UWFやリングス、K-1まで、様々なリングで戦ってきた長井満也インタビューシリーズ第7弾!  今回はリングス退団編です (聞き手/ジャン斉藤)


長井満也インタビューシリーズ



――
今回のテーマは「リングス退団」になります。

長井 毎回、読者の皆さんに喜んでもらえてるのか不安なんですけど……。

――
いつも刺激的で大好評です!(笑)。リングス退団のきっかけとなった前田日明さんとの試合はいまだに謎が多いというか、長井さんも過去のインタビューでギリギリまで語ってはいますよね。

長井
 ……斉藤さんからこのインタビューのお話を受けたときに、最初お断りさせてもらったじゃないですか。

――
じつはそうでしたね。

長井
 なんでかといえば、私の過去の話を聞きたいという人の最終的な着地点はここなんですよ。そこでボクが「本当のことをこうなんです」と言ったとしても、他に影響力や発言力のある人が違うことをいえば、白も黒になっちゃうんですよ。そしてその人を支持してるファンの人から私が総攻撃を食らうんですよね。

――
Dropkickメルマガ読者は酸いも甘いも噛み分けた「大人のファン」だけなのでご安心ください!

長井
 これもいい機会だから言わせてもらうと、前田さんはヒザを大ケガしていたじゃないですか。「長井は選手生命に関わるようなケガをさせておいて、ああいう態度はどうなんだ?」っていまでも噛み付いてくる人がいて。言っときますけど、ケガさせたのは俺じゃないですからね。別の選手とのスパーリングの最中にケガをしたんですけど、どういうわけか俺が前田さんにケガさせて、そこまで迷惑をかけているってことで、いまだに文句を言っている人がいるんですよ。そういうイヤな思いしかしないから、斉藤さんのインタビューのお話をお断りしたんです。でも、こうして受けたのは……最初に答えを言っちゃうけど、前田さんとの試合後のリング上で、私が「どうして田村(潔司)さんばかりを贔屓するんですか?」みたいなことを「言った」とされているじゃないですか。

――
長井さんが田村さんに嫉妬したことが前田さんと揉めた原因とされていますね。

長井 ボクはそんなことを言ってないですし、ボクが引退したあとに「長井はあんな情けないことを言った奴なんだな」っていうふうに思われるのもイヤだなと思ったんですよ。ボクが何も発信しないままだとボクが認めちゃってることになるのがイヤなんです。ここで否定的なことをいえば、「また長井があんなこと言いやがって」と思う人もいるかもしれないけど、やっぱり自分の口から言わないと「女々しいことを言った」ってことを認めちゃうことになると思うので、だから最終的にこのインタビューのお話を受けようかなと思ったんですよ。

――ありがとうございます!

長井 ただ、100あるうちの90までしか話せないかもしれないし、「残りの10はなんだろう」と想像してもらったほうが面白いかもしれないですね。

――
“行間を読む”ってやつですね。

長井
 もうひとつ、こういうことをいうと、ゴマを擦っているように感じちゃうかもしれないけど、いままでのインタビューも斉藤さんがすごい気を遣って書いてくれてるじゃないですか。

――「これで気を遣っているのか?」って読者はびっくりしてると思います!(笑)。ボクも長井さんに合わせてギリギリの編集はしているつもりです。

長井
 私はマスコミや記者の方で仲良くさせてもらってる人もそんなにいないし、やっぱり信用できない人もいるんですよ。ぶっちゃけ「俺が言ってないことも書いてるな」みたいな。斉藤さんはボクが言ったことをオブラートに包みながら、ちゃんと書いてもらってるので。

――
そう言っていただけるとありがたいです! ちなみに「最終的な着地点」をリングス退団に捉えているマスコミは多いとは思うんですけど、ボクは長井さんもタッチした「アルティメットロイヤル」の全貌も届けたかったりするので、引き続きよろしくお願いします!(笑)。

長井
 わかりました(笑)。

――
結果的にリングスラストマッチとなった前田戦に至るまでのお話を聞きたいんですけど、長井さんは比叡山に山籠りされたときがありましたよね。

長井
 ありましたねぇ。よくプロレスや格闘技の大きなビッグマッチの前にどこかで修行するときがありますよね。大半は絵作りですけど、たぶんプロレス界でね、ボクだけだと思いますよ。本当に1ヵ月半とか2ヵ月ぐらい、比叡山の弁天堂に修行に行かされたのは(笑)。

――
リアルで修行してたんですか!(笑)。

長井
 これはボクが若かったんですよね。前田さんがリングスのメガバトルトーナメントで優勝したあとだったのかな?「リングスはプロレスではない」みたいなコメントを出したことなかったですか?

――ありましたね。90年代のU系は「プロレス」という言葉に敏感だった時期で……。

長井
 ボクはプロレスラーを目指してこの業界に入って頑張ってきたし、たとえばエンターテイメントとして魅せるリングスの試合もやるし、競技としても「やれ」と言われればふたつ返事で「はい。わかりました!」とやるのがリングスのプロレスラーだと思ってたんです。ボクにとってそれが“プロレス”なんですよ。だからその何ヵ月かあとの興行かなんかで「ボクはプロレスラーとしてやっていく」みたいなコメントを出したんです。そうしたらその発言が前田さんと会社の逆鱗に触れて「許しが出るまで比叡山に行ってこい。帰ってくるな」と。

――
それくらい“プロレス”という言葉はセンシティブだったんですねぇ。だからって比叡山で修行って!(笑)。

長井
 比叡山の中にある弁天堂っていうところに行くことになって。朝起きて、掃除して、お経をあげて、お寺のそういう諸々の手伝いをして……。お坊さんの新弟子みたいな方たちと一緒に生活してたんですよ。

――プロレス格闘技はまったく関係ないですね(笑)。

長井 お寺のお坊さんがやる千日回峰行という修行もやりました。夜中にお寺を出て、比叡山の中を千日ぐるっと回るという修行があるらしいんですけど、ボクもやれと言われて。たしか夜中の12時とか1時ぐらいに出発して、最初は「ここを回るんですよ」って付き添いの人が一緒に回らせてくれるんですけど、次の日から自分1人だったんです。明け方の5時か6時ぐらいにお寺に帰ってきて、そのままお手伝いをするっていうのを1ヵ月半ぐらいやってましたね。もうほとんど寝られなかったです。

――というと、練習はされてないんですね。

長井
 それにお寺だからお肉はダメなんですけど、そこにはヘビを祀ってるんで卵だけは食べていいという規則があって。卵だけは食べれたんですがすごく痩せました。プロレスラーでボクだけだと思いますよ。絵作りじゃなくて、本当にお寺に飛ばされたのは(笑)。

――しかし、ペナルティがあるにしても、お寺に送り込むってどういうことなんだろうって(笑)。

長井
 だから会社の言うこと聞かないと、こういうペナルティがあるんだぞ……って見せしめ的なところもあったんじゃないですかね。

――
リングスはそれくらいプロレスのイメージをかなぐり捨てたかったということですね。

長井 でも、当時のリングスは『週刊プロレス』や『週刊ゴング』の媒体に載っていたじゃないですか。究極いえばですよ、「ウチはプロレスじゃないから、掲載しないでください」っていうスタンスを取ればよかったと思いますよ。

――
前田さんが「プロレスって言葉がきらいな人 この指とーまれ」というコピーで『格闘技通信』の表紙になってますが、その『格通』とも微妙な関係になったり。リングスという場があまりにも特殊だったのか、当時『週プロ』編集長で『格通』にも影響力のあったターザン山本さんとの関係悪化説もありますけど……。

長井 ボクはそのへんはっきり覚えてないですね。でも、ああいうペナルティは、いまではいい思い出ですよね。なかなかできないことではありますから(笑)。さっきと同じ話になっちゃうけど、エンターテイメント的な試合もしっかりこなして、競技でやるのがリングスのプロレスラーだと思うし、そんなことできるのは当時リングスのレスラーしかいなかったと思うから、ボクはプロレスラーに悪いイメージもなかったです。逆に「こんだけのことができるのは他にいないだろう」という誇りはありましたけどね、ボクの中には。

――リングスがおっかないのは「エンターテイメント的な試合」だったはずなのに、そうじゃなくなることもあったわけですからね。のちに完全競技のKOKルールに移行しますが、その前にバーリトゥードルール(現在のMMA)のワンマッチをやりますよね。

長井
 ボクが在籍してるときに、外のリングですが山本(宜久)がヒクソンに挑戦をしたり、リングスでも山本とヒョードロフさんがそれぞれやったことを覚えてるんですよね。

――
ヤマヨシさんがヒカルド・モラエスにKO負け。サンボマスターのヒョードロフさんもグレイシー柔術のアジウソン・リマに負けたんですけど、51歳でMMAに出て10分戦ってのガス欠ですからね。リングス道場の裏にあった川に入って手づかみで鯉を捕まえただけのことがありますよ!

長井
 あのバーリトゥードはボクにしたら残酷すぎるんですよねぇ。だから諸手を挙げて「俺も次、行きます!」って感じにはならなかったです。

――
でも、当時のプロレスファンってU系プロレスラーにはバーリトゥード出撃待望論は常に抱いてましたよね。

・前田さんがバーリトゥードに挑戦していたら
・デビュー戦前夜の秘められた約束
・リングス最後の試合、前田日明戦
・「誰を連れてくればいいんですか?」
・藤波辰爾の意外な行動
・リングスは画期的な団体だった……11000字インタビューはまだまだ続く

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