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プロレスラー、SNS、リアリティショー……この3つを背負うのは重すぎる■菊地成孔

2020/07/03 17:12 投稿

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かつて『紙のプロレス』誌上で
毎月のようにマット界内外の時事ネタを評論してもらっていた、音楽家にして文筆家の菊地成孔氏インタビュー。今回は木村花さんをきっかけとするSNSの誹謗中傷について伺った(聞き手/ジャン斉藤)



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・鬱と宗教とUWF……プロレスの信仰心はどこに向かうのか■大槻ケンヂインタビュー





――
菊地さん、おひさしぶりです。今回をうかがたいのは「リアリティーとSNS」のお話です。木村花さんという人気女子プロレスラーがいまして、テラスハウスに出演していたんですが、番組内の言動が気に入らないアンチから誹謗中傷を受けてまして。死因は明らかにされてませんが自死されてしまったんです。 

菊地 テラスハウスは地上波で放映されてるときは好きで見てました。 Netflixに移ってからは追ってはなかったですけどね。最近は女子プロレスも追ってないですし、木村花選手がどういう活躍をされていたのかは知らなかったんですが、 今は動画でも後追いできるじゃないですか。お母さんも女子プロレスラーで、名プロレスラーの素質を持った人だと思いましたし 、そういったプロファイリングみたいなことをしだしたらキリがないんですけど。図式的に切ってしまえば、木村花さんはプロレスというリアリティショーと、テラスハウスというリアリティショーを2つやってたいた。リアリティショーを2つやりながら、そこにSNSもあるとなると、明らかにやりすぎですよね。コレは。

――ああ、なるほど。この3つは重すぎると。

菊地 リアリティショーというものはひとつだけでも大変な負荷がかかります。そもそも日本にはアメリカほどリアリティショー番組が少ないですし、日本のリアリティショーはアメリカのものとはちょっと違っていて。 たとえば吉本の芸人さんがテレビ番組でプライベートな暴露話をする。あれもある意味でリアリティショーじゃないですか。 「誰かが浮気をしている」という話を面白おかしく伝えてるんだけど、日本の場合はバラエティの体を取ったリアリティショーではあるんです。和風だよね。

――アメリカ型のリアリティショーは少ないわけですね。

菊地  リアリティショーにかぎらず、アメリカにはあるのに日本にはないというテレビプログラムはいくつかあって。ひとつには素人が出演している完全リアリティーショー、もうひとつはシットコムです。シットコムとは観覧形式のドラマで観客の笑い声が入っているドラマのことですね。ちょっと前だと『ビッグバンセオリー』という理系オタクのドラマはシットコム形式で高視聴率を取ってましたね。

――ほかには『フレンズ』や『フルハウス』とか。いまの日本にはシットコムは見かけないですね。


菊地 昔でいえば萩本欽一さんのバラエティ番組は観覧形式でしたが、あれはバラエティであって、シットコム形式のドラマはない。アメリカのシットコムも一時期は形骸化されて、ただのボタンを押して笑い声を被せるだけのやらせ的なものになっていたんですけど、シットコムとリアリティショーはアメリカでは安定的な人気を誇ってるんです。ある時期に定着してから衰えていない。日本でなぜシットコムがないかといえばコメディドラマ自体があまりないこともあるし、そこはお国柄というものがあって。日本人とアメリカ人にとって嘘や恥の感覚が違うからだとは思うんですけど。

――シンプルに日本人には合ってないと。

菊地 アメリカのリアリティショーの場合は番組の中で最終的にコンペに持っていくものが多くて。それは料理だったり歌だったり。もしくは恋愛……テラハハウス型ですよね。でっかいペンションに10~16人放り込んで恋愛模様を見せる。アメリカの場合はジャグジーバスに男女が雪崩込んだりしてポルノギリギリのところまで見せるんですよね。

――それは日本人だとちょっと難しいかもしれないですね。

菊地 そこはさすがプロレスを生んだ国というか虚実皮膜の世界で、出演者も「本気なんだかガチなんだか」と。リアリティショーはある意味「別のプロレス」と言っても過言ではない。 WWEが「我々のやってることはエンターテイメントです」と宣言してから30年近く経って、それ以前は「本気なんだかガチなんだか」という時代もあったわけですよね。そういった虚実の皮膜にあったものをドラスティックに「脚本があるドラマです、エンターテインメントです」とカムアウトした。それでWWEの人気が下がったかといえば違うわけですよね。

――逆にビジネスは大きくなっています。

菊地 それは逆にスッキリしたところもあるからなんでしょうね。いまの新日本プロレスがどういうスタンスなのかは知らないんですけど……数年前に新日本プロレスの1月4日の東京ドームを取材してムック本に原稿を書くという仕事があったんです。中邑真輔が新日本にいた最後の年ですかね。それはずいぶん久しぶりのプロレス格闘技仕事だったんですけど、そのとき編集から言われたのは「新日本プロレスはまだカムアウトしていない。何を書いてもいいけど、そこに関して明言することだけはやめてくれ」という原稿コードがついていて。それくらいは大した足枷ではないので書きましたけど。その時点でカムアウトをしていないということは、いまでも変わりないですよね?

――変わってないですね。

菊地 どこの団体も明かしてないですよね。まあ大相撲すらカムアウトしないわけですけど。RIZINはガチだという話になってますけど、ガチの定義を掘り下げたらキリがないというか。「金魚を選んでるからガチじゃない」という話だってできるし、ガチかガチじゃないかは曖昧な話になってしまうんですけど。アメリカのプロレスはエンターテイメントとして巨大産業となったのは、おそらくそれは宗教が定着している国かどうかの差だとは思うんですよ。日本は無宗教の人が多いですよね。宗教こそが「本気なんだかガチなんだか」という世界の根本だと思うんですよ。

――たしかに。

菊地 「イエス・キリストは3日後に蘇った」ことに曖昧に捉えている信者もいれば、疑いもせずにすべてを信じ込むファンダメンタリストもいる。人間というのは人種や文化という壁を越えて「本気なんだかガチなんだか」というある意味宗教的な状態に陥るというか。私は科学も宗教のひとつだと思っていて、いま信じられている科学の法則はいつか必ずひっくり返りますからね。このあいだNHKを見てビックリしたのは、 ブラックホールというのは吸い込むだけだと思っていたら吹き出すことが判明したと。

――いまさらんなこと言われたらどうしようもないですね(笑)。

菊地 科学も長期的に見れば宗教みたいなもので、この「本気なんだかガチなんだか」というのが人間の本質なんだと思いますね。リアリティショーという言葉に象徴される虚実皮膜。ひょっとしたら人間だけが動物と違って味わえるエンターテイメントの根本にあるのかもしれない。つまりリアリティーショーの怖さは、エンターテイメントの祝祭性は人間の根源に訴えるから観客のヒートアップが違うということなんですよ。

――それがSNSの誹謗中傷に繋がっていくわけですね。 

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コメント

SNS には母性も父性もない。あれは子供がやってることだから。とは的確過ぎますね。
菊地さんと斉藤さんの掛け合いは面白いので定期的にお願いします。
できれば音声配信でも。

No.1 46ヶ月前

まろゆ

No.2 46ヶ月前

菊地さんとの対談は面白すぎます。

No.3 46ヶ月前
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