80年代からUWFを精力的に取材していたスポーツライター李春成氏インタビュー。「本物部分」から「本物」に向かおうとしていた運動体をどう見ていたのか――?
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◎中野巽耀 「一番尊敬できた先輩は高田延彦だよ」
◎ターザン山本 「佐山サトル、前田日明、高田延彦、船木誠勝、石井館長たちがプロ格という魔物を作ったんですよ」
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李 最近、プロレスや格闘技の本って出てるの?
――単行本はボチボチ出てますね。
李 たとえばRIZINの動きがわかる雑誌なんか出てないでしょ。
――ああ、試合レポートを載せる定期誌みたいなものは出てないですね。
李 となると、取材をしても意味がないわけだよな。
――取材するのは主に情報サイトですよね。会場取材してるマスコミも団体のオフィシャル仕事をやってたりしてますし。
李 まあ出版はどこも大変だよな。サッカーも儲からないよ。
――サッカーメディアの数って多くないですか? 情報サイトもたくさんあって。
李 たしかに凄いよ。ライターだけでも100人以上はいる。田嶋幸三会長の記者会見があったでしょ。ハリルホジッチの解任のやつね。集まったのは270人だよ?
――うわっ、格闘技はどんなに大きい会見でも10人集めるのがやっとですよ。
李 西野(朗)さんの監督就任会見はその半分だったけど。それだけライターがいれば記事の単価も安くなるし、タダ同然で書いてる奴もいるんだよ。ネットの普及で疑問を即座に解決できるようになった一方、俺たちプロのギャラがバイト代並みにまで急落してるんだ。
李 一時期はよかったんだけど、稼いだ金は全部海外遠征に使っちゃったりしてね。俺も2006年のワールドカップドイツ大会ですっからかんになっちゃった。
――それは必要経費であり、投資だったんですよね。
李 投資だと思ってた。いまは投資してもリターンがないんだよ。日本代表がワールドカップに初出場した98年のフランス大会はリターンがあったよ。2ヵ月で350万稼いだから。
――凄い!
李 それ、雑誌だけでその金額だよ。2002年の日韓共催のときからダメになったな。リターンはあったけど、どっこいどっこい。
――ワールドカップ本国開催だからビッグリターンがありそうなもんですけど……プロレスの出版事情でいえば、90年代ってプロレスムックって頻繁に出ていたじゃないですか。プロレス以外のフリーライターも寄稿してて。
李 たくさん出てたよね。
――李さんが書かれたムックの原稿で、酔っ払った編集者に「マスコミがUWFの幻想を築き上げたんだから総括をしろ!」と絡まれていたことの印象が強くて。
李 よくおぼえてるねぇ(笑)。
――「UWFとマスコミ」というと、そのシーンをいっつも思い出すんですよ。
李 そいつは『週刊SPA!』の編集者だよ。高田がヒクソン・グレイシーに負けた日に新宿のゴールデン街で飲んでいたら絡まれたんだよ。ずいぶん前の話だよなぁ。すげえ暴れちゃってさ(笑)。
――その編集者は高田敗戦がショックだったわけですね。
李 俺はあたりまえの結果だと思っていたから。だって真剣勝負をやってきてないんだから勝てないでしょ。
――でも、マスコミはUWFを「真剣勝負」ということで煽ってきただろうということなんですよね。
李 そういうことなんだろうねぇ。でも、俺からすればUWFは真剣勝負なんてやるわけないと思ってたから。ウフフフフ。
――わりと冷めて捉えていたんですか?
李 そうだねぇ。でも、UWFの取材はすっごくしてたよ。新生UWF解散直後の『Number』でほとんどの選手にインタビューしてるし。船木(誠勝)がパンクラスで真剣勝負をやり始めたときも話を聞いた。これ、テープ起こしの原稿だよ。
――おお、ずいぶん貴重なものですね。
李 ここを読むとね、船木がハッキリ言っちゃってるんだよ。俺が「パンクラスはUFWの最終型と言われてますが、そのへんはどうですか?」と質問したら「旗揚げした当初は普通のプロレスだったけど……」とすんなり言っちゃてるんだよね。そこは俺なりに自主規制して活字にはしなかたけどね。
――船木さんからすると、そう言わないとパンクラスとの差別化はできないですね。
李 もともとUWFってのは道場でやってることをベースにしたプロレスをやろうとしたんだけど、営業面を考えたら「真剣勝負をやってる」っていうふうにするしかなかった……というものだしね。
李 忘れちゃってるのかな。そりゃそうだよな。30年以上も前のことなんだから(笑)。
――自分のことだって忘れちゃいますからねぇ。李さんがUWFの取材に関わるようになったのはどんなきっかけがあったんですか?
李 俺はスーパータイガージムに通ってたんだよ。あれは三軒茶屋だよね。今は魔裟斗のシルバーウルフジムがある場所ね。そこに通いながら佐山さんがやってることが面白いと思ってね。当時『週プロ』の杉山(頴男)編集長に企画を持ちこんだんだよ。それが『週プロ』での最初の仕事だったかな。講談社で『佐山聡のシューティング上級編』という本も作ってるしね。
李 藤原(喜明)組長のサブミッション本も作ったんだよ。ああいう技術本がまだなかった時代でしょ。目の付け所がよかったと言えばよかったよね、やっぱりマネしたくなるから。だけど三社あたりで神輿を担いでる連中のなかには、神様と一緒にいられることに慶びを感じるのではなく、鼻っから喧嘩目的の戦闘隊員が大勢いるんだ。俺からしたら不本意だけど、彼らにとって技術本は貴重なテキストになってるんだよね。
――そんな方面にも影響が(笑)。技術本も守備範囲だったんですね。
李 ちょっと前に出たキックボクシングの雑誌にも関わってたんだよ。三次敏之って編集者、知ってるでしょ? 元『格闘技通信』の編集長ね。彼に「メインライターでやってくれないか」って誘われて。
――ありましたねぇ、そんな雑誌。
李 でもさ、60万ぐらいギャラもらい損ねてるんだよ(苦笑)。
――えっ!? たしかに短命でしたけど……そんな裏話が。
李 まあ、そんな話はどうでもいいんだけど(笑)。
――李さんはゴッチさんの本も作る話があったんですよね?
李 当時ゴッチさんと文通していたからね。
――「プロレスの神様」と文通ですか!
李 直筆の手紙は探せばあるはず。講談社から出す話があったんだよ。夢枕獏さんもゴッチさんの企画を持ち込んでいたんだけど、ゴッチさんって頑固じゃない。断られたらしいんだよね。俺はフロリダのタンパまで何度か行って取材したんだけど、途中から行けなくなっちゃってさ。ゴッチさんが生まれてから中学生のときの話までしか取材できなかったんだよ(苦笑)。そのカセットテープも残ってるはずだよ。
――ゴッチさんの肉声は貴重ですねぇ。李さんはプロレスにはどういうスタンスで取材されてたんですか?
李 プロレスは小学校の頃は好きだったんだけど、中学生にもなると「なんでプロレスって中継の時間どおり終わるんだ。最初から話ができてるんじゃねーか?」ってバカらしくなって離れたのね。しばらくしてテレビを付けたら、タイガーマスクのデビュー2戦目が流れてて。メチャクチャ面白いと思ったんだよ。つまりその時点で真剣勝負とプロレスの違いはわかっていたわけ。だからUWFに対しても冷めていたかもしれない。
――割りきって取材できたわけですね。
李 大学を卒業して出版社に入って、その後フリーになったけど、取材テーマはエンターテイメントだったから。ジャンルにこだわらないで楽しけりゃいいやって。日常空間から非日常にフッと入る瞬間や、芸人と客さんの駆け引きが楽しかったりするわけよ。プロレスも書く媒体がないからここ2~3年くらい会場には行ってないけど、ドラゴンゲートなんかは楽しく見てたんだよ。ただ、物語のスピードが早くてさ、ちょっと行かないとわけがわかんなくなっちゃうんだよね。
――展開がめまぐるしいですよね、ドラゲーは。
李 話を戻すと、シューティングから『週プロ』で仕事をするようになって、レポート記事も書くようになって。ああ、思い出した。全日本プロレスをおちょくる記事を書いて、天龍源一郎を怒らせちゃったんだよね。当時ターザン山本さんと全日本がケンカ状態で。
――ターザンが『週プロ』の編集長になって馬場さんと親密になる前ですね。
李 ターザンから「取材許可は降りてないんだけど、会場に忍び込んでレポートを書いてくれ」って頼まれて。あれは武道館だったかなあ。かなりおちょくったんだけど、これがまたいい原稿に仕上がったんだよ(笑)。人づてに天龍源一郎が凄い怒ってたっていう話を聞いて、逆に嬉しくなっちゃってさ。だって、それだけインパクトがあったっていうことでしょ。ずいぶんあとになってから天龍の取材をしたことがあったんだけど、彼はまったく覚えてなかったね。プロレスラーらしくていい。
――アナーキー時代の『週プロ』らしいですね。
李 その中でUWFの取材もしてね。「UWFには本物部分がある、ほかのプロレスとは違う」という書き方をしていた。「真剣勝負」とは言ってない。「プロフェッショナル・レスリング」と言い方をしてたんだよ、俺らは。
――真剣勝負とは煽っていない。
李 あくまで「本物部分」(笑)。アニマル渡辺(長武)とかオリンピック金メダリストのレスラーをリングサイドに座らせて、リングアナウンサーが「こういう人が来てます」と紹介すると、みんな「UWFは違うんだな……」って思っちゃうんだよな。
――アニマル渡辺さんはUWFをプロレスだとは気づかなかったんですか?
李 いや、そこは俺も最初は「どこまでガチなのかな……」って疑う瞬間があったんだよ。逆の意味で疑った。「どこまでプロレスなのかな」って。非常にわかりにくいプロレスだったよね。だけどゴッチさんも彼らの可能性に期待してたし、どこまで進化するのか追いかけようと思ったわけ。
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