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大晦日MVP級の死闘で湧かせた武田光司インタビュー! 試合の裏側も死闘だった(聞き手/松下ミワ)



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――
「大晦日のMVPは武田光司だ」という声が多いです!

武田 正直、あんまり実感ないです(苦笑)。というのも、1ラウンド目にあの右ストレートをもらってから、2ラウンド目の終盤ぐらいまでぜんぜん覚えていないので。

――
えっ、そんな状態だったんですか? 試合後のコメントでは「ダウンから戻ってこられたのは、みんなの歓声があったからだ」と言われてましたね。

武田
 「ワー!」という歓声は聞こえたんですけど、記憶という部分で振り返るとぜんぜんないんですよ。あとから映像を観て、やっと客観的に「あ、こういう動きをしていたんだな」って知ったという。

――
じゃあ、なぜ自分があのダウンから復活できたのかもわかってない。

武田
 いまいち(笑)。もう、そこは気持ちと根性でやり切ったんじゃないかなと思っています。勝ち負けに関しては……まあ、本当に勝ちたかったんで、悔しい気持ちが大きいですけどね。

――
今回の試合はしっかり映像で振り返ったんですか?

武田
 振り返りましたねえ。振り返りたくなかったですけど(苦笑)。なので、ちょっと分析をすると、ガジ・ラバダノフ選手はオーソドックスの構えなんですけど、けっこう前手のジャブとフック、それから右足でのロー、カーフキック、ハイキックを蹴ってくるイメージがあって。だから、前手の攻撃をもらわずに、どうかいくぐって前に詰めるかというのがボクの中の課題だったんですよね。で、向き合うと喧嘩四つになるわけですけど。

――
武田選手はサウスポーだから。

武田
 だから、ボクはできれば右側に回りたいんですけど、相手がけっこう前手を出してくるので、簡単には右に回れなくて。最初に左にステップインしてから右前に詰めようと思っていたんです。そしたら、ボクが左にステップインしたときに、まさかのドンピシャで相手の右をもらってしまって。そこはボクの作戦ミスでしたねえ。

――
だからこそ相手のパンチ力が発揮されたんですね。

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武田
 ボク、去年5月ぐらいにハワイに出稽古に行っていたんですけど、あのステップもハワイで習ったものなんですよ。でも、そこでドンピシャでやられちゃって。あとは、予想以上に相手の圧が凄かったんですよね。いままで戦った相手の中で一番でした……。

――
やっぱり、プレッシャーも凄かった。

武田
 だから、そこはボクが根負けしちゃった部分もあるというか。あそこでもっと前に行けていれば、もっと打撃を当てることができたかもしれないなと思いますね。

――
じゃあ、あの打撃でダウンしたあとは、完全に“セルフモード”になってたということですか……。

武田
 だから、本当はもっと身体を動かして頭を振ってダッキングしたかったんですけど、そのあとも正面で向き合ってしまったので。それで、パンチもボコボコもらっていたんじゃないかなと思います。

――
それでも全然倒れなかったと思うんですが、それっていったいどうしてだったんですかね?

武田
 それは、ボクが聞きたいぐらいです(笑)。もう、気力でしょうね。あとはやっぱり、歓声も力になったんだと思います。

――
2ラウンドはどのぐらいから記憶が戻ってきたんですか?

武田
 ええっと、タックルに入られて、ボクがコテで相手のタックルを凌いだシーンがあると思うんですけど、その前ぐらいからですかね。コーナーでの壁レスあたりからかな?

――
そういうシーンは、まさにレスリングの勝負でした。

武田
 でも、相手はレスリングも強かったですねえ……(しみじみと)。もう、その一言しか出てこない。ボクは投げメインのグレコローマンスタイルで、ラバダノフ選手はタックル主体のフリースタイルなので、根本的にMMAの相性も凄く悪かったんですよね。ラバダノフ選手はやっぱりテイクダウンできるからこそ、おもいっきり打撃も振れる。ボクの場合は、パンチを出して、組み付いてからが自信があるスタイルなので、ボクは完全にインファイト型、ラバダノフ選手は中間距離から打撃を出してタックルに来る。だから、そこの距離感の違いもあったし、レスリングという部分でも得意なポジション、得意な場所がまったく違ったので、壁レスも強かったです。

――
でも、武田選手も壁レスで入れ替わったりして、ぜんぜん負けてませんでしたよね。

武田
 あそこらへんは練習していましたから。でも、思った以上に相手の壁レスが強かったので、ボクはもっとレスリングを練習しなきゃダメだと思いました。足りなかったのは、レスリングとボクシング。打撃ももっと特化しないとダメだと感じましたね。

――
以前、宮田(和幸)さんも「◯◯スタン」と名のつく国のレスラーは全員強いとおっしゃってました。

武田
 ああ、強いですよ。ボクもレスリングやっていたときに、そういう国の選手とも試合をしましたけど、なによりも身体のつくりが違うじゃないですか。フィジカルも違えば、身体能力もまったく違う。ただ、強いていえばそういう選手は体力がなかったりする人が多いんですよね。MMAでも、終盤になってくるとバテてくる。レスリングは、ボクが競技者の時代は3分2ラウンドとか2分3ラウンドだったんですけど、最後のほうになってくると疲れてくる選手が多くて。だから、勝てるとしたらそこだなと思っていたんですよね。

――
今回の試合も、終盤に持ち込むほど武田選手が有利だという予想が多かったですよね。

武田
 体力は無駄にあるので(笑)。

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――
逆に、そういう選手が急に失速してしまうのは、なんなんでしょうね?

武田
 たとえば、ボクは試合で70~80パーセントの力をずっと出しつづけられるんですよ。だけど、マッチョな人やスタン系の国の選手たちは、130パーセントとかの力をいきなり出すんですよね。最初にバーッと出すぶん、それを持続するのは無理なんだと思います。

――
おお、なるほど。

武田
 だから、ボクの場合は同じペースでずっと走り続けられる長距離走型。でも、そういう選手たちは短距離走型で、何回も短距離を走っているから持続できないという。最初は100メートルを10秒で走れても、次からは12秒、13秒になっていく。わかりやすくいうとそういう違いですね。だから、ボクの場合は70~80パーセントで戦いつづけて、行くときは120%出したりして。

――
そういう強弱もあるんですね。そして、事前の予想どおり、やっぱり途中から武田選手が優位に試合を進めているというか。ラウンドマストだったら武田選手が勝っていたという声が多いですよね。

武田
 「たら・れば」になりますけど、ラウンドマストだったら2、3ラウンドはボクが取っていたんじゃないですか? だけど、そこはもう仕方がないというか、相手がRIZINルールにしっかり則って戦ってきたわけなので、負けは負けです。

――
実際、判定を聞いたときはどう思いました?

武田
 いや、負けたと思いました。よければ2-1で負けて、悪ければ3-0でストレート負けだろうなって。だから、納得ですね。だから「惜しかったな」とか言われるんですけど、蓋を開けてみたら綺麗に負けているんで。でも、楽しかったですよ。

――
あの激闘を押して、楽しかったですか(笑)。

武田
 勝ち負け抜きに、最初に出てくる感想は本当に「楽しかった」ということです。

――
試合中の歓声も、過去イチでしたよね?

武田
 凄かったですよねえ。去年は4戦しましたけど、ジョニー・ケース選手と戦ったとき以上に歓声が大きかったし。なにより良かったのは、去年それまで外国人選手と4戦していたことですよ。場数も踏めたし、経験も積めたし。あとは組力ですよね。スパイク・カーライル選手、ジョニー・ケース選手、まあザック・ゼイン選手は普通に勝っちゃいましたけど、みんな組力が強い選手だったので。そういう選手たちとの試合があったからこそ、今回の試合が生まれたのかなと思っています。

――
武田選手って、対外国人ファイターの試合でめっちゃ燃えますよね。

武田
 しかも、ボクは毎回毎回、下馬評で負けると言われている側なので(苦笑)。それを覆すのが好きですね。だから、チャンピオンとしてドンと構えている立場は向いてないというか。挑戦者の気持ちのほうが戦っていて楽しくなるし、追いかけるほうがボクは好きです。

――
それにしても、あの会場の熱というのは、前の試合で一本・KO勝ちが続いていて、さらに対抗戦の開会式でPRIDEの曲が流れたこともあって。その熱を武田選手の試合が受け継いだところもあると思うんですけど、武田選手自身はPRIDEのテーマ曲が流れることは知っていたんですか?

武田
 いや、何も知らなかったです。笹原さんから「オープニングは2部制でやる」「凄く気持ちのこもった、気合いの入るオープニングなので、楽しみにしておいてください」くらいしか言われてないです。だから、曲が流れた瞬間は「マジかっ!」と。ボクはPRIDE世代でもないんですけど、格闘技をやっている人であの曲を聞いてテンションが上がらない人はいないですよね(笑)。

――
同じチームRIZINだった扇久保(博正)さんいわく「あの曲が流れ始めて、RIZIN側の選手が急にアップしはじめた」と言ってたんですけど(笑)。

武田
 あ、ホントですか?(笑)。もしそうなら、勝手に身体が動いたんじゃないですかね? ボクは第1試合だったので、ずっと動いていましたけど。たぶん、それは大和魂ですよ。

――
それぐらい、選手側もあそこのテンションはおかしかった。

武田
 おかしかったです。もう、これ以上に気持ちが上がることは当分ないなと思いました。試合に関してはまたべつですけど、オープニングに関してはあれ以上に気持ちがいいオープニングはないと思いますね。

――
ちなみに、いつもは集合してすぐにオープニングじゃないですか。今回は、待たされてのオープニングだったと思いますが、何かその違いってありました?

武田
 ええっと、ボクはいつもと同じ11時に会場入りしたんですけど、じつはそこも凄く迷って。対抗戦の開会式に間に合えばいいので、本当は15時30分ぐらいに集合でOKだったんですけど「11時に来た人はリングチェックできます」と。そうなると、そのへんのルーティンは崩さないほうがいいなと思ったので、ボクは11時に入りました。でも、蓋を開けてみたらそうしてよかったなと思いましたよ。会場の雰囲気に慣れることも大事だし。

――
たしかに、ラバダノフ選手とかビックリしてましたもんね。会場に来たら、熱がピークだったという(笑)。

武田
 そういう意味でも、いつものRIZINとは違った雰囲気なので、早めにチェックしてよかったです。

――
ちなみに、海外のイベントだと「2時間前ぐらいに入ったほうが、選手の精神安定的にもベターだ」という意見を聞いたんですが、そこは実際どうですか?

武田
 うーん、ボクはけっこう切羽詰まっちゃうタイプで、家にいても気が気じゃないんでねえ。

――
ハハハハハ! まあ、そうですよね。

武田
 だって、家でも「あと何時間後に試合か」とかやってると、ソワソワするじゃないですか。だったら、最初からいい緊張感を持って会場にいたいです。ボクは気持ちのつくり方も尻上がりなので。ちなみに、今回ホベルト・サトシソウザ選手とクレベル・コイケ選手と控室が一緒だったんですけど、あのふたりは遅くに来ていましたから。

――
人によってスタイルが違うということなんですね。

武田
 あと、ボクはさいたまスーパーアリーナが家から近いですからね(笑)。

――
武田選手は埼玉住まいで。

武田
 混んでいても車で50分ぐらいで着くので。帰りなんか本当に30分もかからないんですよ。だったら、早く行っても変わらないじゃないですか。

――
どの場所で緊張するかだけの違いということなんですね(笑)。試合後のヌルマゴとのシーンも胸熱でした!

武田
 うれしかったですよねえ。「レスリング、強いな」とか「コングラッチュレーション」とか、英語で話しかけられて。あの瞬間って、ボク自身は意識朦朧としているし、セコンドの人たちに「スミマセンでした……」という感じじゃないですか。でも、そこでリングに上がってきてくれて、なによりそういうふうに言ってくれたのがうれしかったですよ。あと、「タフガイ」とも言われましたし。

――
ヌルマゴに「タフガイ」って言われるっていいですね(笑)。
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