多くのMMAファイターをマネジメントするシュウ・ヒラタ氏が北米MMAシーンを縦横無尽に語りまくるコーナー。今回も13000字で語ります(この記事はニコ生配信されたものを編集したものです)


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月に一度のお楽しみ、シュウ・ヒラタさんのマシンガントークのお時間です。

シュウ そろそろしたら本野美樹選手の試合なんですよ。中国のHappy Elephant MMAというほっこりするネーミングのイベントなんですけど(笑)。

――本野選手はたしかアメリカのマネジメント会社イリディアムと契約してますけど。シュウさんは何か関わってるんですか?

シュウ これはABEMA TVのMMA留学、Fighter’s Diaryの一環として組みました。本野選手はあの企画でシンジケートMMAに行って練習しているんですけど、本当のところは、イリディアムと契約したのに全然試合を組んでくれないから、という理由もあるんです。いい機会ですから、ご説明したいと思います。これはね、ぜひ選手の皆さんにも考えていただきたいんです。イリディアムからしたら、日本人ほど都合のいい選手はいないんですよ。それはなぜか? 2つ大きなポイントがあります。ひとつ目は、ほとんどの選手が「日本のことは自分でやりたい」というからです。つまり日本での試合に関しては、いまのまま道場主やコーチ、選手によってはお父さんかお母さんかわからないですけど、いままでどおりに任せたがるんです。

――たしかにイリディアムと契約したけど、日本のことは自分でやってる選手がほとんどですね。

シュウ 日本のことは日本人に、日本のこの業界がわかっている人のほうがいい、と。べつにそれ自体は間違いではないんです。けど、逆の発想でこう考えてみていただきたいんです。マネジメントからしたら、選手と契約したら、試合を組んであげないといけないと必死にいろいろと営業するんですよね。だって試合しないと、選手は次に繋がる白星もお金も稼げないですし、試合を組んでほしいとこちらに仕事を依頼してきているわけですから。けど「日本のことはいいです」と言われたら、マネジメントからしたらすごく楽ですよね。「話してみたけど、UFCはダメでした。なら日本で試合して白星つけてください」と突き放して終わり。これで済みますからね。

――うーん、心当たりがある選手がいますね……。

シュウ けど、我々の感覚だと、それはないんです。UFCがダメだったらPFLに営業するか。それともベラトール、KSW、RIZIN、ONE、Oktagon MMAか? いや、それともフィーダーショーで1~2試合勝ってから、またUFCにトライする?……という話をして、向こう1年ぐらいの計画を立てて、そのプランに見合った団体に営業をしていくものなんですね。「日本のことは、どうぞ」と突き放すようなことしたくないですし、それもマネジメントとしておかしいと思っているんです。選手と共犯関係になれていないと思うんで。

――共犯関係が築けるかどうか。

シュウ そうなるとイリディアムからしたら、アジアのRoad to UFCに引っかかりそうな戦績の選手なら、とりあえず契約して営業してみる。それでダメなら「また日本で頑張ってね」というだけ。本野選手なんて、まさにそのケースだったんです。当初今回のRoad to UFCでは、女子のストローやフライが組まれるかも?という噂が流れてはいたんで。

――Road to UFCで女子のトーナメントが組まれるという噂はよく耳にしました。

シュウ 結局それがなくなっても「ワンマッチで女子の試合が組まれるかも?」となり、それも結局ダメだったから、それで私のところに話が来たということなんですよね。ですから、イリディアムのやり方はたとえとしてピッタリハマるかは微妙かもしれないですけど、下手な鉄砲球撃ちゃ当たる的なアプローチですよね。多くの選手たちをベルトコンベアの上に乗せて流れ作業のように営業していくだけ。それでピックアップされたらいい、みたいな。それで2年とか契約して、そのあいだUFCから契約が取れなくても「日本で試合してるんだから、いいでしょ」となるわけなんで、マネジメントからしたら凄く楽じゃないですか。次が2つ目のポイントになるんですけど、日本人選手はクレームを入れないんですよ。普通2年契約で試合を組まなかったら、リリースしてくれという話になりますよね。試合を組むのがマネジメントの仕事なのに「それができないのに、なんで拘束するんだ!?」とクレームをつけるのが普通なのに、日本での試合は「こちらでやれるから」と言っている手前なのか、それとも仕方ないと思っているのか「そうですか、無理でしたか」で終わるんです。これが日本人以外なら、ほぼ100%リリースしてくれとなるんです。もっとしっかりとしている選手なら、マネジメント契約するときに「初めの3ヵ月、半年で試合を組めなかったら、選手側から契約を破棄する権利がほしい」と主張する選手もいます。

――そうじゃないとマネジメント契約はしないですよね。

シュウ そのへんのファイトビジネスを理解していただきたいんですよね、選手の皆さんには。選手の寿命はそんなに長くないです。短いキャリアの中で2年は長いですよね。けど日本人選手の多くが、凄く礼儀正しいんです。「2年という契約書にもうサインしちゃっているから、ちゃんとそれは全うしましょう、社会人としては正しいかな?」という結論に辿り着くんです。でもビジネスの世界って、そんなに簡単なものではないと思うんです。もちろん、そこまで考えないで契約した自分が悪いという考えもありだとは思いますけど、それなりの成果があると思って契約したのに、何も結果が出ないのなら、クレームとまでは言わなくても、契約の見直しを申し出るとか、ある意味、フレキシブルになんでもありの感覚も持たないと、そのままで潰れたら、それまでですからね。だから選手の皆さんには、もっと個人事業主の感覚を持って、貪欲に、そして必死になっていただきたいんですよね。利益を上げられると思って契約した取引先から何も発注がなかったらどうするんですか? しかも独占とかで縛られて。契約書にハンコついてから諦めるとかいう話でもないですよね。なので、本野選手は今回、私がブッキングしてあげたんです。そこまで試合を組んでくれないならマネジメント契約を破棄すればいいんですけど……。

――日本人ファイターが続々とイリディアムと契約したら「みんなUFCと契約できる」「日本人の個人マネジメントいらない!」みたいな声が挙がって。「いやいや、そんな簡単な話じゃないですよ」ってことは、ここでも言ってたんですけどね。

シュウ まあ、日本人格闘家の多くがマネジメントの役目や仕事内容をまったく理解してないと思うんですよ。どこかの事務所と契約すれば、すぐにメジャーのイベントに出られると思い込んでいる。笑っちゃうのは、ウチとまだマネジメント契約していない某選手に「ウチにはスポンサーがいるからアメリカでの練習用資金を出してあげる」と誘ったんです。で、次に話したら「アメリカのマネジメント会社から連絡があって、もしもUFCと契約できたらサポートしてくれるそうです。どう思います?」って聞いてくるんですよ。

――えっ、契約を目指してサポートしてもらうのがマネジメントですよ!

シュウ ホントそうなんですよ(苦笑)。ウチは契約する前からサポートして売り込んであげると提案してるんですけど、アメリカのマネジメント会社というだけで「すごい!」と勘違いしてしまう選手が多いってことですよね。

あとね、イリディアムと契約しただけで、UFCに行けると思っている選手たちに厳しいことを言ってしまえばですね、私もそうですし、他にも日本でマネジメントの仕事をしている人それなりにいますよね。それからイリディアム以外にも、日本人に声をかけている日本国外のマネジメントいますよね。中村倫也選手がイリディアムから鞍替えしたFRM(First Round Management)もそのひとつですし。我々だって商売ですから、常にいろんな選手を見ているんですよね。どこからも、いままでまーったく声が掛からなかったのに、イリディアムから声が連絡がきたら、なんでそこで自分がすぐにUFCに行けると思うんですかね……という視点で考えてみてもいいと思います。日本の芸能界じゃないんですから、大手の事務所と契約したら、すぐに行けるみたいな感覚なら、そんなに甘い世界だと勘違いしているのなら、プロスポーツの世界の厳しさをもう一度考え直してみた方がいいかもしれないと思うんですよね。

――平良達郎選手がUFCと契約できたことで「大手はやっぱり違う!」という印象になっちゃったんですが、平良選手はウエイティングリストの上位だったわけですし、この手の話はいくらでもあるんですけどね。

シュウ 平良選手に関しては、ここでも何度か説明しているので、詳細は省きますけど、一回断られて、それなら何が足りないのかを聞いて、それを埋める試合をして、しっかりとフィニッシュして勝ったらいけたんですよね。まずここを理解しないといけないと思うんです。あとはまずイリディアム自体の評判を調べようって気にならないのもおかしいですよね。ジョン・フィッチとかポッドキャストでクソミソに言ってますし、オーナーが事件を起こしたり……ちょっとネットで検索すれば、すぐにわかることなのに、ということなんですよね。倉本選手が練習が行っていたヘンリー・セフードが練習しているチームのFight Readyはイリディアムのマネジメントしている選手は出禁なんですよ。マネジメント単位で、選手を出禁にするって普通ない話だと思うんですよね。

――いったい何をやったらそんなことに(笑)。

シュウ 私はいろいろと聞いてますけど、まあ、それはここでは言えないんですけど……。本野さんの話に戻ると、中国の大会だからいろいろありまして。契約書に書いてないのに、向こうが用意した試合のコスチュームを着ろと。本野さんが日本から持ってきたものを着ちゃダメだと言われたんですよ。たぶんコスチュームに大会のスポンサーが付いてるからなんでしょうね。

――UFCのユニフォーム制度っぽい感じですね。

シュウ 本野さんから連絡を受けて、ボクがアメリカから「契約書には書いてない」と文句を言ったら、本野さんのコスチュームで試合していいってことになったんですね。もっと面白いのが試合用のグローブ。まず「Sサイズのグローブしかない」と言い出して。Mサイズは左しかない、右がないと(笑)。

――ハハハハハハ! ズンドコすぎますよ(笑)。

シュウ あと「これはタイトルマッチだから相手と同じサイズのグローブじゃないといけない」とかふざけたことを言い出したんですよ(笑)。ミキちゃんに「日本からオープニングフィンガーグローブを持ってきてる?」って聞いたら、「RIZINのグローブも持ってきてますよ」と。

――本野さんってRIZINには出たことないですけど……。

シュウ セコンドのRENAちゃんが持ってたんですよ。向こうの主催者に「このままだと試合に出ないし、タイトルマッチが飛ぶよ」と優しく脅したら、RIZINのグローブを認めてくれました。優しく脅すのがポイントです(笑)。

――「RIZINグローブの使用を……認めたため!」(笑)。

シュウ ミキちゃんはしっかりしてるから、すぐボクに連絡してくれるからいいんですけども、中には「仕方ない」「そうかもしれない」って納得しちゃう日本人選手がいるのかなと思うと、そこはやっぱり気づいてほしいですよね。

――海外だと勝手が違うから受け入れちゃうこともありえますもんね。

シュウ まあ本来マネジメントのアドバイスがなくても、選手が現場で押し切っちゃったらいい話だと思うんですよ。日本人選手は大人しすぎると思うんだよね。オリンピックの柔道で誤審で金メダルを逃した篠原信一選手と同じですよ。おかしいんだったら座り込まなくちゃダメ。

――畳から降りちゃダメだと。いまの若い子には伝わらないたとえです!(笑)。

シュウ というわけで、本野さんはRIZINのグローブで試合しますので、ちょっと楽しみですね。

――RIZINのグローブを使ったことでRIZINが抗議したら面白いですよね(笑)。

シュウ ああ、RIZINから許可を取ったほうがいいとか、全然考えもしなかったですよ(笑)。

――次の話題です。だいぶ前の話になっちゃうんですけど、シュウさんが担当する井上直樹選手がRIZIN名古屋の太田忍戦を欠場しちゃいました。


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