80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマはロンダ・ラウジーのプロレスデビュー戦の相手「ステファニー・マクマホン&トリプルH夫妻」です!
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――今回のテーマはレッスルマニアでロンダ・ラウジーのデビュー戦の相手を務めるトリプルH&ステファニー夫妻です。
フミ この試合の主役はもちろんロンダ・ラウジーなんですが、ステファニーの存在も凄く重要になってくるんです。彼女の父親ビンス・マクマホンはWWEというプロレス団体をここまで大きくした偉大なる人物ですけど、ステファニーは兄シェーン・マクマホンと2人でWWEの登場人物「ミスター・マクマホン」のかつての役割をこなしてるとも言えるんですね。
――「ミスター・マクマホン」はWWEに登場する際のビンス・マクマホンの名前ですね。
フミ WWE月曜日のTVショー『RAW』のコミッショナーはステファニーで、火曜日のTVショー『SmackDown』のコミッショナーがシェーンなんです。
――2人はリングの登場人物としてだけではなく、コミッショナーとしてイベント運営も取り仕切ってるという解釈でよろしいんですか?
フミ コミッショナーも番組上の役柄です。WWEは世界最大のプロレス団体として時価総額15・1億ドル(約1617億円)のNY証券市場の上場企業なのですが、アメリカの企業の中では中小企業に当たるんですね。株式を公開してるといっても全体の80パーセントはマクマホンファミリーが持ってるんです。ビンス、その奥さんのリンダ、子供のシェーンやステファニー。トリプルHも株は持ってるんですが、ステファニーグループのひとつと考えたほうがいいかもしれません。シェーンとステファニーにはそれぞれ3人の子供たちがいますが、いずれリング内外でWWEに関わることになるんでしょうね。
――プロレスにどっぷりと浸かってるんですねぇ。
フミ エグゼクティブの立場だったマクマホンファミリーがWWEのテレビ画面に登場するようになったのは、90年代後半から00年代初頭のWWEで繰り広げられた「アティテュード時代」です。ビンス・マクマホン本人が実際にリングに上がることでWWEの人気は急上昇して、ライバル団体だったWCWを崩壊に追い込むんですが、あのへんから現実とファンタジーの境目がボヤけて、どっちが本当の話なのかがわからなくなっていったんです。
――そうして娘のステファニーもリングに現われるわけですね。
フミ ステファニーは1998年に4年制の大学を卒業して、それから1年間はバックステージで番組制作の勉強をして、99年4月に満を持して『RAW』に登場したんです。いまは2018年ですから、ステファーにはキャリア19年になる。
――もうそんなに長いことWWEに関わってるんですね。
フミ WWEに登場した頃は22歳で清純派だったステファニーは、今年42歳。プロレスファンは画面を通してステファニーの成長を見続けてきたんですが、あるときはアンダーテイカーに誘拐されたり、またあるときはトリプルHに略奪結婚されそうになったり。いまの若い世代には伝わらない例えかもしれませんが、映画で共演していた山口百恵と三浦友和が実際に結婚してしまったように、ステファニーとトリプルHも現実の世界で一緒になってしまったんです。親子揃って現実とファンタジーの境界線がない人生を歩んじゃってるわけですね。
――トリプルHとステファニーは画面上では離婚もしてますね(笑)。
フミ ステファニーはあまりにも美人なので初めて登場したときは「女優なんじゃないか?」という説もあったんです。ビンスの本当の娘だということを信じない人もいました。これがもしキャスティング上で誰かが「ビンスの娘」を演じているのであればまったく面白くないんですよね。それは奥さんのリンダにしても同じです。
――境界線がないから面白いというわけですね。
フミ ステファニーもシェーンもエグゼクティブの立場としてリング上のあれこれ関わるから説得力が生まれる。トリプルHはプロレスラーとして超一流なんですが、WWEというレイアウトの中であの夫婦が並ぶと、ステファニーの方が格上に見えちゃう。そこがまた面白い。
――そのステファニーがロンダと戦うことでアメリカでは大注目を集めてるんですね。
フミ 今回のレッスルマニアではシングルの2大タイトルマッチが行なわれます。ローマン・レインズがブロック・レスナーに挑戦するユニバーサル選手権は、ローマン・レインズがついに世代交代を果たすかどうかがテーマ。 そして1963年の誕生から55年の歴史を誇り、バディ・ロジャースやブルーノサンマルチノなどの系譜を持つ『SmackDown』のWWE世界王座に中邑真輔が挑戦するAJスタイルズ戦。プロレスファンからすれば、この2試合のどちらかがメインイベントになるんですが、アメリカのメディアにとってはロンダ・ラウジーがメインイベントなんです。
――それだけロンダ・ラウジーの話題性が強い。
フミ ロンダ・ラウジーのプロレスデビューそのものがビッグニュースなんです。WWE社内の会議では「対戦相手を誰にするのか」ということでいろんなシミュレーションがされたと思うんですが、対戦相手が誰であろうがニュースになる。ただ、これを「点」ではなく「線」にするにはどうすればいいのかいう点を突き詰めていくと、対戦相手はステファニーに落ち着いたんでしょうね。
――ロンダを連続ドラマの登場人物として見せていこうとしてるんですね。
フミ まず『イリミネーション・チェンバー』というPPVイベントでロンダ・ラウジーの契約書公開調印式が行なわれました。トリプルH&ステファニー夫妻が見守る中、ロンダがサインしようとすると、『RAW』GMのカート・アングルが「本当にいいのか? その契約書にサインしたら最後、この2人の言いなりになってしまうんだぞ?」と念を押します。アングルは「ロンダ・ラウジーは過去の人。私でも勝てると控室でそう言ってたじゃないか、ステファニー?」と続けたんです。
――そこでロンダがトリプルHたちに不信感を抱いたんですね(笑)。
フミ ロンダはUFCで連敗してからプロレスに転向したので、ステファニーの陰口にリアリティがあるし、ロンダ・ラウジーはUFCで戦うときのような、おなじみのキツイ顔つきになったんです。
――ロイヤルランブルに現れたときのロンダは素の感じで「表情ができていない」と言われてましたが、戦闘モードになってないから当然といえば当然で。
フミ あのときは髪の毛を下ろして、かわいらしい雰囲気でしたよね。まだWWEと契約していないから、キツイ顔つきになる必要がない。そこはちゃんと道理が通っているんです。
――たしかに契約をしてない選手が勝手に試合をしちゃいけないですね(笑)。
フミ 怒ったロンダがトリプルHを机の上に投げつけると、ステファニーがロンダに平手打ちを見舞います。すると、ロンダはステファニーに手を出さず、契約書にサインだけして去っていく。翌日、再び『RAW』のリング上で相まみえた4人。カート・アングルはトリプルH夫妻に「あなた方はWWEスーパースターとしてタレント契約をしている。レッスルマニアはロンダ&カート・アングルの試合で決定だ」と告げるんです。
――筋が通ってますね!(笑)。
フミ ロンダとカート・アングルはオリンピックアスリートでメダリスト同士。その2人が手を組んでカンパニーエグゼクティブと戦うという構図も見えてくるんですね。
――「オリンピックアスリートvs悪のオーナー」ですね
フミ この試合が今後のWWEにどのような影響が与えるかといえば、「アティテュード時代」のロングセラーはビンス・マクマホンvsストーンコールドでしたね。その現代版としてステファニーvsロンダの権力闘争ドラマをやろうとしてるんです。
――つまりロンダがストーンコールド役!!
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コメント
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(ID:4323342)
現実とファンタジーの境界線の消えた行く先が、クリスベノアの様な結末になったのも見ているので、
WWEの一線級のプロレスラーで居続けるのは精神的に相当タフでないと務まらないのでしょうね。