――今月もシュウさんにいろんな話をうかがいたいと思いますが、なんといっても井上直樹選手のビッグマッチが決まりました!
――嬉しい誤算ですね(笑)。ここで勝った者同士が7月に王座決定戦で対戦するということですが、7月ってけっこう早いですよね。
シュウ もしケガしたらどうするのかなあという懸念はありますよね。そうなると、大晦日になる可能性もありますけど、試合が終わってみないとわからないですし、これは“見えないトーナメント”みたいなものですから。
シュウ 契約更新という条件で合意しました。まあ、詳しい契約内容は言えないですけど、チャンピオンになった際は防衛戦も当然あるということです。
――そのアーチュレッタ戦に向けて、井上選手はアメリカへ練習に行かれるみたいですね。
シュウ 今回はですね、フロリダのキルクリフ・ファイトクラブに行くんですよ。チームメイトだったメラブ(・ドバリシビリ)とアルジョ(アルジャメイン・スターリング)はニューヨークから法人税と所得税のないラスベガスに引っ越してますから。そのへんのタイミングが合う・合わないもあったんですけど、彼らレベルになると所得税がかからないのはデカいのでね。
――彼らは高給取りですもんね。
シュウ ただ、キルクリフには木下憂朔選手も戻ってますし、佐藤天選手もいます。で、直樹くんって非常にシャイじゃないですか。パンデミックになって日本に帰ったとき、水垣(偉弥)さんやニックさん(永末貴之 )と練習を始めたときも、心を開くのに1年ぐらいかかってるんですよ(笑)。
――ハハハハハ!
シュウ つまり、この短期の合宿で心を開くのは不可能なので、そういうことも考えて、面倒見がいい先輩・佐藤選手がいたりするジムがいいなと思って選びました。あとは、なによりもコーチですよね。あそこにはヘンリー・フーフトというストライカータイプのコーチがいるんですけど、それプラス、レスリング対策がガッチリできるいいコーチがいるんですよ。普通に考えて、アーチュレッタは直樹くんとボクシング、打撃ばっかりの勝負は仕掛けてこない。当然トータルMMAで戦ってくる。となると、MMAレスリングも重要になってくる。なら、いろんなタイプの練習相手がいて、ちゃんと教えてくれるコーチがいるキルクリフを選びました。
――キルクリフは中量級がメインではないかという話がありますけど。
シュウ いや、フライ、バンタム、フェザーもいっぱい選手がいますよ。何か日本人選手が海外で練習となると、ファンは「どれだけ有名選手と練習できたか?」ばかり気にしている感じがしますけど、それって、普通にスポーツという観点で考えたらズレているじゃないですか? クラブ活動の延長みたいな感じで「有名選手と汗流せてよかった」ぐらいの感覚なら、もうそれこそ青春の思い出にバンド組んで、ちょっと地元のフェスに出れたからよかったぐらいの感覚に近いものがあって。それって本気でこのスポーツで食っていこう、そのためにはもっと強くならないといけないというコンセプトと違ってきますよね。そういうことをいうと、一部の若い人たちは「オヤジ、うるさい!」となるのはわかるんですが(笑)。
――YouTubeのスパーリング企画が好評のせいか、有名選手と練習できれば強くなると思われがちですね。
シュウ じゃあ1人いい選手がいるからその人と練習すればいい……と勘違いするんですけど、それってけっこう短絡的な感覚なんですよね。まず名選手が名コーチだというわけでもないですし。もちろん、近くでチャンピオンの練習とか見るのは勉強になりますよ。でも自分に何が足りないか、どうすれば勝てるか?それを一緒に考えてくれるのはコーチですから。選手は勝って稼ぐ、そしてコーチは選手に勝たせて稼ぐ。これがプロスポーツには一番大切な「共犯関係」だと思うんですが、有名選手と練習しただけ、しかも極めて短期間。それで劇的に強くなるほどスポーツは甘くないですから。自分を強化するのに必要なコーチがいるかどうか、練習相手がいるかを考えなくちゃいけないわけなので。だからこそ倉本一真選手もファイト・レディを選んだのは、べつにヘンリー・セフードがいるから選んだのではなく、やっぱりコーチのエリック・アルバラシンがいるからなんですよね。
――やっぱりコーチが重要なんですね。
シュウ あとは練習相手の豊富さですよ。いろんなタイプの練習相手がいることが大切です。で、アーチュレッタと対戦するんだったら、彼のことを知っている選手やコーチがいるところにいったほうがいいわけで。だから、まずはコーチをベースに考えなくちゃいけないと思いますね。ちなみに、初日は私もちょっと顔を出そうと思うんですよ、フロリダまで行って。ちょっと転校生につきそうお父さんみたいな気持ちです(笑)。
シュウ 半分冗談、半分本気なんですけど、この前も直樹くんとビデオ電話で話したんですけど、「直樹マニュアルをコーチに伝授しなきゃダメでしょ? キャバ嬢のように、コーチから話を引き出すようにお願いしますと言うからね」と言ったら「よろしくお願いします」と言ってましたから(笑)。
――本人もそれは認識しているということで(笑)。
シュウ やっぱり大一番ですからね。日本にいる選手からよく「いまやれるだけのことをやる」という言葉を聞きますが、もちろんそれも全然間違いではないと思います。ただ世界のトップを目指すのなら、やるべきことをやれるとこに行くという感覚も必要だと思うんです。
シュウ いや、必ずしもアメリカだけだと、ボクは思っていないんです。ブラジルだって、ヨーロッパだって、ロシアだって、いいコーチがたくさんいますからね。だって、普通にコナー・マクレガーが練習してたチームとか、ヌルマゴメドフのコーチとか、選手なら気になりませんかね? 倉本選手の場合も、まずコーチをベースに考えたんですよね。太田忍選手とやるということは、けっこう前から決まってたので。そうなると、どういうコーチがいいのか、どんな部分を強化すべきなのかという。やっぱりいまの倉本選手は、元谷選手とかアラン・ヒロ・ヤマニハ選手との戦いで、どうしても最後は打撃で相手の顔を殴ることにこだわっちゃうというか。まあ、いろいろ課題がある中で、どのコーチについたら強さを見出せるかと考えたときに、それがエリックだったんですよ。相性とかどれだけの熱量を持って面倒を見てくれるかとか、いろんな要素も考えて。そうすると、面白いことに、あそこらへんの有名コーチになると、拠点がアメリカとブラジル両方にありまして、有名選手の試合が決まったら有名選手のファイトキャンプについていくかたちで動き回っているんですよね。そこをうまいタイミングで行けたのが、セフードが復帰するという今回のだったんですよ。そうすると「セフードにとっても倉本くんはいい練習相手じゃないか?」ということでコーチを口説いたんです。
シュウ 大変です。例のABEMAのMMA留学でも、有名コーチにアプローチするんですけど、まずスケジュールが合わない。それに生半可な金額ではやってくれないですよね。
――はー、やっぱりお金がかかるわけですねぇ。
シュウ だってPPVボーナスをもらえる選手を見ているとすると、その1割でももらえたら、それだけで凄い金額じゃないですか。コーチをまず押さえるというのは、じつは本当に大変な話なんです。有名なコーチはお金だけじゃなく、いま見ている選手をチャンピオンにすべく指導しているし、昔から見ている選手もいますし、じゃあその選手を押し退けて知らない選手をいきなり教えるわけにもいかない。
――じゃあ、倉本選手は非常にレアな例だったんですね。
シュウ ジョン・ジョーンズやセフードにアテンドしてもらったんじゃないんです。ベガスにいるスポンサーを呼び出して、金を払わせたということです。さすがスターが所属するチームの力は凄いなあと思って。
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