◎船木誠勝「2021年のUWF」14000字インタビュー
GLEAT旗揚げ戦で強烈な「2021年のUWFスタイル」を披露した船木誠勝インタビュー。14000字でUWFスタイルに迫ります!(聞き手/ジャン斉藤)
――先日のGLEAT旗揚げ戦は、船木さんの試合が一番衝撃的だったという声が挙がってまして。
船木 それはどういうことなんですかね。
――「これぞUWF!」という肯定的な感想ですね。
船木 なるほど、それは安心しました(笑)。
――淀みのない動きや、みなぎる緊張感。UWFスタイルを初めて見るファンも、他の試合とはレベルが違うことがひと目で理解できたと思います。
船木 いまUWFの試合をやろうとすれば、ああいうかたちになってしまうんですけど。
――いまUWFをやれば、あの試合になるわけですか。
船木 はい。2021年のプロレス格闘技界を見渡して「 UWFスタイルって何かな?」って考えたときに、ああいうスタイルになってしまいます。今回のスタイルは自分の中ではプロレスなので、格闘技ではなくUWFスタイルをやればああなってしまいますね。
――たしかに間合いや動きがMMAっぽかったんですけど、やっぱりMMAの影響は捨てきれないわけですね。
船木 そうですね。UWFスタイルは総合格闘技の技術を使わないと成立しないと思ってるので。 そこは今回の他の試合とはちょっと違うのかもしれませんね。 プロレスしかやってない選手はプロレスの中で格闘技っぽい技をやったり、 ロープに振らなかったり、あとはをあえて技を受けたりした選手もいましたね。でも、自分の中ではそれらの手法はなかったんです。
――なるほど。他のUWFルールは3試合ありましたが、ごらんになったんですね。
――最初のタッグマッチはどう思われましたか?
船木 タッグマッチになると、どうしてもゲーム的になるというか。ちょっと気になったのは、そのへんのルールがその前のプロレスルールの試合とどう違ったのか、 お客さんはその違いをちゃんと把握していたのか。さっきまではロープに振ったり、走ったりしていたのに今回はなぜ限定されるのか。そこらへんをお客さんが掴めているのかなと。ルールが限定されるということは、つまり動きが減っていくことですから。それが楽しいのかどうか。ルールに縛られると、回りくどくなってしまうような感じがしまからね。
――使える技が限定されると単調になりがちですね。
船木 興奮する試合になれば、お客さんもそのへんは取っ払って熱狂できるんですけど。 あんまり名前が知られてない選手同士がやると「どうなの、これ?」となりかねない。試合内容がものすごく重要になってくるような気がします。
――女子(橋本千紘vs福田茉耶)の試合はどうでしたか?
船木 あの試合はちょうど自分の前の試合だったので、声だけしか聞こえなかったんですよ。新人(福田茉耶)の子は田村(潔司)が教えてるんですよね。 マッチメイク自体をいうと、体格差がありすぎるような気がしますね。
――体格は橋本選手が圧倒的に有利でしたね。
船木 あの体格差を見ちゃうと、新人の子が勝つことは無理かなって思っちゃうじゃないですか。
――ああ、なるほど。体格に開きがあるのは格闘技としては難しいと。
船木 UWFもあのまま続けていれば階級制を取り入れたと思うんですよ。 橋本選手と新人の子はヘビーとジュニアぐらいの差があったと思います。 そのへんの曖昧さはどうなのかなと。普通のプロレスとしてみれば普通にありなんですけど、自分と戦った飯塚(優)選手も若干サイズが小さいから、お客さんは明らかに自分のほうが勝つんじゃないかと見られるわけじゃないですか。そういう意味では、自分が試合において不利な体勢になることは絶対に見せられないわけです。
――そこまで考えて戦うと……。そういえば橋本選手が福田選手のハイキックを食らってフラフラするシーンにリアリティをあまり感じなかったのは、経験や体格差前提で見ていたからかもしれません。
船木 そこだと思うんですよね。実際に「格闘技として戦ってみたらどうなるのか」を基本に試合をしたほうがいいんじゃないかと思いました。 自分だけそう思ってるのかもしれないですけど(笑)。自分が UWFをやってた時代はですよ、 みんなが真剣勝負として見ていたわけじゃないですか、プロレスじゃなくて。
――競技として見ていたわけですよね。
船木 いまの時代でも、その部分は残さないとUWF スタイルは無理だと思うんです。 となると、勝ち負けはすごく重要になってくると思うんです。
――現在はMMA というジャンルが確立されていますが、UWFの根っこは変わらずそこにあるべきだと。
船木 もともとが格闘技をやろうとしていたプロレス団体だったわけじゃないですか。そこから藤原組、リングス、Uインターに分かれたときに、 ちょっとずつかたちが変わって。 藤原組からまた分かれたパンクラスは完全に格闘技になっちゃいましたし、リングスも最終的には格闘技になりましたよね。最初はみんなプロレスだったわけですよ。そのもとを正せば新日本プロレスなんですけどね。
――ここ最近AKIRAさんの話を聞く機会があったんですけど、 新日本の前座は UWFほどの格闘技スタイルではなかったけど、限定された動きの中でテクニックを競うものだったと。
船木 ああ、そうです。新日本の前座はまさにそういう試合でした。 道場でセメントの練習をしないと絶対に無理ですね。理にかなった試合展開にはなると思います。
船木 そういう型的な動きは試合で覚えていくんです。だから前座の試合はヘタでしたよ、みんな。道場で“試合の練習”はしないですからね。ぶっつけ本番でやってますから。 でも、ヘタでよかったんですよ、前座ですから。 上の試合になるに従って綺麗な動きや技が見せるわけですから。前座のプロレスは元気が一番でしたよね(笑)。「技を何かやろうとするな。オマエたちから元気を取ったら何が残るんだ」ってよく怒られましたよ。
――そこは全日本プロレスとは違うわけですよね。
船木 そこは猪木さんに繋がっていく伝統的なスタイルだったとは思いますね。ただ、いま思えば新日本のスタイルは日本だけだと思いますね。
船木 特殊なところだなあと思います。 そんなとこでプロレスを学んだので自分なんかは相当、特殊な人間だと思ってます(笑)。
――ハハハハハハハ! AKIRAさんが5年前に船木さんの興行で試合をしたとき、おもいきり蹴られて「懐かしかった」と言ってましたね。
船木 痛かったと思いますよ。あんな蹴り、外国人レスラーにやったら怒られますよ(笑)。
――そういうスタイルが先鋭化していったのがUWFという解釈でよろしいですか。
船木 最初のUWFは佐山(聡)さんが途中からシューティングに切り替えようとしたらしいですね。藤原(喜明)さんは新日本と同じスタイルでやっていたらダメだと思ってたらしいんですよ。で、道場の練習をそのまま見せる、リング上で解禁しちゃうと。それがいろいろと組み合わさってできたのが旧UWF のスタイルなんでしょうね。 最初から格闘技にしようという方向ではなかったと思うんです。格闘技としての色が濃くなっていたのは新生UWFになってからです。
船木 新日本にUWF軍団が帰ってきて対抗戦をやっていたじゃないですか。若手の自分は安生(洋二)さん、中野(巽耀)さんと前座で試合をしていたり。ああいう感じで新生UWFでやろうとしたんですよ。 つまり対抗戦みたいな感じですよね。自分は途中から入るわけですから完璧なUWFの選手ではない。1人ぐらい違う戦いをする奴がいても大丈夫かなと思ってたんですよね。
――つまりイデオロギー闘争をUWF でもやろうとしたってことですね。
船木 そうですね。自分の中では海外に行く前に見た高田さんや越中さんの試合がUWFだと思ってたんです。 あの試合で記憶が止まってるじゃないですか。それは自分が勝手に想像していただけなので、ろくに中身を見ないで移籍してしまったわけですよね(笑)。
――そんな勘違いがあったんですか!(笑)。
船木 でも、新生UWFはスポンサーに対して新しい格闘技をやると説明していたというか、 プロレスから移行していくという方針が最初の1年間でできあがっていたみたいなんですね。 その説明を自分はされてなかったので、リングに上って初めて「あれ?」と思ってですね。だからドロップキックをやったりとか、自分なりに抵抗していたんですけども(笑)。
船木 凱旋帰国試合で藤原さんとやりましたけど、藤原さんも新日本プロレスの人間。 だから試合もどこかプロレスっぽいところがあって。 藤原さんが試合途中に頭突きをしたら、藤原さんの反則負けで。
――新生UWFで頭突きは反則になったんですよね。
船木 せっかく自分の凱旋帰国試合だったので、マイクで「ちゃんと決着をつけたい。藤原さん、もう一度やりましょう」とアピールしたんですよね。 それで延長戦が始まって、自分がヒザ十字で負けたんですけど、 マイクを使って延長したことが新生ではダメだったらしいですね。新生UWFはプロレスではないんだと。
――新生UWFの格闘技スタイルはあくまでもスポンサーやイメージづくりの一環もあったということですね。
船木 そうだと思いますね。新生の理想は格闘技的、スポーツ的。月に1度しか試合がないわけですから、ひたすら道場で練習するんですよ。 本当にヒマなので練習するしかない。試合会場よりは道場が主ですよね。
――こういう話を聞くと船木さんには強い思想がなかったように見えちゃうんですが、鈴木みのるさんとの博多スターレーンの試合はかなり実験的で衝撃的だったじゃないですか。
船木 あれは自分がフライングしてやってしまった試合というか。 UWFを格闘技的にしたいんだったら、じゃあ格闘技をやってしまおうと。それにレガースを履かないとキックができないというルールに対しても反抗したかったというか。だったらプロレスのシューズだけを履いて格闘技の試合をやってやろうと思ったんですよ。 とにかく反発ばっかりですよね(笑)。
――船木さんからすればプロレスをやるんだったらプロレス、格闘技をやりたいんだったら格闘技をやりたいってことですよね。
船木 はい。 そのへんのことをちゃんと聞きたくて、全体会議のときに前田(日明)さんに「いつになったらできるんですか」って聞いたら「あと3年」と。 あと3年でお客さんを育てなきゃいけない。 自分としてはちょっと気が遠くなったというか、 3年間もはっきりとしない時期が続くのかなあと。
――話を聞くかぎり、船木さんの中では明確なUWF スタイルというのはなかったということですよね。
船木 ないです。なかったです。 あるわけないです、そんなもの(笑)。
――ハハハハハハハ!
船木 自分が作った団体ではないですし、 誘われたから移籍したわけで。移籍する前、高田(延彦)さんに「プロレスの技を使ってもいいんですか?」って聞いたんですよ。そのとき高田さんは適当に答えたと思うんですけど「使える技はね」と。それは「相手と協力しないとできない技はダメだよ」ってことだと思うんですけど、正直、高田さんもよくわかってなかったと思いますけどね。
――みんな手探りだったという。
船木 自分はUWFに移籍する前、ヨーロッパにいたじゃないですか。日本からプロレス雑誌が送られてくるわけですけど、 そこに載ってる写真を見てUWFのスタイルをイメージするしかなかったんですよね。蹴ってる写真、投げてる写真、関節を極めている写真だけじゃないですか。 「いったいどんな試合をしてるんだろうな」と。 とんでもない試合をしてるんだろうなっていうイメージですよね。
―― 実際に見てみたら、ちょっと違ったわけですよね。
船木 正直そうですよね。要するに格闘技の技を使うプロレス。ダウンしたら、今度は反対の選手がダウンする。そこで盛り上がるのはわかりました。
――前田さんが顔面ヒザ蹴りで田村さんを長期欠場に追い込んだ試合があったじゃないですか。あれはUWFスタイルだと思いますか?
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