今回の「総合格闘技が生まれた時代」シリーズは高瀬大樹が登場! PRIDEでプロデビュー。UFC、パンクラスなどでも活躍し、あのアンデウソン・シウバから三角絞めで一本勝ちを収めた姿はPRIDE名シーンのひとつ。寝技の実力者として恐れられている一方、自らの格闘技人生を綴った暴露的なブログで注目を集め、一冊の本として出版されて話題を呼んだ。そのブログも現在は更新が途絶えているが、リングに上がり続ける高瀬。リング内外で一時代を築いた男は何を思うのか――。
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――高瀬さんのように90年代から総合格闘技をやってる方って少なくなってきましたよね。
高瀬 自分も長くやるつもりはないんですけどね(笑)。やめたあとのこともいろいろと決めてますし。それに自分の場合は正直言って、干されていた時期があったり、プロレスに出ていたりもしていたんで。それは3〜4年近くありましたから。
――でも、格闘家という意識は常にあり続けたわけじゃないんですか。
高瀬 いまはもう、そこまでの緊張感はないんですよね。昔は試合になれば緊張しましたけど。こないだ伊調馨さんがうまいことを言ってましたね。「試合は発表会だね」って。いまは練習のほうがしんどいんですよ。やっぱり若い子には練習でも負けたくないんで。それに若い子と同じ練習をやっていたらずっと同じじゃないですか。もっとキツイことやらないと勝てないですから。
――高瀬さんはもともと格闘技を何もやられてなかったんですよね。
高瀬 「格闘技をやろうかな」と思った当時は骨法が流行ってたんですよね。
――90年代といえば、なんといっても骨法ですよね(笑)。
高瀬 そうですよね(笑)。骨法に大原学さんっていたじゃないですか。
――“骨法のエース”と言われた方ですよね。いまだに格闘技は続けているそうですけど。
高瀬 あっ、そうなんですか!?
――競技ではなく武道追求の面が強いんですけどね。
高瀬 そうなんですねぇ。その大原選手がペドロ・オタービオと試合してボコボコにされたじゃないですか。自分はそのとき格闘技は何もやってなかったんですけど、「俺が日本人として世界を倒してやる!」って勝手に思ったんですよね。それで初めは骨法に通おうとしたんです。
――骨法は誰もが通りたくなる道ではありますね(笑)。
高瀬 でも、『格闘技通信』を読んでいたら和術慧舟會の会員募集中の記事が載っていて。それで東京本部に見学に行ってそのまま入会したんですよ。
――慧舟會にかぎらず、当時の格闘技ジムって初心者が学びにくい環境だったと思うんですけど。
高瀬 いやあ、ちょっと無理っすよ。慧舟會本部は地下にあったし、古いし、臭いし。いま思うと、よく通ってましたよねぇ。
――それが気にならないくらい格闘技に熱中してたってことですね(笑)。
高瀬 練習していたのは常時10人くらいですかね。宇野(薫)さんや小路(晃)さんの活躍で慧舟會の知名度はグーンと上がっていきましたけど。
――そこは骨法を選んでなくてよかったという。
高瀬 結果オーライですけど(笑)。慧舟會の寝技のレベルはかなり高かったと思います。日本の中でも強い人たちが集まってたし、久保(豊喜)社長のつながりで警察に柔道の練習に行ったりしましたし。いやもう凄かったですねぇ……殺伐としていて。
――小路さんも「本当にキツかった」と言ってましたね(笑)。
高瀬 技術的には自信があったんですけど、普通に絞め落とされましたから(笑)。当時はホント寝技ばっかやってましたね。慧舟會の練習は寝技しかやらなかったですし。パンクラスに出始めた頃、打撃がある総合格闘技ルールの試合なのに練習は寝技だけ。いま振り返ると凄いことですよねぇ。
――そうやって特化することで高瀬さんの寝技は磨かれていったんですね。
高瀬 菊田軍団(菊田早苗が主宰する、新宿スポーツセンターで活動していたグラバカの礎になるグループ)にも参加していたんですけど。それは慧舟會の強い人を超えるためなんですよね。初めは菊田さんたちから“慧舟會のスパイ”だと疑われていたんですけど(笑)。
――当時はジム同士の交流が活発ではなかったんですか?
高瀬 いつ試合をするかもしれないし、もともと菊田(早苗)さんともなんのつながりがなかったんですよ。何時に練習をやってるとだけ聞きつけて、スポセンに直接乗り込んだんですよね。
――行動力ありますねぇ。
高瀬 でも、誰もいなかったんですよ。「あれ、いないなあ……」と思って帰ろうとしたら、菊田さんが現われて。そこで「菊田さん、練習させてください。お願いします!」って頼んで。それで参加したんですけど、ケチョンケチョンにやられましたね(笑)。
――“寝技世界一”はさすがに強かったですか。
高瀬 力の差を見せつけられましたね。それは周りの人たちにも。佐々木(有生)選手とか。
――当時は実力があるけど日の目を見ない選手たち、いわゆる“さまよえる格闘家”がいっぱいいましたよね。
高瀬 いましたよね。郷野(聡寛)さん、須藤元気もやってたし。あのとき宇野さんには「おまえ、(菊田軍団の練習に)ホントに行ってるのかよ〜?」って疑われてましたけど(笑)。
――それくらい交流がなかった。
高瀬 あるとき菊田軍団の練習に参加した(佐藤)ルミナさんから名刺をもらったんです。それを宇野さんに見せたら「あ、ホントだ!」ってやっと信じてくれて。それから宇野さんも菊田軍団の練習に行くようになったんですよ。
――物的証拠があってようやく(笑)。
高瀬 「なんのつながりがあって行けるの?」ってことで。それに当時の自分はガキンチョだったし、宇野さんは大人だったんで。「ホント、コイツどうしようもないな……」って感じで見られていたから信じてくれなかったと思うんですよね。
――高瀬さんはグラップリングイベント『コンテンターズ』に宇野さんとタッグを組んで出たじゃないですか。試合後のコメントブースで高瀬さんが不機嫌そうな態度でいたら、宇野さんが「ほら、ちゃんとしてないと……」という感じで気を遣ってのが印象的で。ホントに手がつけられない生意気な若者だったんだなという。
高瀬 そ、そんなところにいらしたんですか? うわあっ……(頭を抱えながら)。
――ハハハハハハ!
高瀬 ……やめてくださいよぉ。
――あまり振り返りたくない思い出ですかね(笑)。
高瀬 いや、そのときのことは全然おぼえてないです。ただ……昔の俺は酷い奴だったなあって思いますよ、そういった態度とか(しみじみと)。不愉快な思いをさせた方々には心よりお詫び申し上げます!
――急にあらたまって(笑)。当時の高瀬さんはまだ20代。若気の至りだったんでしょうね。
高瀬 当時は「周りはみんな敵!」みたいな感じの態度だったんですよね。
――そりゃあギラギラしますよね。地位も名誉も金もなくて、ただただ強さだけを追い求めていたら。
高瀬 柔らかいと言われた高阪(剛)さんでさえ当時は怖かったですからね。そこはみんなが通る道なんじゃないですかね。昔は後輩にけっこう意地悪しましたし……。
――どんな意地悪をしたんですか?
高瀬 「練習をしない」って酷くないですか? 「お願いします!」って声をかけてきてるのに。
――それは凄く嫌な感じですね(笑)。
高瀬 ホント酷かったですよ。岡見(勇信)なんてほとんど口を聞いてないし、練習もしないし。いまは岡見と一緒に練習してますけど「あのときはホントにゴメンな……」って謝ってますからね(笑)。
――ハハハハハハ!
高瀬 岡見に子供が生まれたのでちゃんとご祝儀を包んで。包むものがなかったので財布から裸で3万円を出して。岡見は最初、受け取りを拒んだんですけど、「たまには先輩面させてくれ! バチは当たらないだろ」って押し付けて。
――岡見さんからすれば、当時とは印象が違うんですね。
高瀬 ……と思ってくれてるはずですけどね。当時は悪い先輩でしたよ。ホント酷い男でした。いまは完璧になったわけじゃないですけど。それにしても酷かったなあ……。
――でも、高瀬さんは冷たい意地悪なんですね。スパーで後輩を痛めつけるとかハードな感じではなく。
高瀬 そんなの俺だって村上(和成)さんや小路さんにさんざんやられましたからね。いまでもあの当時やられた右腕が痛いですもん。
――もう普段の練習から序列を決めるサバイバルで。
高瀬 プロレスラーが肩で風を切って歩くのはわかりますよ。強さを誇示しないとナメられるわけですから。それと同じようなもんだし、そんな目に遭っていたら性格が悪くなりますよ、ホントに(苦笑)。そういう世界だと思って生きてくわけですから。
――性格が陰湿になるかもですね(笑)。そんな時代と比べるといまは優しい世界で。
高瀬 そうそう。昔と比べるといまはホントに平和ですよね。スポーツとして成り立ってますし、世界も広がってますし。でも、あの頃は……。スパーで腕を脱臼された方もいますからね、わざと。
――うわあ……。
高瀬 そんな環境でやっていれば強くはなりますよね。毎日毎日練習をやってましたしね、夜遅くまで。
――そんな高瀬さんが寝技で強いと思った選手は誰ですか?
高瀬 そうですね………練習になっちゃいますけど、ファブリシオ・ヴェウドゥムは強かったですよ。あれは強かった! ボコボコにやられたわけじゃないですけど、これは押さえ込めねえなあって。
――日本人だと?
高瀬 誰だろ……うーん、衝撃度で言えば桜庭(和志)さんは凄かったですよね。衝撃度で言えば。
――どんな衝撃があったんですか?
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