。そういう意味ではレイスはヒール色が強いよね。ドリーは初来日のときはシニアがセコンドとしてリング外からちょっかいを出していたけど。基本はレスリングの実力者としてのイメージが強かったからね。

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作/アカツキ




――リック・フレアーはどうですか?

小佐野 フレアーになると、プロモーターが認めるNWA世界チャンピオンのイメージだよね(笑)。相手の攻撃に「NO!NO!」と怯んでさ。それにフレアーはそんなに身体が大きくないでしょ。地元のファンは「フレアーになら勝てるだろ!」と思うわけですよ(笑)。

――輪島が挑戦したときすら「もしや……」と思わせる雰囲気はありましたね(笑)。

小佐野 でも、WWEがハルク・ホーガンを擁して全米侵攻したときにNWAは太刀打ちできなかったわけですよね。テレビというメディアで全米に試合が流れるようになったら、チャンピオンは強いベビーフェイスでいいんですよね。ファンからすれば、ホーガンという圧倒的に強いベビーフェイスのチャンピオンを見たあとに、NWAのヒール王者を見ると「……なんだこりゃ?」って思いますよね。

――テレビプロレスによって歴史的転換が起きたんですね。

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