令和の時代に骨法を堪能しろ! 先日実現したヤノタクこと矢野卓見のDropkickニコ生配信。90年代の格闘技界をリードした喧嘩芸骨法の裏話をたっぷりと明かしてくれたが、その文字起こしの後編をお届けします。 骨法が好きか、嫌いか、ハッキリさせろ!
前編はコチラ https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1894427
――骨法から生徒が離れないのは、やはり骨法自体に魅力があったということなんですか?
――マスコミにも露出していたので、求心力もあったんでしょうね。ちなみに、矢野さん自身が「骨法ってなんかおかしいな……」と思いはじめたのはどのへんからですか?
矢野 いや、おかしいなというのは、最初からおかしかったですよ。
――最初から(笑)。
矢野 お金に関しては、どうも要求金額がまともじゃねえなとは思ってたし。道場自体も最初からおかしいというか、要は先生は神様なんですよね。だって、道場に先生の肖像画があるんですけど、先生がいないときはその肖像画に挨拶しないといけないんですから。その挨拶にも順番があって、先生がいるときは先生、局長、そのあと全体に挨拶みたいな。先生と局長がいないときは先生の肖像画、あとその次に局長の机に挨拶するという。
矢野 先生がいなくて局長がいるときは、局長が最初。まあまあ順番的にはそういう感じですよね。で、順番を間違えると怒られるという。
――誰に怒られるんですか?
矢野 主に骨法の幹部ですね。そういうことには凄く厳しかったですね。
――一般生というのは堀辺先生とお話はできるんですか?
矢野 俺らはほとんど話をしたことないですね。会話的なことはほとんど記憶にない。もちろん、練習後の総括の時間に先生が話をするときに、まあ世間話を含めていろんな話をするんですけど、それを聞きながら「いま、『クレヨンしんちゃん』観てるんだなあ」と思ったり。
――『クレヨンしんちゃん』?
矢野 いや、けっこう先生は『クレヨンしんちゃん』のモノマネとかしていたんですよ。先生は『クレヨンしんちゃん』が好きだったんじゃないですかね?
――というか、どういう流れで『クレヨンしんちゃん』のモノマネを?
矢野 どういう流れと言われても、それは突然というか。あと『ドラえもん』の話もしてたから、アニメが好きだったんじゃないですか?明らかに『ドラえもん』の話をしているのに、『ドラえもん』のことをずっと『オバQ(オバケのQ太郎)』と言っていることもありましたね。 ずっと「オバQと、のび太くんが……」と言っていて。
――オバQと、のび太くんの組み合わせは悪くはないですけど(笑)。
矢野 みんな「ああ、たぶん『ドラえもん』のことだろうな」と思って聞いているという。そのときに誰かが助け舟というか、「ドラえもんとのび太くんは……」みたいな感じで、暗に「先生、『ドラえもん』ですよ!」と訂正を試みたんですけど、また先生は「オバQと、のび太くんが……」と続くという(笑)。
――ハハハハハハハハハ!
矢野 あれはコントみたいで面白かったですけどね。
――でも、堀辺先生ってそういうところは可愛げがありますけど。骨法の雰囲気を作っていたのは局長だったということなんですか?
矢野 局長はヤバイですよ。入会初日からスゲえ睨んでくるし。ガン飛ばしてくるから「怖えなあ」みたいな。
――入会初日の会員に!(笑)。
矢野 みんなというか、そのときは俺が新入生で入ったときで、新入生がどんなヤツらなのかということで睨みつけてたのかもしれないですけど。まあ、なぜそうしていたのか、そのへんの真意は本人に聞かないとわからないですけど。でも、まだ局長とは会話はしたこともあるんで。
――どんな会話ですか?
矢野 あるとき局長に呼ばれて、経験談というか自慢話みたいなことをされたんですよ。「私が会社に勤めていたとき、ちょっとお金があったんで一人暮らししていた」とか。その時点でちょっとおかしいなと思うんですけど。
――たしかに、なんかおかしい(笑)。
矢野 その会社でお客さんが来たときに、女子社員のなかで私がお茶を出すのが一番早かった、と。それを、ほかの女子社員たちが凄く悔しがってた、という話なんですけど。どんな会社だよ、という(苦笑)。
――先生と局長の馴れ初めみたいな話は聞いたことはあるんですか?
矢野 それはないです。でも、長崎のハウステンボスに社員旅行で連れて行ってもらったことがあるんですけど。
――骨法の社員旅行はハウステンボス!
矢野 俺が行ったのはその1回だけだったんですけど。その行きだか帰りだかの飛行機で、俺は局長と隣だったのかな? そしたら「私、占いで2回結婚するって出てるのよ」という。
――また、よくわからない話を(笑)。
矢野 だから「ああ、占い信じてるんだ」と思って聞いていましたけど、手相が変われば運気も変わるみたいな話をしていたような気がします。
――なるほど(笑)。それにしても、やっぱり局長は強烈な方なんですね。
矢野 いま思い出したエピソードとしては、治療の途中に先生が一度、1階の自販機に飲み物を買いに行くんですよ。そのときに「力水」みたいな炭酸飲料を買ってきてたんですけど、それを見た局長が、その後「力水」をケースで買って置いておくという。要は、先生が買いに行かなくていいように気を遣っているつもりなんでしょうけど、たぶん先生は下に降りて選んで買いたかったと思うんですよね。
――つまり、下まで買いに行くのもリフレッシュの一環というか。
矢野 そうそう、それも楽しみの一つにしていたと思うんですけど、局長はね「自分は凄く気が利く」と言うんですけど、ズレているんですよ。べつに「力水」ばっかり飲みたいわけじゃないじゃないですか(笑)。
――局長は格闘技経験ないんですよね?
矢野 だと思いますね。「私の若い頃は、女の子が格闘技をするなんて許されない時代だったから」とか「許されてたら柔道をやって凄いことになってたはずよ」ぐらいのことは言ってましたけど。
――それで骨法にも口を出していたんですか?
矢野 口出してました。たぶん、みんな「はいはい」と右から左に流してたと思うんですけど。
――矢野さんも何か言われたことあるんですか?
矢野 俺はダシに使われたというか、局長が「こうじゃないの? 矢野、そう思うわよね?」「はい」みたいな。
――でもそれを聞くと、矢野さんは局長に認められていたということですよね。
矢野 俺は寝技の部分で認められていたところはあったと思うんですよね。特訓生の中で一番体重も下だったし、その中である程度体重が重い先輩連中を潰してたというか。皆が秒殺される大原(学)さんとある程度やり合えるようになったって感じです。
――矢野さんの寝技って、世界中のファイターから“東洋の神秘”と恐れられるほどで、絶対に誰にも極められない。それって、もともとの矢野さんの才能なのか、骨法に入ったことで覚醒したのか。
矢野 基本的に、俺、タップするのがキライなんですよ。
――いや、キライでも極められることはありますよ(笑)。QUINTETのときも、あそこまで追い詰められたのに全然極められませんでしたし。
矢野 あれは、ズラすのがうまくいった感じですよね。なんかね、ここのポイントさえ守っておけばというのがあるんですよ。ここを切り込まれるとマズいけど、肩をすくめるとか、首の位置取りとか、ここを守っておけばとりあえず大丈夫的な。そういうのは、なんとなく身体で覚えているんですよ。
――それでも、もともとブラジリアン柔術や柔道をやっていたわけでもないのに、なぜ唯一、矢野さんだけが骨法から突然変異的に生まれてきたのかは凄く謎です。
矢野 それはみんな体重が重いし、上を取ってガンガン攻めてくるんで、とにかく俺は凌ぐのに精一杯というか。凌いでいるうちに体力を使わずに凌ぐ能力が上がってきたということです。だから最初からというわけじゃないですよ。あとは、先輩でも取られると凄く悔しいんで、「あそこの動き、こうしておけばよかったなあ」とか、一晩寝られないこともありましたから。
――体重差がある人とばかりずっと寝技をやる環境にいる中で、矢野さんの中にあったスイッチが入ったということなんですね。
矢野 水が空気に流れるじゃないですけど、そっちの方向に誘導されたということではあるんじゃないですか?
――当初、骨法は打撃系格闘技だったのが、総合格闘技の波によって寝技もはじまっていくわけじゃないですか。寝技のレベルというのはどうだったんですか?
矢野 もちろん、骨法も足関節とかはあったんですよ。ただ、特訓生を交えた顔面なしの、いわゆる総合
格闘技的なスパーリングやったときに、特訓生にアキレス腱固めを取られたんですけど、全然痛くなかったんですよね。それはたぶん極め方を知らなかったんだろうなって。要は、型だけやって極め方を知らなかった。それにアキレス腱固めって難易度は高いんですよ。
――日本の総合格闘技が確立されていない中、骨法に限らず、寝技に関してはどこもレベルは高くなかったというのはありますよね。
矢野 そこは、そうだと思います。
――そういう中で、堀辺先生はどういう寝技の指導をされていたんですか?
矢野 だから型稽古ですよ。それも、たぶん元ネタは、フジテレビの格闘技番組だったりで。
――えっ?
矢野 その番組の中で、中村頼永さんがポジションを変えながら、そのポジション、ポジションで関節を極めるみたいな動きをやっていたことがあったんですけど、次の日にそれとまったく同じことをやらされましたから。
――ハハハハハ! 中村頼永さんというと、ジークンドーの指導者であり、佐山さんの一番弟子みたいな存在ですね。
・「佐山先生に言われたんです。俺の影になってくれと」…中村頼永インタビュー<シューティング黎明編>
矢野 俺、Tさんのオファーで一回アメリカで試合をしたんですけど、そのときアメリカで頼永さんと一緒になったことがあったんですよ。そこでいろんな話をしたときに、頼永さんって骨法の道場に見学に行ったことがあるらしくて。それこそ廣戸さんがやっていた時代なんですかね。そこで、ひと通り見て、先生と話したときに「先生、これってジークンドーですよね?」と。
――ほほう。
矢野 そしたら、堀辺先生が「いやいや、中村くん。これが骨法なんだよ」と。これも頼永さんから聞いた話なんですけど、ある会社が格闘技のビデオを出していて、そこがブルース・リーの教則DVDなんかを出すと、堀辺師範が必ず実名で通販で買ってたという話も聞きました。
――勉強熱心!(笑)。
矢野 だから、堀辺師範はブルース・リーのファンだったんじゃないかって。世代的にもピッタリですもんね。
――いやでも、ブルース・リーは総合格闘技の始祖みたいなところがありますし、誰しもがブルース・リーには憧れますよ。
矢野 あと、骨法初期に黒道衣あったじゃないですか。アメリカの『ブラックベルト』という雑誌を見たときに、表紙にジークンドーの元になった中国拳法の人が載っていたんですけど、その衣装とまったく同じなんですよ。色帯も一緒だったし、「あ、これが元ネタなんだ」と。だから、堀辺師範の「ブルース・リー、マニア説」というのは、たぶん当たっているとは思いますよ。
――でも、そうならば当然、プロレス・格闘技ファンの心は鷲掴みにできますよね。だって、いろんなカッコいいもの、流行っているものをどんどん骨法に取り入れていくんですから。UWFだってそうでしたし。
矢野 だから、先生はプロレス・格闘技のファン目線としては、もの凄く能力が高かったのかなって。
――矢野さん、盛り上がってきたところで恐縮ですが、面白すぎてあっという間に50分が経ってしまいました。
矢野 ああ、早いですね。
――なので、この配信の続きは次回以降におうかがいするとして、ちょっとここで視聴者からの質問にもいくつかお答えいただこうと思います。まず1つ目。「ネットでよく見る『狂気の料理』について聞きたいです」と。
矢野 ああ、小柳津さんの弁当のことですか?あれは雑誌の撮影用だったと思うんですけど、たしかに体重増やすためにでっかいタッパーに大量にメシを入れて食ってましたね。たぶん『格闘技通信』でしたっけ? 小柳津さん、あの取材のあと吐いてたらしいですよ。
――ハハハハハハハ! いや、撮影用だったら食わなきゃいいのに!
矢野 まあちょっと頑張ったんじゃないですか? それに、撮影用といっても取材する人には見せなきゃいけないわけだから。
――要は、雑誌側と組んだ企画ではなく、骨法側がそういうパフォーマンスを見せたかったということですね。
矢野 そうだと思いますね。
――もう1つ質問です。「赤ちゃん用粉ミルクをプロテイン代わりに飲んでいたというのは本当ですか?」ということですが。
矢野 プロテイン代わりというか、当時、落合博満に息子の福嗣くんが生まれて、その赤ちゃんに粉ミルクを飲ませていたときに「粉ミルクは完全食品だから、赤ん坊は粉ミルクだけで育つんだ」という話があって、落合自身も飲みはじめた的な話があったんですよね。たぶん、その記事を先生が読んだんだと思うんですよ。それを真に受けて「粉ミルクを飲みなさい」と。
――しかし、なんでも取り入れますね(笑)。
矢野 ただ問題があって、粉ミルクってまずいんですよねえ。飲めたもんじゃなかった。だから、みんな水を入れたあとに砂糖も入れて飲んでました。本当ね、意味がないですよね。
――いやー、ブルース・リーから落合博満までカバーするなんて本当に凄いです! でも、狂気の弁当の話はボクも知りませんでしたし、令和になってまだ新ネタが聞けるとは(笑)。
矢野 まあ、こうやって雑談でぽんぽんと思い出したから話せるというのはありますよね。なんだかんだでインタビュー受けても「あの話するの忘れてた」とかありますから。
――じゃあ、また次回もあらためて、いろいろお話を聞かせていただければと思います。
矢野 今日はどうもお疲れさまでした。
ヤノタク次回の骨法トークは5月9日22時から!非会員でもチケット(¥200)を購入すれば聞けます!!
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv325516572
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本当は現行がいいけどコロナ禍なので…過去のビッグマッチなんかを矢野さんの主に寝技視点で解説してもらえたら嬉しい。