最近話題の佐村河内守氏のゴーストライター騒動。影武者・新垣隆氏が真実を告発したいまなお、佐村河内氏は沈黙を保ったままだが、もしワイドショーの独占出演するとなったらテレビ局側はいくら札束を積むんだろうか?……なんてことを考えていたらその昔、そんな取材をしたことを思い出しました。講談社の元『FRIDAY』編集長で、『週刊現代』時代は猪木政界スキャンダルの仕掛け人・仙波久幸氏のインタビューだ。仙波氏は晩年の横山やすしの番記者をつとめ、芸能界のみならずプロレス界にも太い人脈を持ち、WWEスーパースターズには「ペイントマン」の愛称で知られている。そんな仙波氏が語る芸能取材の裏側とは?【このインタビューは2012年10月に収録したものです】

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仙波 今日は「純粋なプロレスファン発言」で話題になっていた『週刊プロレス』の佐藤(正行)編集長がオススメする水道橋の『FISh』というオシャレなイタメシ屋に来ました。
――そんな場所で取材できるなんてマスコミ冥利につきます。今回は仙波さんに「アイドル取材とはプロレスである!」というテーマを無茶ぶりしてみます。
仙波 えーっ!? でもまあ、確かにそんなところもあるかもね。真剣勝負、八百長、アングル、裏切り、共闘……。
――最近のスクープといえば元AKB前田敦子さんの「お姫様だっこ事件」などがありましたが、仙波さんがバリバリの現役記者だった頃のアイドル取材というのはどんな感じだったんですか?
仙波 自分が講談社に入ったのが1985年で、ちょうどその頃というのは、いま思えばおニャン子クラブが全盛の時代だったんですよね。
――おニャン子クラブが誕生したのもちょうど85年4月ですね。
仙波 あの頃、フジテレビで『夕焼けニャンニャン』が月~金で毎日放送されていてね。個人的にはなんの興味もないんだけど、『FRIDAY』編集長からは「とにかく毎週おニャン子を載っけるぞ!」ということで追っかけさせられて……。ただ、順を追って説明するとですよ、新入社員で入って2年間は『FRIDAY』に配属されたんですけど、最初の年の8月12日に日航機墜落事故が起きて現地に何日も行って、その8月の終わり頃、編集部に「野口五郎と斉藤慶子が青山墓地付近で一緒に車を降りた」という情報が入ってきたんだよ。
――そんなピンポイントな情報がどうやって入ってくるんですか? 八百長だ!!
仙波 誰だかわからないけど、そんなタレコミがあって……。それで当時、自分が一番下っ端だったから「行ってこい!!」と言われて。でも、その日はちょうど友だちと六本木で酒飲む用事を作ってしまって、もう「(二人が)見つからなかったら見つからないですぐ帰っちゃえ!!」という、いい加減な感じで会社を出たんですよ。
――今度は試合放棄ですか。猪木vsアクラム・ペールワン戦の異様な気配を察して適当に試合を切り上げた永源遙じゃないんですから。
仙波 そんな感じで新人のカメラマンと一緒に青山へ行くと、タレコミどおりの車があるわけよ。だから、そのへんの飲食店に入っては確かめてなんてことを続けていたら、野口五郎と斉藤慶子の二人の顔が見えちゃったわけ。そこで普通だったらトラブルを起こすのはよくないから、店を出てくるまでずっと待って、外を歩く姿の写真だけを撮っておい、事務所に連絡する、という流れにするんだけど。自分もカメラマンも新人だから取材のやり方がよくわからないし、自分の個人的な事情で「早く決着つけて飲みに行きたい」と思ってたからさ。だからズカズカとお店に入っていって「斉藤慶子さんですか?」と声をかけた瞬間にカメラマンがパシャパシャ撮った。そうしたら警察に通報されて赤坂署行きですよ。
――場外乱闘反則負け! まああたりまえですよね(笑)。
仙波 署内の取調室から上司に連絡をしたら「これもいい経験だ。もう少し粘ってみろ!」と、妙な激励を受けて、朝まで事情聴取が続いてね。で、カメラマンが撮ったフィルムはドサクサの中で手渡しされて自分のパンツの中に突っ込んで隠しておいたんだけど、次の号でその写真を掲載して、トラブルが新聞沙汰になっちゃった。
――勝新より先に「パンツ事件」をやらかしてたんですね(笑)。
仙波 それから11月にはショーケン(萩原健一)事件ね。
――ショーケン事件というと、当時、猪木さんの奥さんだった倍賞美津子さんと萩原健一さんとの交際が噂されてて……。
仙波 それも「いま二人が一緒にいますよ」とタレコミがあったんですよね。で、ショーケンといえば、もうタイガー・ジェット・シンみたいなもんで、ケンカ慣れもしてるだろうし、ちょっと身体を低い姿勢にしてアゴの下から頭突きを狙ってくるんですよ。
――芸能界のジェット・シン(笑)。仙波さんは根っからの猪木信者であり、倍賞美津子ファンだったから、その密会はかなり傷ついたという話でしたよね?
仙波 そう……。倍賞さんからその場で「私には夫もいるし、娘もいるのよ」と言われてさ……。ボクは尊敬するアントニオ猪木とのツーショット写真を手帳に忍ばせながら「そんなの知ってますよ!! ボクの憧れの人はあなたなんですよ!」と吠えたかったけど……。
――ククククク。
仙波 まあ、それも結局、新聞沙汰というか、テレビのワイドショーでも大騒動になったんだけど。で、そんなことをやりながら、おニャン子ですよ。「おニャン子が人気あるらしいから毎週載せたい」ということで、一番下っ端の自分が、当時、新宿河田町にあったフジテレビで出待ちをするわけですよ。すると、そこには全国からファンが集まってて、要するに「追っかけ」ですよね。そういう人たちに「おニャン子の住所とかを教えてくれない?」と近づくわけ(笑)。
――ファンはメンバーの住所まで知ってたんですか。危ない話ですねぇ……。
仙波 でも、彼らには彼らの縄張りがあるし、「なんで取材の連中に教えないといけないんだよ」という冷た〜い空気があってさ。ただ、何度も何度も声をかけては差し入れの缶ジュースを配ったりしてるうちに、何人かのカメラ小僧からおニャン子の住所を教えてもらって、家まで一緒に行ったりしましたよ。
――完全にストーカーですよ、それ(笑)。
仙波 まあ、当時はストーカーという言葉もなかったけど。ファンの中には家まで追っかけて、たとえばゴミを漁ったりする奴もいたんだよ。そこで0点の解答用紙が出てきたり、これはおニャン子にかぎらず、未成年なのにタバコの吸い殻が出てきたり、あとは何色の下着をはいてるとかね。
――そんな酷い行為がまだ許されていた時代だったんですねぇ。
仙波 あと、おニャン子でいうと、羽田空港で乱闘になったこともあってね。移動する飛行機の時間がわかったので空港で待ち受けて、メンバーがゾロゾロ出てきたところをカメラマンが撮ろうとしたら……。
――な、なんで乱闘になるんですか?
仙波 要するに、おニャン子のマネージャーやテレビ局のスタッフたちが「何を撮ってるんだ!」ということでつかみ合いになった。で、空港の外に出ても大乱闘。だからボクの思い出で言うとね、ブッチャーとハリー・レイスが両国・日大講堂の外の路上にまで出て大乱闘したことがあったけども(76年5月)、あれの人数がもっと多いバージョンですよ。
――いまのプロレスファンにはまったく伝わらないたとえですよ! 
仙波 冗談抜きに乱闘のせいで警察が何人も来て、モノレールが止まっちゃったし。向こうが30人ぐらいで『FRIDAY』側が15人くらいいたかな?
――その人数配備、写真週刊誌全盛の勢いを感じますね。
仙波 おニャン子ってメンバーがいっぱいいるわけだから(笑)。当時人気の国生さゆりだったり、河合その子、工藤静香らは厳しくガードされてるし、写真を撮るのにもそれくらいの人数は必要だったんだよね。
――たとえば超スクープをゲットしたとしますよね。それを所属事務所に声をかけないで雑誌に載せることはありえるんですか?
仙波 基本的には連絡は入れます。「うちのタレントはその時間は仕事をしてましたよ」と人違いの可能性もあったりするし。あと、ウチの会社の場合は女性誌もあればグラビア誌もあって、社内の他の媒体になるべく影響を及ぼさないようにする、なんて配慮も必要だし。
――違う媒体とはとはいえ、相手から見れば同じ講談社ですもんね。
仙波 あとは清純派の超有名タレントが普通にプライベートでタバコを吸っていたところを撮った。もう未成年じゃないからタバコはOKではあるんだけど、タバコに関してもの凄くイメージを気にする事務所があったんですよ。そうすると、たとえば男性関係を記事にするのもやめてほしいけど、それはともかくタバコを吸ってる写真はなんとかなりませんか、とお願いされるケースがあった。
――はっはー。オトコはいいけどタバコはもっとダメ。
仙波 その女優さんは、カブキの毒霧じゃないけど、夜空に向かってパーッと煙を吐いていた。で、写真はもちろん情景描写の2~3行をなんとか勘弁してくれということで、現場の責任者の記者に納得してもらったうえで、雑誌としてはその女優さんの表紙だったり、別のPRインタビューの交渉をして着地をさせた、なんてことがありましたね。
――そこは駆け引きなんですね。
仙波 そういう交渉は若い頃にはなかなかできないけどね。自分は新入社員で『FRIDAY』に2年、『週刊現代』で7年、その後『FRIDAY』に15年間いたんだけど、編集次長になったりすると対外的な窓口になったりもするので、自分の中では、キチンと交渉ができる相手とは、何を持って配慮(オマケ)するかはともかく、「2割引きする」という感じで話し合ってましたよ。だから、知り得た情報をそのまま100パーセント掲載しないこともある。それをやっちゃうと完全に潰しちゃうでしょ。こういう商売って相手がいてこそ成り立つところもあるからさ。
――若手レスラーは血気盛んでどんどん攻めますけど、中堅になると、相手の力を引き出しつつ、自分のよさも出す感じで。
仙波 まあ、それが猪木さんの言うところの「風車の理論」かどうかはともかく、たとえば、ある有名女子アナのプライベートを追いかけてたら「2人の男」がいたんだよ。一人は遊び、もう一人は本気かな。それで、取材をかけたら、なぜかテレビ局の“心臓部”の編成から自分宛に連絡が来て「なんとか一人にしてくれないか」と……。
――さすがに2人は勘弁してくれ、と(笑)。
仙波 「局にとっても将来ある大切な存在だし、本人がぜひ直接会って話をしたいと言ってる」と。

山城新伍、大林雅美、横山やすし、松本人志・常盤貴子のスクープ話へと続く……