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【全文公開】中村倫也MMA転向表明で思い出す――山本KID徳郁デビュー前夜/朝日昇

2020/04/04 20:09 投稿

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2016年全日本選手権フリースタイル57キロ級優勝、2017年全日本選手権フリースタイル61キロ級優勝、2019年全日本選手権フリースタイル65キロ級準優勝……と輝かしい実績を誇る中村倫也がMMA転向をSNSで表明した。現在25歳の中村倫也は総合格闘技と縁深い。彼の父親は90年代の修斗をバックアップした龍車グループの代表だった。当時の修斗をよく知る朝日昇に中村倫也を語ってもらった。




【1記事から購入できる朝日昇インタビューシリーズ】






倫也がレスリングの現役生活を終え、MMAに転向すると聞き、何か凄いなあ......と思っています。あの倫也が……と。

倫也のお父さんは、かつて修斗の親会社だった龍車グループの中村晃三社長です。修斗は晃三社長のおかげで生き残ることができ、90年代中盤以降、若干かもしれませんがブレイクすることができました。修斗創始者の佐山(聡)さんはもちろんですが、晃三社長は修斗最大の恩人のひとりです。いまでも修斗が活動できているのは佐山さんと晃三社長のおかげだと思っています。

当時の私が所属していたシューティングジム大宮は晃三社長の運営でした。倫也は赤ん坊の頃から知っています。現在は新日本プロレスの4代目タイガーマスクも大宮のジムにいた頃ですから、1995年くらいだったと思います。倫也はまだ籠の中に入っていて、ジムで変わりばんこで面倒を見たりしていましたね。

晃三社長のお兄さんはたしか数学などに長けた方で、大宮スケートセンターの大会などで使用した8角形リングはそのお兄さんが設計され、よって構造が複雑でパーツが多くなり、設置に手間がかかったと耳にした記憶もあります。

晃三社長の家に呼ばれて遊びに行くと、UFCチャンピオンにもなったカーロス・ニュートンもよくいまして、ひょっこりと出てきました(笑)。カーロスは晃三社長にかわいがってもらっていて、日本滞在中はいつも面倒をみてもらっていたんです。倫也はカーロスにもよく遊んでもらっていた光景を覚えています。

「倫也たち、また修斗のビデオを見てるよ」とよく言っていました。倫也と弟の剛士の2人はいつも修斗のビデオを見ていたようです。弟の剛士もレスリングの大学選手権で優勝するような実力者になったと聞いています。

その後、龍車グループが修斗の運営を続けると銀行からの融資がなされないという話になり、大宮のジムからも手を引くことになりました。そのときは、当初エンセンとボクに大宮ジムをセパレートして渡すつもりだったと晃三社長に言われたんです。

しかし、ボクはジムをやる気はまったくなかったので、その旨を話したのですが、手を挙げたエンセンが引き継ぐことになり、ジムの名称はPUREBRED大宮に変わりました。その際エンセンから声をかけられPUREBRED大宮の運営にボクも加わったんです。その後、大宮に住むことになった山本美憂から「キッズレスリングクラスを作ってよ」と頼まれ、PUREBRED大宮にキッズレスリングを設置しました。その第1号の生徒が倫也とアーセンでした。まだ5歳くらいだったと思います。

倫也と似ているケースが徳郁(山本“KID”徳郁)なんです。徳郁も倫也と同じように、オリンピックが懸かったファイナルの決勝で負けて、MMAに転向して来ました。

総合格闘家になると決意した徳郁をエンセンが大宮に連れてくると聞いて、彼が小学生の頃、木口道場で一緒だった自分としては不思議な感覚でした。「あの徳郁が……」と。

「(木口道場のときのこと)覚えてる?」
「はい、覚えてます。これからよろしくお願いします」

さっそくスパーをして、総合をまだ何も知らない徳郁をボコボコにしたのですが(笑)、極めれば極めるほど、明らかに怒りを隠せない徳郁のパワーとエネルギーやオーラを感じ、「ヤバイ、コイツには3ヵ月で勝てなくなるかも……コイツなら、日本を背負っていけるかもな」と頼もしく感じたことはいまでも忘れません。

倫也はあのときの徳郁とまったく同じに見えるんです。

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ボクもオリンピックメダリストと試合をしたことがありますが、そのレベルの人たちはポテンシャルが違います。

プロ野球の世界では有望な新人選手はプロスペクトと呼ばれていますが、倫也はプロ野球ならば、ドラフト1位で競合されるプロスペクトNo.1の選手と言って過言ではないと思います。

倫也はまだ打撃や寝技についてはこれから学習していくことになりますが、きちんと育てることができたならば、UFCのチャンピオンも狙えるポテンシャルだと思っています。

ボクのジムのプロ練習に参加したある選手がこんなことを言っていました。

「倫也、この前来ました……ヤバイです、あれは……」と。

やはりどんな競技でも、その国で隆盛となるためには、世界チャンピオンを作ることが重要です。MMAならUFCのチャンピオンです。

日本の場合は、こうした才能のある選手を簡単に大きな舞台に上げてしまったりしますが、これは間違いですし、選手は潰れてしまい、育ちません。

スターになった徳郁もまずボクが開催していたアマチュア修斗のワンマッチに出場させ、その次はアマチュア修斗全日本に出場させて計5戦の経験を積ませてからプロデビューしました。プロの資格を取ったあとはたしかボクらと半年以上プロの練習を重ねて。

こうした下積みをすることで、自分の勝ち方や戦い方を覚えますし、その流れの中でたとえひとつ負けても、そこでまた何かを覚えることができます。

倫也はまだMMAの経験はないですが、間違いなく日本の宝です。もしかしたら倫也が日本のMMAを救う可能性だってあると思うんです。ただし、MMAにおいては何の実績もありませんから、ただ神輿に担ぎ上げたり、煽てたりなどする必要はまったくありませんし、してはいけませんが。

倫也は嫌がるかもしれませんが、倫也はある意味、修斗の王家から出た遺伝子とも言えますし、王家の継承者だとも思うんです。また、倫也がMMAの世界でも結果を残すように導くことが、晃三社長への恩返しだとも思いますし。

倫也がある意味本当の意味での「修斗伝承」かもしれませんし(笑)、小さい枠に収まらず、UFCのチャンピオンになり、日本のMMAを引っ張り、盛り上げてくれたらと思っています。イチローや大谷翔平のように。倫也の今の状況からすると、佐々木朗希の方が適切かもしれませんが(笑)、「見たことのない未来を切り拓け!」と。

また、倫也については、倫也の努力でここまで成長してきたわけで、べつにボクらが何をしたからではありません。よって、その努力を継続し、ベストな選手になってほしいと、あの当時の大宮のジムにいた人間なら皆願っていることでしょう。そして「せっかくだからUFCのチャンピオンになろうぜ!!」と。


 【MMA転向宣言】全日本選手権覇者・中村倫也を育んだ“大宮”とは何か?/池田久雄


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