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現役時代は「ムエタイキラー」として名を馳せ、「キックぼんやり層」にその面白さを解説してくる鈴木秀明氏。今回のテーマは、興行戦争となった3・10新生K-1&RISEに参戦するムエタイ王者たちの楽しみ方について! ルールが違うだけで見方は全然変わる!



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――
鈴木さん! 3月10日に新生K-1とRISEの興行戦争が勃発しますが、両大会に参戦するムエタイファイターについて聞かせてください!

鈴木 新生K-1には1人、RISEには3人のタイ人がやってきますね。しかも全員がムエタイ2大殿堂(ラジャダムナン、ルムピニー)の現役チャンピオンなんですよ。

――
豪華ですねぇ! 日本でムエタイ幻想が興行の隠し味になる日がまたやってくるとは思いませんでした。

鈴木
でも、ムエタイファンからすれば、寂しいことでもあるんですよ。全員ムエタイルールで闘うわけじゃないですからね。ルールが違えばもう全然変わってきます。

――
MMAのリング・ケージの比較どころではない感じですか?

鈴木
いやあ、もうかなり違いますね。なので今回はそのへんの話もさせてください。

――
わかりました。まずRISEですが、以前那須川天心選手を苦しめたロッタン・ジットムアンノンが今回のRISE58キロトーナメントを欠場することが発表されまして。その代わりにラジャダムナンスーパーフェザー級王者、ルンキット・モーベストカマラーという選手が参戦。このルンキットはロッタンにも勝ったことがあるそうですが、そもそもどういった選手なんでしょう?


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鈴木
ルンキットはですね、いま17歳なのかな? 日本でいったら高校2、3年生ぐらいの若手選手ですね。

――
それは若い!(笑)。

鈴木
 じつはムエタイで上がってくる選手は、16歳、17歳ぐらいで注目されだして、それでいきなりトップに上り詰めちゃう選手が何年かに1人くらい出てくるんですよ。そのあと19歳、20歳ぐらいでピークを迎えてパッとやめちゃうこともあるんですけど。そのまま闘い続けているのがセンチャイ(・PKセンチャイムエタイジム)とかだったりするんですよね。

――
となると、ルンキットはムエタイの中では順当な上がり方をしている選手なんですね。

鈴木
 そういうタイプというのは、だいたいテクニシャンが多いんです。子供の頃から地元の興行で試合経験を重ね、タイのビッグマッチで試合をして有名になり、やがては海外でも試合をし、どんどんキャリアを重ねていく中で体重を増やしたり、倒し方を覚えていくという感じですね。昔の選手でいうと、アタチャイもそうですし、ボクシングで内山高志選手と対戦したことのあるジョムトーン(・チュワタナ)という選手も、17歳ぐらいでトップに出てきた選手ですね。頭がよくて、目もいいので相手の攻撃を食らわないでうまく戦えるという。

――
ルンキットも若いけれども、相当なテクニシャンなんですか?

鈴木
うまいですねぇ。彼は日本ではうますぎてちょっと人気が出ないかもしれないです。いわば「させない天才」なんですよ。

――させない天才! また面白そうなワードが出てきましたね。

鈴木
 たとえば、ロッタンのようにパパパンと一気に打ち合って勝っちゃうようなタイプと対戦したとすると、ルンキットは相手が攻撃する前にミドルを蹴ってパンチを入れさせない。相手が距離を詰める前にジャブを打って、これもまた入れさせない。それでも強引に入ってきたらスッと組んじゃうんですよね。

――
それは戦いづらそうですねえ。

鈴木
ほかにも、強引にヒザ、ヒザ、ヒザ!という感じで巻き込むタイプの選手が相手だったら、スッと引いて巻き込ませない。相手が中間距離でジリジリやろうとしている場合だと、今度は自分のほうから先に攻撃を当てて反撃をさせない。基本はサウスポーなんだけれども、ときどき右にもなったりする。あの手この手を使ってうまくやるタイプなんです。

――エンターテインメントとしてはわかりづらそうですけど、じつは凄いことをやっているという。

鈴木
 まあ、タイで言うところの「フィームー」、いわゆるテクニシャンですよね。だからやっぱりボクから言わせると「させない天才」です。でも、それが決してズルイやり方ではないんですよ。そうじゃなくて、先を予知した感じで戦うから、パッと見はそれを感じないかもしれないですね。

――
「させない」こともわからないぐらいの。

鈴木
 似たようなタイプだとセンチャイもそうなんですけど、センチャイの場合は相手がきた
ところで対応するタイプ。「こうきたら、こうするよ」「それは通じないよ」という戦い方をするから、うまさとズルさが混じった感じかもしれないんですけど、ルンキットはそれよりもっと先を読む戦い方ですね。

――
そんな神業を高校生がやっちゃうんですか(笑)。それはセンスなんですか?

鈴木
 たぶんセンスです。小さい頃から試合をたくさんやってますし、勉強ができて運動もできる子なのかなって。そういう子は勝つための仕組みを解き明かしちゃうんですよ。

――
勝負のコツがわかってるんですね。恐ろしい子!!

鈴木
 だからルンキットの試合を見ていると、劣勢になっていることがほとんどないんです。試合が始まると、もう優勢のままずっと終わっちゃうという。

――
日本では人気が出ないかもしれないという話ですが、もうルンキットの虜ですよ(笑)。

鈴木
 ルンキットの直近の試合でいうと、那須川天心選手とも試合をして、今回のトーナメントにも参戦するスアキム(・PKセンチャイムエタイジム)選手には負けているんですけど、これもかなり僅差の判定で。ボクはルンキットの勝ちでもいいのかなと思ったくらいの内容だったんですけど、判定で負けたのは、ルンキットの中で計算が合わない微妙な部分があったのかなって。

――
そのルンキットがムエタイではなくRISEルールで闘ったらどうなるかがポイントなんですね。

鈴木
ルンキットがどれだけRISEルールにアジャストできるのか。ルンキットは頭がいい選手ですからね。彼も技が弱いわけじゃないので「こういうふうに闘えば相手は倒れる」という感覚がわかってるとは思うんですよ。だから、RISEのようにダメージ優先でアグレッシブに攻めろという試合を求められれば、ちゃんと適応してくるとは思うんですよね。

――
要は、ルールを理解して勝ち上がってきた選手だから、「RISEはこういうルールだよ」と言われたらそれなりに適応できるんじゃないか、と。

鈴木
 たぶん合わせられると思うんです。ただ、もしかしたら今回はまだ早いのかもしれないなとは思いますね。というのも、ルンキットはまだ若いので、スピードと感覚で戦ったほうが勝ちやすいというのがあると思うんです。先ほどの話じゃないですけど、そこからキャリアを重ねて倒し方を身につけたりパンチを強化するなりして、より熟練していくわけですけど。いまのタイミングはまだ早いかもしれないなあと。ルンキットが本当にヤバくなるのは2年後なのかなと思いますね。

――
経験を積めば、RISEルールでも恐ろしい。

鈴木
 ルンキットはムエタイで凄くヒジを使うとか、すぐ組んでくるとか、そういうタイプではないので。RISEルールにもけっこうアジャストしやすいとは思います。それに、RISEは掴んでも1発まではOKなので。ルンキットもたまに掴んだりもしますけど、そこはルールに潰されずに、うまく彼のよさが出るんじゃないかと思いますね。

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