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part92
あのときなぜバックステージ動画が公開されていなかったか。秋山成勲にかけられたクリーム以外の疑惑――たとえばメリケンサック――についても山田氏は洗いざらい語ってくれた。総文字数24000字、試合中に「すべらせろ!」と叫んだ山田武士が語る「桜庭和志vs秋山成勲」。
――なぜかというと、あの試合直後から山田さんはご自身のmixiでいろいろと発信されていたり、他媒体でも取材を受けていたからで、山田さんの言い分を聞くまでもなかったという。ただ、15年経ったいまでも、秋山さんにクリームを塗った“首謀者”だと言われていますよね。
山田 まだ言われるのかって、ちょっとビックリですよね……。
――このインタビューをしたところで、また「本当のことを言ってない!」という反響が出てくる虚しさはあるかもしれないですが、それでもおうかがいしたいと思います。
山田 はい、よろしくお願いします。じつはあの試合があったとき、ウチの子供が生後半年だったんですよ。ウチの嫁と試合のあった大阪に来ていて……それがもう中学生ですからね。時が流れるのは本当に早いし、その子供が「えっ、そんなことがあったの?」ってネットで調べられる年齢じゃないですか。
――「ウチのお父さんはこんな悪いことをしていたの?」と。あの当時のニュース記事ってあまり残ってなくて、疑惑だけがネットを彷徨ってるところはありますね……。
――あの事件直後に関係者で何かしら発信していたのって、山田さんぐらいなんですよね。
山田 そうなんですよ。成勲がホントに塗ってるとは思ってないからmixiでも、そういった疑惑の声に反論しましたし。
山田 そうなんです。ホントに何も知らなかったし、まさか塗ってると思わず成勲を庇い続けたのにね。運営側も成勲と組んで桜庭さんを陥れようとして「グルだ」とか言われているけど、そもそも桜庭vs秋山というカードが組まれたのは、たしか“桜庭さん推し”だったからですよ。
山田 あの2006年は桜庭さんや成勲の階級でトーナメントをやっていたじゃないですか。10月の大会で2試合、成勲は準決勝ケスタティス・スミルノヴァス、決勝メルヴィン・マヌーフに勝って優勝しましたけど、桜庭さんは8月のスミルノヴァス戦で、勝ったけども結果的にとんでもない試合だったじゃないですか。
――桜庭さんがスミルノヴァスの打撃を食らって半失神状態なのに試合は続行されて。
山田 桜庭さんは耐えて耐えて、スミルノヴァスがスタミナ切れして一本取ったみたいな。それで10月9日に成勲と桜庭さんの準決勝をやる予定だったんですけど、桜庭さんが体調不良でトーナメントを途中離脱したんですよね。そんな中で成勲が優勝したんですけど、その優勝後のマイクに関して、試合を中継していたテレビ局のTBSか、FEG(HERO'S主催者)スタッフのどちらかが成勲に「リング上から桜庭さんに対戦要求してくれ」と。
山田 でも、こっちからすると「え?」と。だって、同じトーナメントに桜庭さんは出ていたわけだし、成勲はそのトーナメントで優勝したわけですから。だから、それを言われたときは成勲も明らかにムスっとしたんですよ。「そんなこと言いたくない」っていう表情。だけど、そこは成勲なんで、マイクを渡されたら解説席にいる桜庭さんに向かって「桜庭さん、お疲れさまです。ケガを早く治されて、大晦日やりましょう」とアピールしましたけどね。だから、運営側としてはあの試合は桜庭さんありきで組んだと思いますよ。それにHERO'Sは試合時間を1R10分・2R5分に変更してましたし。
山田 だから、桜庭さんありきの大晦日だったんですよ。
――ただ、TBSは秋山さん推しだったというところはあるわけですよね? 要は、桜庭さんはPRIDE、つまりはフジテレビのスターで、TBSからすれば自分たちでスターをつくり上げたかったというか。
山田 まあ、もちろんそれはあったと思いますけど。あとは大晦日だから、それなりのカードが必要になってくるじゃないですか。
――大晦日にクライマックスを持ってこないといけないから、日程優先でカードを組まないといけない。だからFEGは秋山さんにマイクアピールの指示をしたし、秋山さんは優勝直後で不満ながらも受け入れたんですね。
――そもそも、当時の秋山さんと山田さんはどういう関係性だったんですか?
山田 まあ、成勲がMMAを始めてすぐの頃から「打撃を教えてほしい」ということでボクのところに来てたんで。週3~4回は一緒に練習してという感じでした。
――当時山田さんのチームは「チーム黒船」と呼ばれてましたが、あれはジム名でもなんでもなく、あくまで山田さんが指導している練習メンバーの名称ですよね。
山田 はい。当時、ボクシングジムでMMAの打撃を受け入れているジムはほとんどなかったんですよ。若干ボクシング側がMMAをバカにするというようなスタンスだったから。でも、ボクはそういう偏見もなかったんで、志のある人間がだんだんつながりの中で集まってきたという。
――それが「チーム黒船」だった。ただ、そのメンバーがみんな“仲間”かというと……。
山田 仲間ではないですね。練習では会うし、たまにマススパーとかをやるぐらいで。でも、一緒に遊びに行くなんてことはたぶんゼロです。
山田 先に決まったのが成勲の試合だったからです。10月の大会で成勲がトーナメントで優勝して、「桜庭さん、大晦日にやりませんか」というアピールをした時点で、もうほぼ試合が決まってるわけじゃないですか。たしか、成勲の試合は10月の時点でもう決まっていたんですよね。で、あの頃のPRIDEってカードが決まるのが遅かったんですよ。結局、石田くんは五味隆典選手、川尻くんがギルバート・メレンデスに決まったんですけど、あれも成勲の試合が決まった全然あとなんで。
山田 だから、ボクは「チーム黒船」のみんなの試合が重なったときのために、あらかじめルールを決めていたんです。「最初に試合が決まったほうのセコンドに付く」「あとから決まった試合のほうがデカいから、そっちに行くわというのはナシにしましょう」と。だから、川尻くんも石田くんも、ボクが大阪に行くときに超寂しそうにバイバイしましたよ。
――「なぜPRIDEではなく秋山成勲に付いたのか怪しい」と言われがちですけど、そういうルールがあったと。
――そして、試合当日の状況ですが……。
山田 その日は、ボクはセミファイナルで魔裟斗くんとK-1ルールで戦う鈴木悟のセコンド仕事もあったんですよね。
――山田さんは、メインの桜庭vs秋山の前にもセコンドに付いたんですね。
山田 しかも、2人は逆コーナーだったんですよ。成勲は赤コーナー、悟は青コーナーだったんで。だから、ボクはドームの1塁側と3塁側の控室を行ったり来たりしていて。成勲のバンデージを巻いて、走って移動して悟のほうでアップしてという。そういう感じでバタバタだったんです。
――いまだったら運営側が気を利かせて同じ控室にしてそうですけども。
山田 でも、悟の試合が決まったのが大会3日前ぐらいだったんですよ。もともとは魔裟斗くんとチェ・ヨンス(元世界WBAスーパーフェザー級王者)との試合が決まってたけど、チェ・ヨンスがケガなんかで急に出られなくなったんで。そういう急な事情もあったかもしれないですね。
――じゃあ、運営側が気を利かせなかったというよりも、土壇場すぎて変更のしようがなかったという。
山田 スケジュール的に難しかったというのはあったと思いますね。
――セミからメインまでの山田さんの動きをもう少し詳しく教えてもらえますか?
――ボビーvsチェ・ホンマンというのは魔裟斗vs鈴木悟のひとつ前の試合ですね。
山田 で、悟に「この試合、けっこうすぐ終わるかもしんねえから、早めに行くぞ」とか言ってたら、本当にすぐ終わっちゃったんで。
――あの試合は1ラウンド16秒で終わっちゃいました。
山田 そこから悟の試合だったんですけど、あの悟はローを効かされて2ラウンドで負けて、彼を控室に連れて行って。そうしているうちに、すぐにメインの桜庭vs秋山の煽りVが始まっちゃってたんでね。まあでも、ちょっと長い煽りVだったんで、そのあいだに走って反対側の控室に行って、走ってるあいだに成勲のTシャツに着替えて、で、そこでもう柔道着を着て入場待ちの成勲がいたんで「悪い、遅れた」と合流した感じです。
――この件では、グローブに付いていたスポンサーの「EDWIN」のロゴが剥がれていたことも問題として取り上げられました。それがグローブ細工疑惑の発端になるんですが……。
山田 それは試合前のボクとのアップのときに剥がれてました。成勲に「悟の試合に間に合わなくなるから、先にパンチのアップをやろう」ということでやってたら、汗で剥がれて「EDWIN」のロゴがペラっとなったんですよ。そしたら、成勲がそれを口でくわえてバリッと取ったんですよね。
――なるほど。あれはEDWIN製のグローブということじゃなく、もともと主催者は用意したグローブに、大会スポンサーだった「EDWIN」のロゴをくっつけたかたちだったわけですよね。
山田 そうそう。アイロンの熱か何かでくっつけてあるだけ。
――同じ大会では他の選手のグローブもロゴが剥がれかかっていたという報告は記者会見でされています。当時EDWINに直接電話して「あれって剥がれるんですか?」と聞いて「剥がれません」という回答を得た方がいたんですけど。EDWIN製のグローブじゃないし、EDWINも「剥がれます」と不良品扱いはできないんですよね。
山田 まあ、言えないでしょうね。そこは谷川(貞治/FEG代表)さんも剥がれた際の映像をチェックしてますね。そのときに例の「すべらせろ!」の確認も取れて……。
――山田さんが試合中、秋山さんに「すべらせろ!」という指示を送ったことが……桜庭さんの「すべるよ」とシンクロしてしまったという。
山田 あれは、ボクが立嶋篤史に「ローキックは床をすべるように蹴れ」とアドバイスしてもらったことを参考にしているんですよね。床スレスレで蹴ると、相手の手でキャッチされないから。だから、足を床にすべらせるように蹴れというのをずっと言っていて。だから、その調査の段階で、そのロゴが剥がれたときのアップ映像を谷川さんが見て、そこでもボクがずっと「すべらせろ」と成勲に言っているのを確認してますから。2人でアップしている練習シーンの中で、ボクが「ダメダメ、上から蹴らない、床をすべらせろ」と。その途中でロゴがバリッと剥がれる映像を谷川さんが見ているんで、「すべらせろ」発言に関しては解決しているという。
山田 言わないですよ! 絶対にないですけど、もしボクがクリームを塗っているのを知っていて本当にすべらせたいんだったら、よけいに言わないですよ。
――そのアップの段階で秋山さんの身体にクリームを塗っていたということはなかったんですか?
山田 クリームは、時系列でいうとボビーvsチェ・ホンマンの試合の最中に塗ったらしいです。
――山田さんはボビーvsチェ・ホンマンのときは鈴木悟選手と一緒でしたよね。現場にいなかった山田さんがどうやってその事実を知ったんですか?
山田 ボクがどこで知ったかというと、年明けの1月10日に帝国ホテルのミーティングに呼ばれたからなんですよね。
――どういうミーティングだったですか?
山田 あの日は、審判団・代表の磯野(元)さん、和田(良覚・当試合サブレフェリー)さん、久保(豊喜・当時GCMコミュニケーション)社長、そして成勲と、試合でセコンドに付いた門馬(秀貴)が集まっていて。
――久保さんは和術慧舟會の方で、競技統括という立場ですね。磯野さんも和術慧舟會でしたし、当時K-1系のMMAイベントの競技周りは和術慧舟會が運営していました。
山田 ボクには当日の朝に門馬から突然電話がかかってきて「塗っている映像が確認されました。これから首脳陣で集まって会議をするんで、帝国ホテルに何時に来てください」と。こっちからすれば「ど、どういうこと!?」ということで、わけもわからず帝国ホテルまで飛んで行ったわけです。
山田 で、ボクはほとんど話がわからないまま行ったんですけど、もうその場所には「オーレイ クエンチ ボディローション エキストラ ドライスキン」という例のクリームが置いてあって「現物はこれですよね」と。で、ボクは何もわからないから「どういうことなの?」と聞くんだけど、もう門馬も秋山もシュンとしてるんですよ。「え? これ塗ったの?」と。で、そのときにボビーとチェ・ホンマンの試合の最中に塗ったということを聞いたんです。
――審判団がバックステージカメラを確認したところ「2人が塗っていた」ということが公表されていましたが、その2人というのは、その日、秋山さんのセコンドだった門馬さんと山田さんだったんじゃないかという疑惑がかけられていますよね。
――その現場にいたのは、秋山さんの昔からの友達というか知り合いというか……。
山田 そうそう、成勲の連れというかね。
――いまはRIZINなんかはバックステージ規制が敷かれて、事前に申請した関係者以外は選手の控室には立ち入ることは厳禁ですけど、昔は選手の練習仲間だったりすれば……。
山田 全然入れましたから。
山田 ああ、なるほどね……。でも、あの試合の入場を確認してくれれば「どんだけ人がいるんだ」となるはずですよ。たぶん7~8人いたんじゃないかな? その中の人間が成勲の身体にクリームを塗っていたんです。
――「なぜバックステージ映像を出さないのか」ということに関しては、谷川(貞治・当時のK-1プロデューサー)さんもいろいろと説明していましたけど。
――一般人も顔出しは厳しいし、モザイクをかけるとますます怪しいですよね……。門馬さんに、秋山さんが反則をやってるという意識はなかったんですかね?
山田 うーん、どうなんすかねえ。帝国ホテルでは「おまえ、『いい匂い』だなんて後ろで笑っている場合じゃねえぞ!」と久保社長に怒られてましたもん。試合後あんな騒ぎになったじゃないですか。門馬が知ってたなら、教えてくれよって話で。そういうことなので映像は出せなかったんだと思います。でも、そうなるとファンは「何かあるに違いない」となっちゃいますよね。
――周辺の人間を守ろうとしようとしたことで、疑惑がさらに深まってしまったという。実際に塗った人間はその場にはいなかったんですか?
山田 来てないです。あのときボク、久保社長にはっきり言われましたもん。「おまえがチーフなんだから(罪を)かぶれ」って。「おまえはこの業界の人間じゃないから」とも。
山田 「おまえが現場にいたことにしろ」という感じでした。だから「は? 俺がかぶるんですか? いや、俺は全然、話がわかってないですよ」と。でも、久保社長いわく「おまえは外様なんだから」と。でも、外様なんだったら、こんな場に呼ばないでくれよという感じですけどね。「ふざけんな!」と思いましたよ。
山田 本当っすよ! 何も解決しない。成勲も会見で「山田トレーナーはその場にいなかった」とは言ってるけど、ボクがあれだけ叩かれても全面的に否定しているわけじゃない。なぜなら「じゃあ、誰が塗っていたんだよ」となる……。
――当時の裁定だと秋山さんは故意ではなかったということだったので、そこは他の人間に延焼しないようにしたわけですね。
山田 そうなんですよ。確信犯ならトイレにこもって塗るようなもんじゃないですか。
――これはあまり知られてないことですけど、翌年3月に行なわれたHERO’Sの第1試合で何が起きたかというと、メルヴィン・マヌーフvs高橋義生戦でマヌーフが足に塗ってはいけないものを塗布していたということでイエローカードから始まったんですよね。
山田 え、何を塗ってたんですか?
――おそらくすべり止め目的の松ヤニの類だと思うんですけど。なので、レフェリー陣が総出でマヌーフの足裏を拭いているんですけど、ボクは「あれだけの事件があったばかりなのに、選手の異変にリングに上がってから気づくんだ」と驚いて。当時の競技統括はまだまだのレベルだったというか……。
山田 そうですよねえ。当時は控室にレフェリーが来てチェックするとか、なかったと思うんですよね。ルールミーティグというか、ちょっとルールの説明みたいなのはありましたけど、いまみたいに競技化してどうのこうのというのは……。だって結局、靴も履いて戦ってよかったし、柔道着で試合をするのかどうかは本人の選択だったし。
山田 ホントにそのとおりだと思います。
――「FEGと秋山とグルだったんじゃないか」みたいなことも言われてますけど。審判団・代表で試合後の調査も行なった磯野さんは「和術慧舟會は秋山さんと繋がりがあったじゃないですか。いま振り返るとK-1側は、審判団を含めて『ひょっとしたら何かを隠してるかもしれない』という疑念はあったかもしれないですね」と振り返ってますね。
山田 あのときって、ほぼ慧舟會の選手でHERO’Sをやってたじゃないですか。だから、主催者側も慧舟會を刺激することができなかったんじゃないかなとボクは思うんですよね。だから当時のマスコミもそういったFEGと慧舟會の関係性は取り上げてないはずですし。もう覚えてないんですけど、ボクは「久保社長にこう言われた」ということは当時の取材でも言ってたと思うんですよ。
山田 確認してないです。
――それは、なぜだったんですかね。
山田 いやー、なんなんですかね? 磯野さん、和田さん、久保社長は見ている側で、成勲と門馬は映っている当人なので。でも、ボクは映像を見てないし、現場にもいないから、「なんなの? 全然話がわからないんだけど」という。
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秋山成勲、突然の告白……あの桜庭和志戦のセコンドだったJBスポーツ山田武士インタビュー(聞き手/ジャン斉藤)
秋山成勲が清原和博と自身のYouTubeチャンネルで、いまから15年前の桜庭和志戦の“真実”を明かした。その内容は動画を確認してもらいたいが、突然の告白は当時の事件をあらためて振り返るきっかけをつくることになり、秋山成勲の動画も深くは踏み込んだ内容ではなかったことから、当時から囁かれていた「主催者とグルだったのではないか」「グローブに凶器を仕込んでいたのではないか」という疑惑も再燃させてしまった。やってはいけない反則を行なったとはいえ、しかるべき罰を受け、謝罪を行なった秋山成勲が15年経っても批判を浴びてしまうのは、主催者によるこの事件の調査に対する不信感も理由のひとつに挙げられるだろう。そのため今回登場する山田武士トレーナーも“疑わしい人物”というイメージが強い。
山田氏は当時の秋山成勲のコーチであり、セコンドも務めていた。あの日、最も間近で秋山成勲と行動をともにしたひとりである。秋山成勲がなぜこのタイミングであのような動画をアップしたのか。その真意は掴みかねるが、こういった機会にあらためて山田氏に当時の話を伺った。
「正直、15年経ってるからこそ話せることもあります」(山田)
あのときなぜバックステージ動画が公開されていなかったか。秋山成勲にかけられたクリーム以外の疑惑――たとえばメリケンサック――についても山田氏は洗いざらい語ってくれた。総文字数24000字、試合中に「すべらせろ!」と叫んだ山田武士が語る「桜庭和志vs秋山成勲」。
――2014年の川尻達也UFC参戦のときから、川尻さんを支える山田さんにかれこれ10回近く取材していますけど、秋山成勲さんのヌルヌル事件について、じつはちゃんとうかがったことがないんですよね。
山田 ああ、そうですかね。
――なぜかというと、あの試合直後から山田さんはご自身のmixiでいろいろと発信されていたり、他媒体でも取材を受けていたからで、山田さんの言い分を聞くまでもなかったという。ただ、15年経ったいまでも、秋山さんにクリームを塗った“首謀者”だと言われていますよね。
山田 まだ言われるのかって、ちょっとビックリですよね……。
――このインタビューをしたところで、また「本当のことを言ってない!」という反響が出てくる虚しさはあるかもしれないですが、それでもおうかがいしたいと思います。
山田 はい、よろしくお願いします。じつはあの試合があったとき、ウチの子供が生後半年だったんですよ。ウチの嫁と試合のあった大阪に来ていて……それがもう中学生ですからね。時が流れるのは本当に早いし、その子供が「えっ、そんなことがあったの?」ってネットで調べられる年齢じゃないですか。
――「ウチのお父さんはこんな悪いことをしていたの?」と。あの当時のニュース記事ってあまり残ってなくて、疑惑だけがネットを彷徨ってるところはありますね……。
山田 今回、成勲がどういう思いであの動画をアップしたのかはわからないけど、こういう機会だから、すべて話しますよ。もしかしたら当時もしゃべってるのにメディアの都合でカットされてることがあったのかもしれないですけど……。正直、15年経ってるからこそ話せることもあります。
――あの事件直後に関係者で何かしら発信していたのって、山田さんぐらいなんですよね。
山田 そうなんですよ。成勲がホントに塗ってるとは思ってないからmixiでも、そういった疑惑の声に反論しましたし。
――山田さんはmixiで「言いがかりはやめてくれ」と発信をしていて。だからこそ塗ったことが判明したときに大バッシングを浴びましたよね。
山田 そうなんです。ホントに何も知らなかったし、まさか塗ってると思わず成勲を庇い続けたのにね。運営側も成勲と組んで桜庭さんを陥れようとして「グルだ」とか言われているけど、そもそも桜庭vs秋山というカードが組まれたのは、たしか“桜庭さん推し”だったからですよ。
――山田さんにはそういう認識だったんですか。
山田 あの2006年は桜庭さんや成勲の階級でトーナメントをやっていたじゃないですか。10月の大会で2試合、成勲は準決勝ケスタティス・スミルノヴァス、決勝メルヴィン・マヌーフに勝って優勝しましたけど、桜庭さんは8月のスミルノヴァス戦で、勝ったけども結果的にとんでもない試合だったじゃないですか。
――桜庭さんがスミルノヴァスの打撃を食らって半失神状態なのに試合は続行されて。
山田 桜庭さんは耐えて耐えて、スミルノヴァスがスタミナ切れして一本取ったみたいな。それで10月9日に成勲と桜庭さんの準決勝をやる予定だったんですけど、桜庭さんが体調不良でトーナメントを途中離脱したんですよね。そんな中で成勲が優勝したんですけど、その優勝後のマイクに関して、試合を中継していたテレビ局のTBSか、FEG(HERO'S主催者)スタッフのどちらかが成勲に「リング上から桜庭さんに対戦要求してくれ」と。
――そういう指示があったんですか。
山田 でも、こっちからすると「え?」と。だって、同じトーナメントに桜庭さんは出ていたわけだし、成勲はそのトーナメントで優勝したわけですから。だから、それを言われたときは成勲も明らかにムスっとしたんですよ。「そんなこと言いたくない」っていう表情。だけど、そこは成勲なんで、マイクを渡されたら解説席にいる桜庭さんに向かって「桜庭さん、お疲れさまです。ケガを早く治されて、大晦日やりましょう」とアピールしましたけどね。だから、運営側としてはあの試合は桜庭さんありきで組んだと思いますよ。それにHERO'Sは試合時間を1R10分・2R5分に変更してましたし。
――桜庭さんがHERO’Sに移籍したことで、それまで主戦場にしていたPRIDEに合わせて1ラウンド10分、2ラウンド5分の試合時間になったと。谷川さんもこのマッチメークが決まったときに「秋山成勲にプロの厳しさを教えてやってほしい」と言ってましたね。
山田 だから、桜庭さんありきの大晦日だったんですよ。
――ただ、TBSは秋山さん推しだったというところはあるわけですよね? 要は、桜庭さんはPRIDE、つまりはフジテレビのスターで、TBSからすれば自分たちでスターをつくり上げたかったというか。
山田 まあ、もちろんそれはあったと思いますけど。あとは大晦日だから、それなりのカードが必要になってくるじゃないですか。
――大晦日にクライマックスを持ってこないといけないから、日程優先でカードを組まないといけない。だからFEGは秋山さんにマイクアピールの指示をしたし、秋山さんは優勝直後で不満ながらも受け入れたんですね。
山田 そういうことですね。
――そもそも、当時の秋山さんと山田さんはどういう関係性だったんですか?
山田 まあ、成勲がMMAを始めてすぐの頃から「打撃を教えてほしい」ということでボクのところに来てたんで。週3~4回は一緒に練習してという感じでした。
――当時山田さんのチームは「チーム黒船」と呼ばれてましたが、あれはジム名でもなんでもなく、あくまで山田さんが指導している練習メンバーの名称ですよね。
山田 はい。当時、ボクシングジムでMMAの打撃を受け入れているジムはほとんどなかったんですよ。若干ボクシング側がMMAをバカにするというようなスタンスだったから。でも、ボクはそういう偏見もなかったんで、志のある人間がだんだんつながりの中で集まってきたという。
――それが「チーム黒船」だった。ただ、そのメンバーがみんな“仲間”かというと……。
山田 仲間ではないですね。練習では会うし、たまにマススパーとかをやるぐらいで。でも、一緒に遊びに行くなんてことはたぶんゼロです。
――桜庭vs秋山の裏では、PRIDEも大晦日興行を開催していました。山田さんは「チーム黒船」の川尻達也選手や石田光洋選手のセコンドとして、さいたまスーパーアリーナに行くという選択肢もありました。そこで、秋山さんが試合する大阪ドーム(現・京セラドーム)を選んだ理由はなんだったんですか?
山田 先に決まったのが成勲の試合だったからです。10月の大会で成勲がトーナメントで優勝して、「桜庭さん、大晦日にやりませんか」というアピールをした時点で、もうほぼ試合が決まってるわけじゃないですか。たしか、成勲の試合は10月の時点でもう決まっていたんですよね。で、あの頃のPRIDEってカードが決まるのが遅かったんですよ。結局、石田くんは五味隆典選手、川尻くんがギルバート・メレンデスに決まったんですけど、あれも成勲の試合が決まった全然あとなんで。
――川尻選手と石田選手のカードが発表されたのは12月7日のことですね。
山田 だから、ボクは「チーム黒船」のみんなの試合が重なったときのために、あらかじめルールを決めていたんです。「最初に試合が決まったほうのセコンドに付く」「あとから決まった試合のほうがデカいから、そっちに行くわというのはナシにしましょう」と。だから、川尻くんも石田くんも、ボクが大阪に行くときに超寂しそうにバイバイしましたよ。
――「なぜPRIDEではなく秋山成勲に付いたのか怪しい」と言われがちですけど、そういうルールがあったと。
山田 そう。理由は、先に決まったから。それが黒船のルールだったんで。
――そして、試合当日の状況ですが……。
山田 その日は、ボクはセミファイナルで魔裟斗くんとK-1ルールで戦う鈴木悟のセコンド仕事もあったんですよね。
――山田さんは、メインの桜庭vs秋山の前にもセコンドに付いたんですね。
山田 しかも、2人は逆コーナーだったんですよ。成勲は赤コーナー、悟は青コーナーだったんで。だから、ボクはドームの1塁側と3塁側の控室を行ったり来たりしていて。成勲のバンデージを巻いて、走って移動して悟のほうでアップしてという。そういう感じでバタバタだったんです。
――いまだったら運営側が気を利かせて同じ控室にしてそうですけども。
山田 でも、悟の試合が決まったのが大会3日前ぐらいだったんですよ。もともとは魔裟斗くんとチェ・ヨンス(元世界WBAスーパーフェザー級王者)との試合が決まってたけど、チェ・ヨンスがケガなんかで急に出られなくなったんで。そういう急な事情もあったかもしれないですね。
――じゃあ、運営側が気を利かせなかったというよりも、土壇場すぎて変更のしようがなかったという。
山田 スケジュール的に難しかったというのはあったと思いますね。
――セミからメインまでの山田さんの動きをもう少し詳しく教えてもらえますか?
山田 ボクはセミで悟の試合があったから、そのセコンドに付く前にミットを持って成勲と打撃のアップをしたんです。組みのアップのときはボクはもう悟のところに向かってて。で、悟と一緒にボビー・オロゴンvsチェ・ホンマンの試合を観ていたんです。
――ボビーvsチェ・ホンマンというのは魔裟斗vs鈴木悟のひとつ前の試合ですね。
山田 で、悟に「この試合、けっこうすぐ終わるかもしんねえから、早めに行くぞ」とか言ってたら、本当にすぐ終わっちゃったんで。
――あの試合は1ラウンド16秒で終わっちゃいました。
山田 そこから悟の試合だったんですけど、あの悟はローを効かされて2ラウンドで負けて、彼を控室に連れて行って。そうしているうちに、すぐにメインの桜庭vs秋山の煽りVが始まっちゃってたんでね。まあでも、ちょっと長い煽りVだったんで、そのあいだに走って反対側の控室に行って、走ってるあいだに成勲のTシャツに着替えて、で、そこでもう柔道着を着て入場待ちの成勲がいたんで「悪い、遅れた」と合流した感じです。
――この件では、グローブに付いていたスポンサーの「EDWIN」のロゴが剥がれていたことも問題として取り上げられました。それがグローブ細工疑惑の発端になるんですが……。
山田 それは試合前のボクとのアップのときに剥がれてました。成勲に「悟の試合に間に合わなくなるから、先にパンチのアップをやろう」ということでやってたら、汗で剥がれて「EDWIN」のロゴがペラっとなったんですよ。そしたら、成勲がそれを口でくわえてバリッと取ったんですよね。
――なるほど。あれはEDWIN製のグローブということじゃなく、もともと主催者は用意したグローブに、大会スポンサーだった「EDWIN」のロゴをくっつけたかたちだったわけですよね。
山田 そうそう。アイロンの熱か何かでくっつけてあるだけ。
――同じ大会では他の選手のグローブもロゴが剥がれかかっていたという報告は記者会見でされています。当時EDWINに直接電話して「あれって剥がれるんですか?」と聞いて「剥がれません」という回答を得た方がいたんですけど。EDWIN製のグローブじゃないし、EDWINも「剥がれます」と不良品扱いはできないんですよね。
山田 まあ、言えないでしょうね。そこは谷川(貞治/FEG代表)さんも剥がれた際の映像をチェックしてますね。そのときに例の「すべらせろ!」の確認も取れて……。
――山田さんが試合中、秋山さんに「すべらせろ!」という指示を送ったことが……桜庭さんの「すべるよ」とシンクロしてしまったという。
山田 あれは、ボクが立嶋篤史に「ローキックは床をすべるように蹴れ」とアドバイスしてもらったことを参考にしているんですよね。床スレスレで蹴ると、相手の手でキャッチされないから。だから、足を床にすべらせるように蹴れというのをずっと言っていて。だから、その調査の段階で、そのロゴが剥がれたときのアップ映像を谷川さんが見て、そこでもボクがずっと「すべらせろ」と成勲に言っているのを確認してますから。2人でアップしている練習シーンの中で、ボクが「ダメダメ、上から蹴らない、床をすべらせろ」と。その途中でロゴがバリッと剥がれる映像を谷川さんが見ているんで、「すべらせろ」発言に関しては解決しているという。
――まあ、実際にクリームですべらせたかったとしても、ストレートに「すべらせろ」なんて……。
山田 言わないですよ! 絶対にないですけど、もしボクがクリームを塗っているのを知っていて本当にすべらせたいんだったら、よけいに言わないですよ。
――そのアップの段階で秋山さんの身体にクリームを塗っていたということはなかったんですか?
山田 クリームは、時系列でいうとボビーvsチェ・ホンマンの試合の最中に塗ったらしいです。
――山田さんはボビーvsチェ・ホンマンのときは鈴木悟選手と一緒でしたよね。現場にいなかった山田さんがどうやってその事実を知ったんですか?
山田 ボクがどこで知ったかというと、年明けの1月10日に帝国ホテルのミーティングに呼ばれたからなんですよね。
――どういうミーティングだったですか?
山田 あの日は、審判団・代表の磯野(元)さん、和田(良覚・当試合サブレフェリー)さん、久保(豊喜・当時GCMコミュニケーション)社長、そして成勲と、試合でセコンドに付いた門馬(秀貴)が集まっていて。
――久保さんは和術慧舟會の方で、競技統括という立場ですね。磯野さんも和術慧舟會でしたし、当時K-1系のMMAイベントの競技周りは和術慧舟會が運営していました。
山田 ボクには当日の朝に門馬から突然電話がかかってきて「塗っている映像が確認されました。これから首脳陣で集まって会議をするんで、帝国ホテルに何時に来てください」と。こっちからすれば「ど、どういうこと!?」ということで、わけもわからず帝国ホテルまで飛んで行ったわけです。
――当日になるまで連絡はなかったんですね。
山田 で、ボクはほとんど話がわからないまま行ったんですけど、もうその場所には「オーレイ クエンチ ボディローション エキストラ ドライスキン」という例のクリームが置いてあって「現物はこれですよね」と。で、ボクは何もわからないから「どういうことなの?」と聞くんだけど、もう門馬も秋山もシュンとしてるんですよ。「え? これ塗ったの?」と。で、そのときにボビーとチェ・ホンマンの試合の最中に塗ったということを聞いたんです。
――審判団がバックステージカメラを確認したところ「2人が塗っていた」ということが公表されていましたが、その2人というのは、その日、秋山さんのセコンドだった門馬さんと山田さんだったんじゃないかという疑惑がかけられていますよね。
山田 その帝国ホテルで久保社長が言うには、門馬は塗ってはいないけど、セコンドなので確実に現場にはいたと。で、当日はそれ以外にも成勲の周りに取り巻きみたいな人間がもの凄くいっぱいいたんですよ。
――その現場にいたのは、秋山さんの昔からの友達というか知り合いというか……。
山田 そうそう、成勲の連れというかね。
――いまはRIZINなんかはバックステージ規制が敷かれて、事前に申請した関係者以外は選手の控室には立ち入ることは厳禁ですけど、昔は選手の練習仲間だったりすれば……。
山田 全然入れましたから。
――選手がチームの仲間と一緒に入場してくる光景はよく見ましたが、規制が厳しい状況があたりまえになっている最近のファンにとっては「2人が塗っていたということは、セコンドの山田と門馬のはずだ」となりますね。
山田 ああ、なるほどね……。でも、あの試合の入場を確認してくれれば「どんだけ人がいるんだ」となるはずですよ。たぶん7~8人いたんじゃないかな? その中の人間が成勲の身体にクリームを塗っていたんです。
――「なぜバックステージ映像を出さないのか」ということに関しては、谷川(貞治・当時のK-1プロデューサー)さんもいろいろと説明していましたけど。
「映像を公開するという件についてですが、公開することになれば物理的なことをいうと編集したものになるわけじゃないですか。だからといってTBSさんが一大会につき30台以上のカメラで撮影しているビデオをすべて見せるというのは難しい。またそこで隠している映像があるんじゃないかと思われると、キリがなくなってしまいますよね。映像を見せたくないというのではなくて、審判団と桜庭選手にはちゃんと映像を見てもらって、確認しているというのを言いたかったんです」
――EDWINのロゴが剥がれたのはスポンサーに対してあんまりよろしくないし、もうひとつはTBSの権利映像という不自由さもある。もっとも大きな理由があるとすれば、そこに映っている選手、そして秋山さんの知り合いは一般人でしょうから、それは公開できないんだろうなと推測してたんですが……。
山田 そのとおり。で、そこにセコンドに付く門馬がいて「あ~、いい匂い」と言ってたらしいんですよね。その映像が世に出ちゃうと、塗ってなかったとはいえ門馬が現役選手として活動できなくなるから。
――一般人も顔出しは厳しいし、モザイクをかけるとますます怪しいですよね……。門馬さんに、秋山さんが反則をやってるという意識はなかったんですかね?
山田 うーん、どうなんすかねえ。帝国ホテルでは「おまえ、『いい匂い』だなんて後ろで笑っている場合じゃねえぞ!」と久保社長に怒られてましたもん。試合後あんな騒ぎになったじゃないですか。門馬が知ってたなら、教えてくれよって話で。そういうことなので映像は出せなかったんだと思います。でも、そうなるとファンは「何かあるに違いない」となっちゃいますよね。
――周辺の人間を守ろうとしようとしたことで、疑惑がさらに深まってしまったという。実際に塗った人間はその場にはいなかったんですか?
山田 来てないです。あのときボク、久保社長にはっきり言われましたもん。「おまえがチーフなんだから(罪を)かぶれ」って。「おまえはこの業界の人間じゃないから」とも。
――「罪をかぶる」というのは、具体的にどういうことですか?
山田 「おまえが現場にいたことにしろ」という感じでした。だから「は? 俺がかぶるんですか? いや、俺は全然、話がわかってないですよ」と。でも、久保社長いわく「おまえは外様なんだから」と。でも、外様なんだったら、こんな場に呼ばないでくれよという感じですけどね。「ふざけんな!」と思いましたよ。
――そこで罪をかぶっていたら、山田さんは大変なことになってましたよね。かぶってなくても映像が公開されなかったことで大変だったんでしょうけど。
山田 本当っすよ! 何も解決しない。成勲も会見で「山田トレーナーはその場にいなかった」とは言ってるけど、ボクがあれだけ叩かれても全面的に否定しているわけじゃない。なぜなら「じゃあ、誰が塗っていたんだよ」となる……。
――ちなみに、秋山さんは会見でこう言ってるんですよね。「自分に付いていた山田トレーナーは、魔裟斗選手と試合をした鈴木選手のところに行っていて、自分でこう言うのもなんですが、自分の周りにはプロの人間がほとんどいません。クリームを塗っているときに、そういうことを言う人間はいませんでした」と。
山田 いや、門馬はいましたよ。
――当時の裁定だと秋山さんは故意ではなかったということだったので、そこは他の人間に延焼しないようにしたわけですね。
山田 それで映像を出せないことで、こうやってボクがずっと“首謀者”扱いされちゃうんですけど……。でも、もしボクがあの場にいたら、どんな判断を下していたのか。いまのMMAはUFCも含めてセコンド陣は3人までで、ある程度厳選された人間が集まるという感じですけど、あのときは取り巻きがいて、お祭り状態になっていたんでね。そこで「それ、大丈夫なの?」と確認できるかなあ。難しい状況ではあったのかなあ。競技というよりは、その雰囲気が。
――まさか堂々と反則行為をするとは思えないですし。
山田 そうなんですよ。確信犯ならトイレにこもって塗るようなもんじゃないですか。
――これはあまり知られてないことですけど、翌年3月に行なわれたHERO’Sの第1試合で何が起きたかというと、メルヴィン・マヌーフvs高橋義生戦でマヌーフが足に塗ってはいけないものを塗布していたということでイエローカードから始まったんですよね。
山田 え、何を塗ってたんですか?
――おそらくすべり止め目的の松ヤニの類だと思うんですけど。なので、レフェリー陣が総出でマヌーフの足裏を拭いているんですけど、ボクは「あれだけの事件があったばかりなのに、選手の異変にリングに上がってから気づくんだ」と驚いて。当時の競技統括はまだまだのレベルだったというか……。
山田 そうですよねえ。当時は控室にレフェリーが来てチェックするとか、なかったと思うんですよね。ルールミーティグというか、ちょっとルールの説明みたいなのはありましたけど、いまみたいに競技化してどうのこうのというのは……。だって結局、靴も履いて戦ってよかったし、柔道着で試合をするのかどうかは本人の選択だったし。
――いまの日本は相当競技統括のレベルは上がってますよね。アメリカのようなコミッションがない中でも、ちゃんとしているというか。
山田 ホントにそのとおりだと思います。
――「FEGと秋山とグルだったんじゃないか」みたいなことも言われてますけど。審判団・代表で試合後の調査も行なった磯野さんは「和術慧舟會は秋山さんと繋がりがあったじゃないですか。いま振り返るとK-1側は、審判団を含めて『ひょっとしたら何かを隠してるかもしれない』という疑念はあったかもしれないですね」と振り返ってますね。
山田 あのときって、ほぼ慧舟會の選手でHERO’Sをやってたじゃないですか。だから、主催者側も慧舟會を刺激することができなかったんじゃないかなとボクは思うんですよね。だから当時のマスコミもそういったFEGと慧舟會の関係性は取り上げてないはずですし。もう覚えてないんですけど、ボクは「久保社長にこう言われた」ということは当時の取材でも言ってたと思うんですよ。
――そのことは当時のインタビューでもお話しされたんですか?
山田 うーん、言ったような、言ってないような。万が一、言ってたとしても、やっぱり当時のパワーバランスからすると載せることは難しいのかなあと。
――こういうと慧舟會が黒幕だと、早とちりする方が出てきちゃいそうですけど、そういう話ではなくて。FEG、慧舟會、秋山成勲は歪な関係性であった。外側にいた桜庭さんからすれば、その三者がみんなで何か企んでいる、この件をもみ消すんじゃないかと見えちゃうでしょうね。山田さんがインタビューやmixiで何か発言することに対して、FEG方面から圧力みたいなのってなかったんですね。
山田 それは、ボクが外様だったということもあって、ほとんどないですね。
――山田さんは帝国ホテルに呼ばれたときも、映像は確認させてもらえなかったんですよね?
山田 確認してないです。
――それは、なぜだったんですかね。
山田 いやー、なんなんですかね? 磯野さん、和田さん、久保社長は見ている側で、成勲と門馬は映っている当人なので。でも、ボクは映像を見てないし、現場にもいないから、「なんなの? 全然話がわからないんだけど」という。
――しかも「チーフなんだから」というなら、よけいに映像は見たいですよね。
山田 見せてほしかったですし、ボクも「見せてくださいよ」と言いましたよ。でも、そのときは「いや、もうみんな見てるから」と。
24000字インタビューの記事の続きと、大好評記事16本14万字の詰め合わせセットは、まだまだ続きます!
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