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【全文公開】ブライアン・スタンの負けの美学■MMA Unleashed

2013/03/07 13:52 投稿

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大盛況に終わったUFC Japan 2013大会、多くの米MMAメディアもラスト2試合にはアドレナリンが上がったようで、「ヴァンダレイ・シウバ vs. ブライアン・スタン」は年間最高試合クラス、とくに1Rは史上最高ラウンドだったなどと興奮気味に書き立てていた。この大会をライブ中継した米Fuel TVも、開局以来これまでの最高視聴率のほぼ2倍の値をたたき出し、局内がお祭り騒ぎ状態になっていると報じられている。


今回は、一夜・二夜あけて、米MMAメディアが少し冷静な頭でこの大会をどう報じているかを眺めてみたい。話題はもっぱら、シウバの去就に集中していたように思う。また、われわれの目にはあっぱれな負けっぷりにも見えたスタンの「負けの美学」について、米国でどのように報じているかを紹介してみたいと思う。


MMA Mania

あまり気は進まなくとも、パンチドランカー症について話さないといけないときもあると思う。冷や水をかけるようで申し訳ないけれど。

他意はないんだ。ただ、ヴァンダレイが戻ってきたとハイファイブでお祝いするのもいいけれど、みんながウォリアーのようなヴァンダレイを見たがるがゆえに、もしかしたら彼が大人用のおむつをはいたり、ベビーフードをストローで吸うようになるときが来るかもしれないと言うことは、理解すべきだと思う。

UFC戦績45敗、もはやヴァンダレイがタイトル戦線に歩を進めることはない。そうすると彼に残された仕事はなんになる? ストライカー同士の「おもしろい試合」ということになるんだろう。もはやひたすら頭部への打撃が重なっていくだけなのだ。


Yahoo! Sports

MMA屈指のストライカーであるスタンと真っ向から殴り合っての、思い出深い勝利である。負けた後ではなく、まさにいまこそ、36歳のシウバが自分の意志で引退できるチャンスである。かつてのライバル、チャック・リデルのように、身体に悪いところがない状態で引退してもらいたい。

とはいえ、引退するには、シウバの格闘への愛情は強すぎる。そして、土曜の夜の9分間のバイオレンスは、シウバにとって本当に良いことだったのかどうかはわからないが、われわれにとってはあまりに素晴らしい9分間だった。


MMA Junkie

誰がヴァンダレイを責めることなどできようか。僕らはもう何年も前から、ヴァンダレイはもう終わっている、ヨレヨレだし、打たれ弱くなっているし、パワーもドンドン落ちてきていると言っていた。それが今回はどうだ。確かに何度かふらついたりひざまずいたりはしたけれど、それでもヴァンダレイの意識はクリアで、ろくにガードもしないまま、スタンとの大喧嘩を泳ぎ切っていたではないか。もうしばらくの間、こんな魔法のような試合ができるはずだと思うのが普通ではないのか。


厄介なことは、勝っているうちに引退しないと、現役をズルズルと続けてしまい、必要以上の負けを重ねてしまいがちだということだ。シウバのようなスタイルだと、勝ってもダメージはつきまとう。そしてそのダメージは、手術やリハビリでは治せないタイプのダメージなのである。そこが怖い。

ヴァンダレイは自分を犠牲にしてまで、ヴァンダレイたるゆえんを全うしようとしすぎていないだろうかと案じる。歴史を振り返れば、偉大なファイターはしばしばそんな風になる。タイミング良く思いとどまってくれることはほとんどない。それも当たり前だ。輝かしい現在を祝うだけでもこんなに忙しいのに、遠い将来にあるかもしれない警告に耳を貸す人など、いるわけもない。さいたまスーパーアリーナの大歓声の中で、亡霊のささやきを聞き取れる人など、いるわけもないのだ。


Bleacher Report

われわれが今回学んだこと、われわれがずっと前から知っておくべきだったことは、ヴァンダレイ・シウバには、引退するつもりなどさらさらないと言うことである。肉体や精神から鋭さが失われて行くことへの恐れなど、シウバは全く持ち合わせていない。そんなことは、偉大なファイターであるためには当たり前の犠牲である。明日と今日とを取引するのが、偉大なファイターなのである。

シウバのような男が、われわれと同じように世界を見ていると考える方が間違っている。ヴァンダレイ・シウバは普通の男ではない。比類なきウォリアーなのだ。

こうなったらもう、最後のフックがめり込むまで、僕もつきあおう。世界にはヴァンダレイ・シウバが必要だ。僕にもヴァンダレイ・シウバが必要だ。僕はずっとシウバの味方でいよう。


MMA Junkie

試合の数日前にブライアン・スタンに話を聞いた。日本に帰還したシウバが、PRIDEのころのような、ブンブン振り回す、超アグレッシブなスタイルでむかって来たらどうする?スタンは、そんなことにはならないんじゃないかといいながら、「もしシウバがそう来るなら、彼につきあってもかまわない。それでも有利なのはこちらだと思うよ」と語っていた。


そのときは、それがまともな考え方であるように思えた。スタンのアゴが難攻不落の要塞だとすれば、シウバのアゴは溶け始めている氷山のようだった。どちらがよりダメージに耐えられるかという勝負なら、若くて回復力のあるスタンが有利なのは明らかだった。



――――

アメリカの文化には「負けの美学」という考え方はない。敗戦後に泣き言や言い訳を言えば馬鹿にされる。負けても紳士的な態度の人がいれば、形だけの拍手で送り出しておいて、あとからヒソヒソ話にのせる。


だからこそ、ブライアン・スタンについて考えてみることが重要なのである。いったいどのようにすればそんなことが可能なのかわからないけれど、ヴァンダレイ・シウバにKOされた数分後の試合後インタビューで、ブライアン・スタンは、端的で、正確で、優雅で、痛々しいほど正直なコメントを出した。


「ヴァンダレイはずっと僕の大好きな選手でした。ヴァンダレイのおかげで、僕もMMAをやり始めたのです。自分が彼のキャリアの一幕になれたことを、今の痛みと同じくらいに、誇りに思っています。たしかに心は折られましたが、それでも私は、彼と戦う決心をしたことを誇りに思っています」


敗者はこう言えばいいという見本のようなコメントである。実は怪我をしていたとか、キャンプが上手くいかなかったとか、レフリーの判断がおかしいとか、そういうことを言ってみても、ファンから馬鹿にされるだけなのである。


負けた直後の格闘家ほど、共感しやすく、痛々しく、自分を重ね合わせられるものはない。ケージに入場してきた格闘家は、まるで観客を見下ろす巨人である。不思議なことにテレビカメラも、どこか見上げるようなアングルで映し出す。ところがKOされたり一本取られたりすると、みるみるうちに身体が縮んでいく。普通の人間になっていく。われわれと同じ、普通の人間だ。そして突然、その選手のことをわかったような気分になる。なぜなら、負けたり失敗することなら、誰にでもわかるからである。逆に、大舞台での成功というのは、普通の人間には想像しがたい。それを見て楽しむことはできるが、理解しているとは言いがたい。ところが負けるということなら、僕らにも理解できる。そして、われわれが実は切実に必要としているのは、上手な負けかたを見せてくれる人なのだ。


週末のさいたまでスタンがやったことはそういうことだった。勝者に目を向ける前に、スタンにちょっと感謝してみても罰は当たらない。

(文 高橋テツヤ Omasuki Fight


■『Dropkick vol.9』は3月18日発売予定!!

(出所)

Jesse Holland, UFC on FUEL TV 8 results: Wanderlei Silva should -- but won't -- retire after epic knockout win over Brian Stann in Japan, MMA Mania, Mar 3 2013


Kevin Iole, After another brutal fight, should Wanderlei Silva walk away from mixed martial arts?, Yahoo! Sports, Mar 3, 2013 


Ben Fowlkes, Why Wanderlei Silva Can't End On Good News, Even Though He Should, MMA Junkie, Mar 3, 2013


Jonathan Snowden, Dear Wanderlei Silva: My Public Apology to the UFC Legend, Bleacher Report, Mar 4, 2013

 

Ben Fowlkes, Through The Past Darkly: Reflections On UFC On FUEL TV 8, MMA Junkie, Mar 04, 2013 


Dave Meltzer, Wanderlei Silva vs. Brian Stann bout nearly doubles all-time FUEL ratings record, MMA Fighting, Mar 5 2013

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