――笹原さん、THE MATCHおつかれさまでした。
――ハハハハハハハハ!
笹原 もう最後のほうは意識が朦朧としていて「……あれ?俺が捕まったのかな?」って思い込んじゃうくらい疲れてましたから。
――最後の最後まで、ただでは終わらないTHE MATCHってことですね。
笹原 まぁでも、THE MATCHのPPVが50万件を突破したことをABEMAさんから聞いて、一気に目が覚めましたよ! 50万ってとてつもない数字ですよ。普段は口もきかないABEMAの北野さんと抱き合いましたから(笑)。
笹原 普段は口もきかないというのはもちろん冗談ですけど、ABEMAも数字はもちろん上がってほしいけど、あまりにアクセスが集中すると…みたいな不安もあったみたいなので、大きな事故もなく配信できてこの数字を叩き出したのは本当に凄いですよね。間違ってABEMAがボクに社長賞とかくれないですかね?
――厚かましすぎですよ!そんなことよりも一部のファンが「今回の儲けが“メイウェザー資金”になる!THE MATCHは実はTHE MONEYだった!」って戦々恐々としてますよ! メイウェザーが朝倉未来戦の記者会見に出ただけで2億円もらったとか言い出したこともあって。
笹原 それ、デマですよ。会見に2億も払うわけないじゃないですか。まぁメイウェザーはそういう物言いをあえてしてるってことですね。
――なるほど。そうやってメイウェザーは己のブランドイメージを高めてるってことなんですかね。
笹原 THE MATCHが商業的に大成功に終わったことで、あることないこと……いや、ないことでしかない噂が飛び交うと思いますから、皆さんも落ち着いてください。
――「笹原さんがABEMAの社長賞として2億円もらった」という噂が出かけないか不安になってきましたよ(笑)。それにしてもTHE MATCHの50万件突破って前代未聞の数字ですね。
笹原 羽毛よりも口が軽い斉藤さんには教えられないですが、試合当日だけで過去のプロレス格闘技イベントのPPV件数の記録を突破しましたから。
――これまでのPPV記録は2002年の国立競技場『Dynamite! 』の10万件といわれてますけど、「試合当日だけ」の売上だけでその記録を……。
笹原 軽く超えてますね。
――うわー、試合当日だけで軽く10万件を! それでよくサーバーが止まらなかったですねぇ。
笹原 画質もめちゃくちゃ綺麗だし、100万件くらい申し込みがあっても大丈夫なくらいのサーバーを用意していたみたいですし、違法動画動画に関しては30人体制でバンバン叩きまくってるみたいです。6月20日の夜に天心vs武尊のメインだけをABEMAで無料放送したので、そこからPPVの購入者数はまだまだ増えそうですね。
――それは地上波がなくなったことも大きいんでしょうね。
笹原 ノー地上波がブースターになったことは間違いないです。地上波がなくなったとたんにABEMAはこれまで以上のプロモーション展開をしたんですよ。具体的な金額は言えないですけど、聞けば「マジか!」って驚くほどのお金を使ってテレビコマーシャルを打つ、都内に広告トラックを走らせる、駅広告を出しましたから。「ここぞ!」というタイミングでお金を張ってギャンブルに勝ったって感じですよね。
――サイバーエージェントの藤田(普)社長は麻雀打ちですし、ボクとは時期が被らないんですが、雀鬼・桜井章一のところで麻雀を習っていて。恐れおおくて雀鬼の門下生アピールってできないもんですけど、雀鬼いわく「俺との関係を公言しているのは藤田くんと……オマエだけだ」と。まあボクのことは、ものすごく苦々しく口にしてましたけど!
笹原 そりゃあABEMAとDropkickじゃ50万どころが5億倍以上の違いがありますよ! だいたい今回は相手が降りた瞬間にリーチして、直後にリャンピンを暗カンしたらドラがモロ乗りして、安パイがなくなったフジテレビが暗カンの壁を頼りにフジテレビマークと同じ目玉のイーピンを振り込んで、裏をめくったら裏ドラもモロ乗りでリーチタンヤオの手が数え役満になったみたいな話ですよ!
笹原 歴史が動く、パラダイムシフトが起きるときって自分たちの力ではない見えない力が働くんだろうなって思いました。“神の配剤”じゃないですけど、たとえば武尊選手が6月にケガをしていなければ、昨年末にこの試合が行なわれていたらって考えると、本当にいろんな偶然が重なっていますよね。
笹原 アメリカの人口と比べると日本は3分の1程度。そう考えると今回の結果はアメリカでいえば150万件規模。アメリカでは100万件が大成功のひとつの目安になっていますけど、日本市場もそのポテンシャルがあるってことを証明できたってことですよね。
――海外のPPVはなかった理由は何かあるんですか?
笹原 海外配信の話もあったんですけど、やはりキックボクシングはドメスティックなジャンルで、海外ではビジネスにできるほどの反響はないんですよ。
――キックって日本独自の文化に近いですもんね。
笹原 でも私が聞いた話だとダナ・ホワイトはTHE MATCHのことは全然知らなくて、「ああ、あのメイウェザーとやった選手(那須川天心)出るのか」程度で。ただ、東京ドームが完売したゲート収入の話を聞いたら「……おいおい、詳しく話を聞かせてくれ!」って前のめりになったそうですけど(笑)。
――さすがはダナ・ホワイト(笑)。THE MATCHというイベント自体が素晴らしかったですね。
笹原 RIZINからは選手は誰1人も出てないんですけどね(笑)。
――選手じゃないですけど、オープニングの高田キャプテン、映像制作の佐藤大輔、選手コールでレニー・ハートさん。RIZINが運営としたことで、イベントの雰囲気はRIZINそのものでしたね。
笹原 そりゃそうなりますよ。べつにRIZINっぽくしてやろうと思って作っているわけじゃなくて、絶対に面白いものにしてやろうという一心だけなんですけど。
――お客さんの反応も「RIZIN演出最高だ!」みたいな声が圧倒的でしたし。
笹原 今回の特効(特殊効果)だって東京ドーム史上最大くらいに火薬や炎の機材や液体燃料を使ってますし、とにかくお客さんを楽しませて、驚かせて、選手にもやる気になってもらう! といういつも通りのスタンスでやったという感じです。
笹原 これは本当に大変でした。選手が「THE MATCH2をやりたい」とか一夜明け会見で口にするたびに耳を塞いでましたから(笑)。
――ハハハハハハ!
笹原 たとえばプレスリリースや、SNSのアカウントの運用、記者会見の進め方、券売管理、営業セールスのすり合わせ、競技運営とか、とにかくあらゆる実務の作業を本当にゼロから組み立てなきゃいけませんでしたから。
――リングにしても新しく用意するところから始めて。
笹原 K-1やRISEのリングだと、どちらかにアウェイ感が出ますから。RIZINのリングを使おうにも、RISEの選手と違ってK-1の選手は一度も試合経験はないですよね。なのでK-1でもRISEでもないリングを探してきました。そして中立のイベント性を表現するために純白のリングにしようと。コーナーポストを真っ白に塗り直したんですよ。だからぱっと見は「あれ?新しいリング作ったの?」って感じだったと思います。で、大会が終わったら赤と青に塗り直して戻すんですよ。
――だからグローブの色も白で。
笹原 グローブも新しく用意しました。K-1とRISEのグローブはそれぞれメーカーが違いますからね。天心vs武尊のグローブに関しては、ボクシンググローブの老舗メーカーであるウイニングと決められてたんです。 だったら、他の試合もすべてウイニング製にしようとしたんですけど、あれって職人の手縫いなので間に合うかどうか……という問題もありましたし。
――ゼロから用意しなきゃいけないことだらけなんですねぇ。
笹原 オープニングセレモニーも、そもそも「やらなくていいじゃないの?」という意見もあったんですよ。
――ああ、RIZINだとあたりまえだけど、やっていない団体の方が多いですもんね。
笹原 天心武尊に関しては戻しの体重計量もあるし、「オープニングに出てもらうと2人に負担が増えるのでは?」とか、逆に天心武尊が中心のイベントなんだから「オープニングは2人だけで良いのでは?」とか……もうみんな好き勝手なことを言うわけですよ(笑)。それを1ミリずつ説得して、ようやくあのかたちになったんですよ。
笹原 狙いとしてはキックボクシングの集大成という意味合いなんですけど、そうなると旧K-1のイメージが強いですよね。リングで戦うのはいまのK-1やRISEの選手たち。『エンドルフィンマシーン』だけは外さないようにして、そのあとは新生K-1、RISE、最後に天心vs武尊の煽り映像でも使用したエヴァンゲリオンの曲を流すかたちに落ち着きました。そう決まったのもたしか大会の5日くらい前ですよ(笑)。
――オープニングの構成だけでも、そんなに気を遣うわけですねぇ。
笹原 リングアナやラウンドガールもそれぞれの団体から派遣されてますから、偏りがないようにどこで登場するか調整して……メインのリングアナはRIZINの太田(真一郎)さんで、ラウンドガールはK-1、RISEからそれぞれ2人にしてとか、とにかくバランスをとることに腐心していた感じです。
――調整作業を想像しただけで吐きそうになってきました。
笹原 RIZINは選手も出してないし何もやってないじゃないか……って思われるかもしれないですけど、死ぬほど細かい作業を延々とやってたんですよ。
――じつは6月上旬にRIZIN LANDMARKをやろうとしてたけど、もし強行していたらTHE MATCHも修羅場になってたでしょうね(笑)。
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