4月21日に扶桑社から発売される『俺のプロレスvol.02』は新日本プロレス特集号!全128ページで新日本プロレスの「過去・現在・未来」を追っていますが、発売を記念してムックに掲載される新日本プロレス経営企画部の阿部猛さんのインタビューを無料公開! 阿部さんが開発に携わっているスマホゲーム『プロレスやろうぜ!』から新日本プロレスの今後を探ります!
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――新日本プロレスのスマートフォンゲーム『プロレスやろうぜ!』の開発に携わっている阿部さんは、新日本プロレスという会社の中でどういう立場になるのでしょうか。
阿部 いや、2013年の5月頃に突然立ち上がりました(笑)。それまではウェブ推進部という部署にいたんですけど。
――「ガオー!」と吠えていたわけですよね(笑)。その新規部署はどんな仕事がメインになるんですか?
阿部 いまの社長の手塚(要)が、新日本のゴールの一つとして「年商100億円」を掲げてるんです。43年続いてる会社ですけど、いままでのやり方ではその目標には届かないと思うんですよね。「人気が上がりました、お客さんが入りました」だけでは難しい。集客面にしても東京ドームだと3〜5万人は入るんですけど、普段は後楽園ホールが約2000人なのでゲート収入には限界があるじゃないですか。
――ゲート収入以外だと、商品販売収益などがありますね。
阿部 商品はまだまだ伸びしろがあるし、商品企画部の方々が知恵を絞って売り上げは伸びてるんですけど。いわゆるアクティブユーザーのパイを純粋を伸ばすことで、売り上げも比例して上がっていくわけですよね。そこで経営企画部が果たす役割は、ワンソース・マルチユース、ひとつのソースを使って様々なものを作っていくという。あらゆる企業に新日本というブランドをアプローチするのが大きな仕事の一つになるんです。
――その役割はだいぶ幅広いですね。
阿部 最初は正直「何をやったらいいのか?」という戸惑いはありましたよ。だからいまだに社内では「あの部署は何をやってるんだ……?」と思われてるかもしれません(笑)。
――売り上げは出ているのか?と(笑)。
阿部 何もない状態から作っていくという。かなり手探りではあるんですけど、やりがいはありますね。そこで「新日本の歴史の中でやってこなかったことはなんだろう?」と考えた場合、世の中で流行ってるものに乗っかれてなかったんですよね。最近始めたLINEスタンプとか、時流に乗った新規案件をやろう!と。いま新日本プロレスは「黄金時代」とは言われてますけど、本当の黄金時代だったときに何があったかといえば、プロレス消しゴムもあれば、プロレスフィギュアもあって、かつテレビゲームもあったじゃないですか。でも、自分たちでは手がけていなかったんですね。
――それが今回のスマホゲームの制作になるわけですね。
阿部 はい。何かそういったものを展開しないかぎり、本当の黄金時代は来ないんじゃないかという考えがボクの中ではあったんですよ。Apple Storeで「プロレス」で検索したときに、プロレスゲームが出てこないのもさみしいじゃないですか。そこに進出することでプロレスを訴求することになるんじゃないか、と。
――日本のプロレス団体が公式にゲームを作成するって初の試みですよね。
阿部 新日本しかり、ライセンスアウトしているケースはありました。「FMW大仁田厚」や「最強 高田延彦」とか(笑)。かつてはいろいろとプロレスゲームがあったじゃないですか。『ファイヤープロレスリング』、『闘魂列伝』……。ゲームを入り口にしてプロレスが好きになった方はたくさんいると思うんですよ。新日本の選手でも『ファイプロ』が好きでプロレスラーになったという話も聞いているので。
――90年代のプロレスブームって『ファイプロ』が果たした役割は大きいですよね。ボクもそうですけど、子供たちがゴールデンタイムから消えたプロレスに触れる機会があのゲームでできましたから。
阿部 ウェブ推進部でやっていたときには、手前味噌ですけど、ウェブサイトからマネタイズできる仕組みはできたと思うんですけど。今度はゲームでそれをやりたいんですよね。
――新日本プロレスのムードが変わった理由の一つには、ウェブでの積極的な自己PRが大きいですね。
阿部 ツイッターやFacebook、YouTubeでの展開ですね。それまでの新日本は情報発信力が足りない部分があったので。こうして再浮上する前の新日本も、リング上は完璧だったんですけど、それを伝える術がなかったと思うんですよね。その手段のひとつとしてツイッターを使い始めたんですが、2009年から2010年あたりでみんながツイッターを使うようになったときは、プロレス方面では新日本プロレスと高木三四郎大社長くらいしかツイッターをやってなかったんですよね(笑)。
――未開の地に仁王立ちする新日本とDDTなんですね(笑)。
阿部 プロレスではこの2つをフォローしていれば面白いという感じで皆さんが乗ってきてくださったのが、現在にまで至っていて。DDTさんがあれだけ躍進しているのは当時の展開も活きていると思います。新日本もやっぱりウェブサイトだけの情報発信には限界はあったんですよね。ツイッターなどで「新日本プロレスってこういう会社なんだよ」ってことを示すにはいい機会だったんじゃないかな、と。
――新日本のイメージが柔らかく変わりましたよね。
阿部 ニュース以外でも馬鹿なことを書いたりたりしてね(笑)。
――いま新日本のアカウトは情報のみのツイートになってますが、ファンと触れ合うなどの役割は選手個人が担ってるわけですよね。
阿部 そうなんですよ。そこは選手に託したというか、現在はほとんどの選手がツイッターアカウントを持っていますので。やっぱり選手の個性のほうが大事ですし、それ以上に目立っても仕方がないですから。
――阿部さんはライター出身だからこそ情報発信の重要性に目を向けていたところもあったんですか?
阿部 それはありましたよね。やっぱりボクがライターの頃、WWEさんとお仕事をしていたときには、彼らの情報発信力の凄さに衝撃を受けたというか。だって自分たちでオフィシャルマガジンを制作していたわけですから。
――WWFは昔からすべて自前でやろうとしてましたよね。
阿部 かなり昔から凄いことをやってるんですよ。当然そこでしか知り得ない情報を発信していましたし、ウェブに関しても当時では最先端の技術を使っていたり。YouTubeがないときから自分たちで動画をウェブに埋め込んだりするくらいですから。そうやってプロレス団体が自立してメディアになろうとしていたことにカルチャーショックを受けたんです。新日本に関わるなら少しでもその手法を参考にしたいなと思ってましたね。
――ユークス以前の新日本だったら難しかったんじゃないですかね。
阿部 あー、そうかもしれないですね。話すにも勇気がいるような。「ツイッター? なんだそれ。うまい食いものか?」みたいな感じだったと思いますよね(笑)。プロレスって根っこは興行会社ですからね。かつての新日本も「興行をやってるだけでいいんだ」という意識は強かったんだと思います。
――メディア発信はテレビが大きな柱であり、プロレス専門誌に任せておけばいいという。
阿部 そうです。でも、雑誌もスペースは限られてきますし、編集側が情報の取捨選択をするわけですよね。マスコミに頼らないというわけではないんですけど、自分たちが発信できる体力を付けないということですよね。
――昔、長州力が「マスコミは『東スポ』しかいらない」と発言しましたけど、いまは『東スポ』もいらない世界になってきたという(笑)。
阿部 そんなことはないですよ(笑)。僕たちの発信にも限界はありますから、そこはマスコミさんの役割も大きいです。
――それでスマホゲームについて詳しくお聞きしたいんですけど。制作に至るまではどういう流れだったんですか?
阿部 まずいろんなコンシューマーのゲーム会社さんと話をしたんですけど、いろいろと壁があったんです。開発費がとくにそうなんですけど。
――プロレスのゲームにかぎらず、コンシューマー向けの新作を立ち上がるのは難しい状況にあるようですよね。制作がウン億円の世界で。
阿部 それにいますぐ出せるわけじゃなくて、構想からパッケージにして売るまでに何年もかかるんじゃないですか。ボクは客観的にしかゲーム業界を見ていないんですけど、いまは続編モノが多いですし、そこは販売実績があるから続編の制作ができるわけで、新規でゲームを立ち上げるのはなかなか難しいんですよね。そういう御時世の中で、新日本プロレスのゲームをポンと出せるかというと、たとえ上り調子と言っても、ゲーム業界の皆さんは構えちゃうところはあったんですよね。
――ゲームでの実績は、ほぼゼロですもんね。
阿部 出せなくもなかったですよ。それはたとえば開発費を新日本が持つならとか。それでもボクはなんとなくいけるんじゃないかなあと思ったんですよ。本当はウチがライセンスアウトして、ゲーム会社さんに作ってもらうことを、あわよく狙ってたんですけど(笑)。それは3年前の話だったんですよ。
――あ、3年前の新日本だと、まだちょっと厳しいかもしれませんね。
阿部 ようやく上昇しかけた時期ですから。ブシロード体制になったときくらいで、そのときにウェブ推進部にいたんですけど。ユークスさんが『レッスルキングダム』を発売して以来、コンシューマーでプロレスゲームが作られていないという“溜め”はあったと思うので、ボクはいけるんじゃないかあなと考えていて。「自分が責任を負うのでやらせてくれないか」というところまで話そうかなと思ったんですけど、会社の判断は「いまはリスクを追う時期ではない」と。
――時期尚早であるという。
阿部 当時はいまのように年商も上がってなかったですし、会社の人間の目がギョッとなるような開発費の数字だったこともあって(笑)、「それより目の前の売り上げをなんとかしよう」と。それでいったんはゲームの話は消えたんです。で、昨年、経営企画部に移ったときにそのモヤモヤが残っていたので、もう1回トライしてみたんですけど、ゲーム会社もウチの会社の反応も変わらずで。
――コンシューマーの壁は高いんですねぇ。
阿部 そこで感じちゃいましたね。業界内では新日本はブームだ人気があると言われてるじゃないですか。雑誌、テレビなどで取り上げられていますし、だから「行けるんじゃないかな……」って思っていた自分がいたんですけど、まあゲーム業界では実績がないという点を差し引いても、やはりいまの新日本プロレスはまだまだ世間には届いていないわけですよね。
――ゲーム業界のほうから「ぜひ!」というレベルではない、と。
阿部 たとえば、地方に行ったときも「プロレス? いまやってるの?」と普通に言われますからね。
――「猪木、馬場どっちなの?」の世界は残ってるんですね(笑)。
阿部 そうそう(笑)。いまの新日本は繁栄していると思われがちですけど、世間への浸透具合はまだまだということですよ。なんだかんだ言ってウェブサイトのアクティブユニークユーザー数は10万人には届いてない。たとえばEXILEさんなんて東京ドームを3day超満員にしちゃうわけじゃないですか。新日本にはまだそんな体力はないですから。世間という器で考えるとブームでもなんでもないですよ。
――昔はカルチャーを語るうえでプロレスというのは必修科目だったところがあると思うんですけど。00年代前半頃から、カルチャーとしてとくに見なくてもいいジャンルになりかけていたところはあったんですが、ここに来てプロ野球でいうと、1軍昇格間近の選手がプロレスというジャンルなのかもしれませんね。
阿部 J1・J2の入れ替えに出れるかどうかのレベルです(笑)。しかも昇格したら降格しないように頑張らないといけないじゃないですか。ブームじゃなくてカルチャーにしないといけないと思うんです。昔のプロレスはブームを超えて世間に根付いてカルチャーだったわけですよね。ブームっていつかは火が消えますから。
――たとえば阿部さんがカルチャーと思えるものはなんですか?
阿部 そうですねぇ。ディズニーはカルチャーですよね。
――なるほど。カルチャーのあり方も変わってきてると言いますか、プロ野球も一般的人気がなくなってるかと思いきや、いまはどの試合もBSやCSで見られるし、パ・リーグの収益も上がってる。かつてとは違ったかたちのカルチャーとして根付いてますよね。
阿部 ボクもソフトバンクホークスのレプリカユニフォームがほしいから、東京ドームのソフトバンク主催試合を見に行きましたから(笑)。そうやって文化にしようとする努力は凄いと思うし、見習いたいですよね。ひとつ物事を伝えるにしても「見ればわかるよ」じゃなくて、それはツイッターやりFacebookで「こういう見方ができるんだよ」と発信していって。
――地上波放映で扱われば人気回復するだろうという考えもありますけど、新日本はそういったアプローチではないですよね。
阿部 テレビに取り上げられれば人気が出るという話じゃないと思いますよね。たとえば、いい時間で放送したところで、裏番組とのせめぎ合いにはなりますから、そこはまたプロレスの興行とは別の勝負が始まるわけですよね。まず僕らは「会場に来てもらおう!」というところがスタートしました。後楽園ホールの試合は絶対に面白いし、リング上で行われることを丁寧に説明にすることが大事であって。それで勢いが出たところで、今回のゲームなり、幅を広げて勝負していくわけですから。“一人勝ち”と言われますけど、勝ってない勝ってない、まだまだ世間に負けてますよ(笑)。
――そこは今回のゲーム制作でも感じたわけですね。
阿部 会社の判断としては「コンシューマーゲーム? 前にもダメと言っただろ」と(笑)。じゃあ何ができるんだろうってときに、いまスマホゲームを開発している会社さんが「新日本のゲームをやりましょう」と声をかけてくださって。スマホはゲーム機よりも普及していますから、それはコンシューマーよりもさらに上のレベルでプロレスの存在をアピールできるものになりえるじゃないですか。開発してくださったゼクスさんはプロレスゲームを作っていたし、それがいいクオリティなんですよね。開発費もコンシューマーほどではないので、会社のGOサインが出たのは去年の夏過ぎくらいですかね。
――出来栄えはいかがですか?
阿部 手前味噌ですけど、こんなに詰め込みすぎて大丈夫かなって(笑)。
――おお!(笑)。
阿部 会社の理想を具現化してくれて「こうなったら面白いんじゃないかな」「こういうゲームがやりたかった」というのを詰め込んでいるので。技の華麗さも見ていただきたいですね。
――「プロレスラー育成ゲーム」なんですよね。
阿部 自分でアバターを作ってもらって、スキルを上げて、新日本プロレスの選手を倒していく。実在する選手のコスチュームを着せ替えたり、『闘魂ショップ』で実際に売ってるTシャツと同じデザインのものを課金購入することで、アバターに着させることができます。選手がデザインしたTシャツも、ゲーム内だけで出そうかなって考えてるんですよ。中邑真輔が適当に手書きしたものでもいいんですけど(笑)。
――そこで収益を上げていくわけですね。
阿部 ゲーム自体は無料でダウンロードできます。登録してもらえればサーバーを介してランダム対戦していくかたちになります。現実の新日本のリングでG1クライマックスが始まったら、ゲームの中でもG1クライマックスを開催しますし、スーパージュニアが始まったらゲームの中でもスーパージュニアをやる、と。目標ダウンロード数は30万人なので。“30万人の1”を決める戦いになりますね(笑)。
――新日本プロレスの選手もプレイするんですよね?
阿部 ウチの選手には全員やってもらいたいと思ってます。ユーザーは選手の名前は使えないようにするので“なりすまし”はできません(笑)。当初は本隊とケイオスの選手しか出てこないですけど、いずれは他団体の選手もどんどんと出していきますね。
――◯◯さんにも出てきてほしいですね。
阿部 あー……それはコンシューマーゲームタイトル並に乗り越えないといけない壁がいくつもありますね(笑)。
――ハハハハハハ! ゲームで不安な点はあります?
阿部 ゲームの内容自体にはとくにないんですよ。ただ、「なんでコンシューマーじゃないんだ?」というファンの声が気になりますね(苦笑)。
――気にしなくていいじゃないですかね? スマホのほうが絶対に拡がりがありますよ。
阿部 いやあ、そういう声はあると思うんですよね。自分もそう思ってますから。
――自分の中から湧き上がる批判(笑)。
阿部 社内の中でも「なんだよ、コンシューマーじゃねえのかよ」と舌打ちされてるかもしれないし……。
――被害妄想の域ですね(笑)。
阿部 そういう意味では今回のスマホゲームは、新日本がゲーム業界に飛び込むいいきっかけになるし、何が待ち受けてるかわからないワクワクがあります。僕らとしてもこれを機会にいろいろなものに派生していきたいので。……コンシューマーに発展していければいいかなあ、と。
――あきらめないですね(笑)。
阿部 あたりまえじゃないですか! ボクが新日本にいるかぎりは絶対に出しますよ!(笑)。<おしまい>
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