テレビでの伊集院光は「白伊集院」、ラジオでは「黒伊集院」。どちらが本当の伊集院光なのだろうか?などとよく言われる。

しかし言うまでもなく伊集院光も人間もそんなに単純なものではない。

それを改めて思い起こさせてくれるのが『伊集院光のばんぐみ』シリーズだ。

2007年から始まった『伊集院光のばんぐみ』は2009年に『伊集院光のしんばんぐみ』として再スタート。さらに2012年からは媒体をDVDに変え『伊集院光のばらえてぃー』の制作が始まり、これを基にしたテレビ版として『伊集院光のばらえてぃーばんぐみ』が放送されている。

これらは企画・構成・演出を伊集院光が務める作品。オテンキ、(『めちゃイケ』レギュラー抜擢以前の)たんぽぽ、(『キングオブコント』戴冠以前の)バイきんぐ小峠、そしてブッチャーブラザーズのぶっちゃあなどがこの番組における有名どころと言えてしまうくらい、伊集院以外の出演者はほとんどテレビ的には無名の芸人・タレントばかり。

有名なタレントではなく無名な彼らを起用するのは予算的、時間的な問題もあるが、それもさることながら「一流の人が持っているアベレージの高さや、予定通りにきちんと調和させられる能力はないんだけど、それがないゆえに、面白いものができる」(『splash!!Vol.3)』というのが大きな理由だ。

伊集院がパーソナリティを務める『伊集院光 深夜の馬鹿力』の名物コーナーに「顔コレクション 十面鬼」というものがある。これは「様々な状況を紹介し、遭遇した人間の喜怒哀楽では言い表せない複雑な顔の表情を想像しよう」というコーナー。

「母さんが夜なべをして編んでくれた獣神サンダーライガーのマスクを見たときの顔」とか「唯一の友達だと思っていた奴に、友達になってくれと言われたときの俺の顔」とか「教室に忘れ物があったので放課後急いで取りに戻ると、僕が片思いをしている女子が1人。僕の席に座り、物憂げに僕が忘れたリコーダーを持っていた。その表情や状況のせいで教室に入りづらく、ばれないようにのぞいていると、彼女が突然立ち上がり、僕のリコーダーをマイク代わりに、やしきたかじんの『やっぱ好きやねん』を、体全体を使って熱唱したときの僕の顔」とかそういうの。

『伊集院光のばんぐみ』シリーズはまさにこんな人間の喜怒哀楽では表現しきれない人間味が剥き出しになった複雑な「顔」を撮ることを目的にした番組なのだ。

伊集院はインタビューでその企画の立て方を明かしている。

「番組の企画を考える時、自分の中で重要なのは『ルール作り』そして『どういう顔を撮りたいか』。だからそれに向けて『どういうルールがあるとその顔が出やすいか』みたいなことを考えましたね。一番シンプルなのは、『日頃当たり前に出来ることが出来ない』っていうこととか、普通のプレッシャーじゃない真逆のプレッシャーみたいなものが少し出てる顔。その時の追い詰められた感じを撮りたくて、そのために何分くらい枷を持っとけばいいんだろうとかそういうのを考えるのは楽しい。でもその時にコントや短編のストーリーとしても成立してて欲しいからそれをどうしようとか。で、意図は後からどんどん入れていく感じ。ただ、本当にバランスがいいことってそうそう見つかんない。逆に思いもよらない事が面白くなったりもします」(『TV Bros.』)

その最高傑作のひとつが『伊集院光のばんぐみ』の「真剣じゃんけん」だ。

これは無名の7人の若手芸人が、負けたら1ヶ月間番組に出られないというペナルティを科せられるというルールで、3時間後に一発勝負のじゃんけんを行うというもの。

表向き、全員あいこ(あいこなら全員が助かる)という話でまとまっているにもかかわらず、彼ら一人ひとりの浅はかな計算や猜疑心、そして伊集院の意地悪な口出しなどのせいでお互いの疑心暗鬼が頂点に達し、じゃんけんが始まるまでの間のドロドロとした心理戦、駆け引きが展開される。それがあまりにも人間臭く、間抜けでステキだ。

「お笑いって、人間のすごい間抜けのところをどうぞご覧ください!っていうことだと思っていて。天然と計算が相まって、ゲラゲラ笑うけれど、ふっと思ったら笑えないところがあったり」(『splash!!Vol.3)』)。

「真剣じゃんけん」は人間の様々な複雑怪奇な「顔」が見れる、人間の心理を研究する一級のドキュメント作品といっても過言ではないが、伊集院はこれこそ自分の考える「お笑いそのもの」だと言う。

「僕が番組を作る上で、やりたいお笑いっていうのは、『人間は間抜けで美しい』ってことなんですよ。人間は、みんな間抜けっていうことなんですよ」と語る伊集院。「『人間ってダメだな』って姿を見て、『あぁ醜い』『あぁ可愛らしい』って思ったりするのが好きなんです」(『深夜の馬鹿力』)

いわば人間萌え

伊集院はその悪意と遊び心で人間の本性を剥き出しにし、その業の深さを愛し笑う。その時、伊集院光自身の醜く愛おしい人間性も剥き出しになるのだ。(文/てれびのスキマ)

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