年に一度のペースでDEEP代表の佐伯さんから日本格闘技界の現状をうかがうインタビューをやってますが、その取材前、韓国ブラックコンバットのパク・シユンvs須田萌里で起きたシユンのグローブ掴みの件で関係者と電話でやりとりする佐伯さん!
佐伯 ……お待たせしました。
――いろいろと大変そうですね。DEEPの選手を派遣しているとはいえ、自分の団体で起きたことではないから対処も難しいですし……。
佐伯 ホント難しいんだよね。ウチで何か起こったら競技統括しているJ-MOCさんを通してやりとりすればいいんだけど、向こうはブラックさんに権限があるのか、競技をどこでコントロールしているのか。そこがよくわからないんですよ。だって今回の件に対するブラックさんの声明もいきなりYouTubeで動画をアップしてるんだよ。
――えっ、あれって当事者の須田選手に対して連絡をしたうえでのアップじゃなかったんですか?
佐伯 うん。それだと問題がまたややこしくなるよね。
――須田選手が納得するかはともかく「話し合い」をすっ飛ばしたら、こじれるに決まってますよね……。そもそも主催者が競技に関して裁定を下すと「何か裏があるんじゃないか」と疑われますし。
佐伯 そうなんだけど、最終的にはその責任を負うのは競技陣じゃないと思ってるんですよ。アメリカみたいにコミッションがあるんだったらわかるよ。選手が何か問題を起こしてコミッションが出場停止処分を下したら、アメリカではどこの団体でも試合はできなくなるじゃん。でも、日本にコミッションがないから、たとえばウチが出場停止にしても他の興行に出れちゃうわけだから。
――だから問題を丸く収められるのは興行側ってことですね。
佐伯 そうそう。ブラックさんはそこができなかったんだけどね(笑)。トラブルの話って、選手が何を望んでるのか、興行側がどうしたいのかによって話は違ってくるよね。もう1試合を組むのか、お金なのか、裁定の変更なのか……そこは競技陣じゃないところに話が行っちゃいますよ。
――木村ミノル選手のドーピングの件も本来は競技管轄の立場から説明すべき事柄ですけど、興行が絡んでくるから代表の榊原さんが説明するしかなくて。UFC279の試合前日カード大シャッフルも競技から完全に逸脱してましたね。
佐伯 そこは難しいところなんですよね。今回のブラックコンバットでは大原(樹理)選手の試合を止めるのが早かったじゃないですか。それは試合内容やレフェリーの経験値やレベルによって違ってくるし。
――同じシチュエーションの試合ってあるわけないから「正しい・正しくない」ではないですよね。
佐伯 そうそう。ストップの基準を統一することは難しい。逆に「なんで早く止めなかったんだ?」ってときもあるし。
――よほどジャッジがおかしかったら興行側が仲介して解決を図るしかないわけですね。
佐伯 そこは体重オーバーのときもそうですよ。たとえば大晦日RIZINのアーチュレッタ選手と海選手の試合もそうだけど。「選手がオーバーしました。競技的には中止です」。それでお客さんが何も不満がないとなったらボクらは簡単ですよ。
――「はい、試合が中止になりました」で済むのなら。
佐伯 そうはいかないからキャッチウエイトがあったり、ペナルティつきで試合をするんだけど、やったらやったで「なんでやるんだ?中止にすべきだ!」という声も出てくる。これ、永遠に終わらないテーマです。
――そもそも計量オーバーは「不測の事態」だから、正解といえる対処法はないですよね。
佐伯 あとはプロモーター、競技陣、選手も含めて話し合うしかないけど、もう難しいんですよ。ストップのタイミングでいえば、外国人選手は当然、国民健康保険に入ってないから、ケガした場合の治療費ってけっこうかかるんですよ。変な話、競技陣に「治療費の問題があるから外国人の場合は早く止めてください」なんてお願いできるわけないでしょ(笑)。
――ハハハハハハハ! 「外国人がチャンピオンになると、防衛戦をやるときに航空費&宿泊費がかかるので判定のときは……」みたいな話になりかねない(笑)。
佐伯 UFCなんて練習でケガしたときの治療費も持ってくれると聞くけど、あれはUFCだからできることだよね。それはスタンダードだと思われても困るというか。たとえばドーピングの問題もそうですよ。抜き打ちまでやってるのはいまのところUFCだけですからね。
――RIZINもいろいろ言われがちけど、試合前にランダム検査を自主的に導入しているのは世界でも異例だったりするんですけどね。
佐伯 それでいえば、これはちょっとどう言っていいかわからないけど……正直よくみんなが「世界に負けた」というけど、ホントに世界に負けたのか。負けたのは●●●●●だから、なんじゃないかって(苦笑)。
――ハハハハハ! こないだ某日本人が出た海外の試合もあきらかに異常でしたよね(笑)。
佐伯 どの選手とは言わないけど、そういうことじゃん(笑)。俺らと文化が違うから、UFCと契約するまでに命を削ってもいいと思ってるファイターもいると。
――UFCデビュー戦になると「あれ?この程度の選手でしたっけ?」ってパフォーマンスが低下しているケースもありますよ(笑)。
佐伯 ウチもドーピングはタイトルマッチだけはやりたいんですけど、試合後おしっこが出るまで帰れない。ということは後楽園ホールでは不可能なんです。会場使用時間の関係で「もう会場から出ていってください」と言われるから。前に後楽園でやったときにメインの選手が試合後にインタビューの途中で出てってくださいと。
――「地方大会の場合はどうするの?」という話にもなってきますね。
佐伯 地方に検査員を派遣するのもお金がかかるからね。だからよく世界標準とかいうけど、「世界=UFC」という定義があるなら納得できる。UFC以外の世界の団体はそこまでいろんな面で徹底的にやってるんですかね?
――そこまでじゃないですねぇ。そのUFCだってオリンピックではアウトな大麻はオッケーだったりしますから。まあそこまで踏み込んだら出場停止を食らう選手が続出して興行的に成立しないからなんでしょうけど。
佐伯 ジャンルや団体の規模によって取り組み方は違ってくるってことだよね。ウチはJ-MOCさんができる前から競技陣といろいろと話はしていますよ。たとえば5分2ラウンドルールのときは踏みつけはダメ。やっぱり3ラウンドのトップレベルじゃないとサッカーボールキックは危ないという見方もできるし、女子はヒジなし。そこを細かく変えてるのはたぶんウチぐらいだと思うんですよね。「5分2ラウンドじゃなくて5分3ラウンドがいい」という話にしても、5分3ラウンドで10何試合も見るのはお客さんも厳しいじゃん。
――RIZINなんかのオールスターシステムなら、5分3ラウンドで10何試合は成立しますけど……。
佐伯 だからっていまのやり方をよしとはしていないし、やっぱり穴があると思いますよ。そこは話し合いを重ねながら改善しています。セコンドのタオル投入がないところもありますよね。投げてもレフェリーが気づかないこともあるし、無関係の第三者がタオルを投げたら困るし。
――物事を諦めたときに「タオル投入」という比喩が使えない時代!
佐伯 今回のブラックコンバットだとセコンドが日本語で「グローブを掴んでいる」ってアピールしたけど、レフェリーが日本語がわからないので言語の問題もあったかも。ちなみにグローブは英語?韓国語ではなんだろうね。実際にボクは大会途中に通訳をセコンドの横につけさせてほしいと頼んだら、OKが出たけど通訳が座る椅子がないと。大会途中だから用意もする人がいないっていう(苦笑)。
――ブラックコンバットは始まったばかりでまだ興行をわかってないところはあるってことですね。
佐伯 そのへんはまだ昔の日本に近いと思うんですよ。たとえばウチはジャッジ同士が判定時に会話する機会が生まれないように席を離している。ブラックコンバットには延長ルールがあるんだけど、延長の裁定を出す前になぜかジャッジが集まって話し合ってるんだよ。
――えーっ!(笑)。
佐伯 延長ルールがあるんだったら話し合う必要ないでしょ。集めたジャッジペーパーを見ればすぐに延長だってわかるんだから、ジャッジが集まる意味がわからない。そのへんの競技性がまだ整備されてないってことなんだけど、日本でも改善すべきところはまだありますよ。たとえばボクはレフェリーやジャッジをやっている人間が、別の大会とはいえセコンドにつくのはおかしいと思う。だってジャッジのときは判定やブレイクに関しては客観的な判断が求められるのに、セコンドとして「勝ってるぞ」とか「もうすぐブレイクだよ」って選手に寄った指示をしたらいろいろとおかしいでしょ。
――選手との関係性なんかを穿った見方をされても不思議じゃないですね。
佐伯 だってJリーグだとチームのコーチやトレーナーが審判をやってないですよね。「自分のチームの試合じゃないから審判をやっていいだろう」とはならない。
――でも、そこまではっきりと立場を分けられるほどジャンルが大きくないという。
佐伯 そういうことだよね。やるとなったら莫大なお金がかかりますよ。だからさっきから言うように「UFCならばできることがあるけど……」ってことなんですよ。
・海vsアーチュレッタの着地はすごい
・計量オーバーのペナルティ
・RIZINに出場する方法
・トップブライツに圧力はあった?
・ずっと「冬の時代」
・ヒロヤ、西谷大成の育成……15000字インタビューはまだまだ続く
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ゲルさん、日本総合格闘技界のオジキ。
いつかジャンさんにその半生をインタビューしてもらいたいです。
いつまでもいつまでも、元気に長生きしてくださいね。