以前掲載された大沢ケンジ×橋本欽也の格闘技原理主義者対談で以下のようなやりとりがかわされた。
大沢 中井さんのDropkickインタビューなんかを読むと、MMAなんだからいろんなものに挑戦するべきだとか、道場破りはどんどんやるべきだとか言ってるじゃないですか。練習の中でタップしたら緩める文化を持ってきたのは柔術なんだけど、それまではプロレス道場からの流れで極めるときはガッチリやっていた。中井さんは「お互いにその覚悟があるならそれでもいい」と(笑)。
欽也 あの人ね、ぶっ飛んでるんだよ!(笑)。まともなように見えるけど。
■MMAが一番格上なのか? 格闘技原理主義者対談〜橋本欽也vs大沢ケンジ〜
原理主義者の親玉・中井祐樹先生に会いたい!! ということで「おしゃべりアベマ野郎」大沢ケンジが原理主義の真髄に触れてきました〜!
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■MMAが一番格上なのか? 格闘技原理主義者対談〜橋本欽也vs大沢ケンジ〜
大沢 あ、横井くんと。ボクも横井くんとやったんですけど重くて重くて。
大沢 橋本欽也さんがやってるイベントにゲストで呼ばれたんですけど、来た人全員とスパーやろうと思ったら、横井くんとやることになって。「うわあ、来たかあ!!」って(笑)。
中井 ハッハッハッハッ。
中井 死んだでしょ?
大沢 ボロボロになるというか、あの重さを受けるだけで身体が痛くなっちゃうんですよ。ウチのジムに180センチ105キロで、ベンチ200上げる白帯がいるんですけど。
中井 あ、何かにそんな選手がいるって書いてたね。
大沢 そいつがちょっと技術をおぼえ始めたんですけど。道着を持たれたら振り回されちゃうんですよねぇ。柔術っぽい動きをしようとすると、力でブチ切れられちゃう。
中井 わかるわかる。でも、俺はそういうタイプは得意だよ。そういうのにもいろんなタイプがいるんだけど、受け流せばいいんですよ。
大沢 いやあ、それが難しいんですよねぇ。
中井 まあ、言葉にすると簡単だよね(笑)。
大沢 グラップリングだったら簡単なんですよ。100キロぐらいあっても素人相手だったら平気なんですけど。道着を持たれちゃうと、もうハズレない。
中井 大沢くんは何年ぐらい柔術をやってるの?
大沢 5年ぐらいですかね。茶帯ぐらいの人だったらなんとかなるというか、茶帯のトップで黒帯の試合に出るような人はもう違いますもんね。
中井 そうだね。「受け流す」と言っても、相手に技術があれば簡単はいかないんだけど。柔術は技術勝負なので。
大沢 柔術は技術の差が出るから面白いですよね。
中井 試合になると、また違うんだけどね。「試合はフィジカル」と言い切ちゃいますけどね、ボクは。技を出すのはやっぱり身体だから。結局は身体能力だってことは、20年ぐらいずっと言い続けてますよ。
大沢 歳のことを言うと失礼ですけど、中井さんって体力、凄くないですか?
中井 練習会をやると50人ぐらい参加するときがあるんですけど、ボクは参加者全員相手するというやり方だから。
大沢 スッゲー!!
中井 1人4分間。ホントは5分間にしたいんだけど、人数が多すぎるから4分にせざるをえなくて。それでも200分、3時間以上かかるんだけどね。
大沢 よくやりますよ!(笑)。
中井 「スパーリング」という言葉を使っちゃうと、遠慮しちゃう人も出てくるんですよね。だからスパーリングという言葉は一切使わない。個別セッション、マンツーマン、レッスンという言い方。世間の人からするとスパーリングという言葉は敷居が高すぎるみたいで。ボコボコにされると思っちゃうんじゃないかな。
大沢 それだけ長い時間をやってると、後半はさすがに疲れますよね?
中井 ヘロヘロになるし、醜態もさらしますよ。でも、ボクはそこで取られてもいいんですよ、全然。中にはスナイパーみたいな奴もいるんですよ、「極めてやろう!」って。そんなスナイパーにやられるときもある。でも、取られてもいいの。こんなこと言うと「情けない!」って思われるかもしんないけど、そいつにとって強くなるきっかけになるかもしれないから。
大沢 「取った、取られた」はボクもあまり気にしないんですけど、たまに手柄を立てようと凄いことをやってくる奴もいるんですよね。
大沢 新しい人間が出稽古に来たら、なるべく自分が相手してるんですよ。会員さんもどんな人間かわからないじゃないですか。だから自分がまず受けようと。疲れてなければ取られない自信はあるから、たいてい受けるんですけど。そうしたら相手が大学柔道部だった奴で。いきなり脇固めですよ(笑)。
中井 フフフフフフ。
大沢 痛みを見せるのはカッコ悪いから「うまいですね!」なんて讃えて。なぜ真っ先に相手をするかといえば、心に闘魂を持っておきたいというか、プロ選手にもそういう姿を見せておきたいなっていう気持ちはあるんですよね。選手に言うことを聞かすには、やっつけないとダメじゃないですか(笑)。現役選手をやっつけることは難しいけど、向かっていく姿勢を見せておかないとなって。
中井 いやあ、その姿勢は素晴らしいよ。これは誰かに文句を言ってるわけじゃないけども、そうやって受け止めるOBや指導者ってそうそういないんですよ。
大沢 でも、中井さんの話を聞くと「自分は情けないなあ……」って思いますよ。
中井 何をおっしゃいますやら(笑)。
大沢 だって柔術のスパーをやるときに「いいよ、殴ってきて。バーリトゥードだから」って言ったりするんですよね?
中井 そうだね。
大沢 凄いなあ、やっぱり!
中井 柔術ルールだと思ってやってない。私のスパーリングは“なんでもあり”。だからって実際に殴ったりはしないし、ヒールは得意だけど、やらないしね(笑)。
大沢 怖いなあ(笑)。
中井 希望するのであれば、時間無制限の“なんでもあり”でやるんだけど。実戦を想定して「この場面になったらどうする?」って考えてるだけで。
大沢 それって常に総合格闘技という意識が頭の中にあるってことですか?
中井 そうだね。自分の格闘技は“なんでもあり”から始まってるからね。もともとシューティングの人だったし、打撃があっても全然かまわない。それは何をやっても総合のためになると思ってるからで、道場で相撲や柔道をやってもいいんですよ。
大沢 時間無制限にはどういう意味があるんですか?
中井 理由の一つに「とことんやりたい」っていうこともあるね。時間がかかる場合もあるけど、ものの数秒で終わっちゃう場合もあるでしょ。もう一回やる場合も時間無制限。とことん「取るか、取られるか」までやるほうが本当の技術が学べるんじゃないか?って思うんだよね。それにもう試合に出るわけじゃないから、自分自身の目標は選手の皆さんとは違ってくるわけだよね。こう言っちゃうと、変にマネしちゃう選手が出てくるかもしれないけど、無制限でやるほうが最終的には健康維持にも繋がると思う。
大沢 健康維持ですか?
中井 横井くんと20分から25分ぐらいやったときも全然疲れないんですよ。ジョギングよりも楽な感じ。「ここをやられなければいい」ってところを凌いでいればいいだけの話だし。でも、試合になると、時間制限があるから取りにいかなきゃいけないし、何分以内に返さなきゃいけないとか、アドバン争いになっちゃうから。試合のためにやってる感じになってあまり面白くないんだけど(笑)。まあ、それはそれで自分の練習にもなるんだけどね。
大沢 同じスポーツでも全然違ってくるわけですねぇ。
中井 試合に出る選手は試合に勝つことを追求することが一番正しいんですけど、試合に出ないボクが目指しているのはそこじゃない。「3分で極めてくれ」みたいな話になったらシンドイけど、1時間もあれば仕留められると思うんですよね、相手がバテちゃうから。
大沢 そこで「1時間もあれば仕留められる」と言い切れることが凄いですよ!(笑)。
中井 でも、1時間かけてマウントから逃げるのなんて競技としてはダメだよね。だけど、ボクはメチャクチャ褒める。「それが本当の技だよ」って。試合というのは仕事みたいなもんで、限られた時間の中で結果を出さなきゃいけない。それは大変にキツイことだから、試合に出る人のことは最大の尊敬をしなきゃいけない。だっていまの俺が勝てるなら試合に出てるもん。勝てないから出てないだけでね。試合に出てる人が一番偉いんだけど、格闘技の場合はOBや指導者のほうが偉くなっちゃうんですよね。
大沢 いやあ(苦笑)。
中井 ボクはそこに対して「NO」を突きつけてるんですよ。本当ならばOBは現役に見習わなければいけないことはたくさんあるし、逆にOBにしかできないこともあって。いまの日本は高齢化社会になってるから、どうやったら歳を取っても身体を動かすことができるのかってことを考えてて。そうすると、いまみたいな時間無制限のスタイルに落ち着くんだよね。
大沢 無制限だと膠着したら相手に悪いかなと思っちゃうかもしれませんね。
中井 激しい動きじゃなくなるから、技術的にはブラッシュアップになるし、全然疲れないから。これからの高齢化社会を考えたら無制限が一番いいんです。でも、俺がそう言ってもみんな信じてくれないんだよね(笑)。
大沢 たしかに無制限のほうが疲れないですよね。
大沢 ボクも柔術をやってると、MMAと頭が切り替わらなくときがあって。「あ、これはMMAだと殴られる」とか思っちゃうんですよ。知らないうちに柔術寄りの頭になってしまってるから、中井さんが言うことは凄くわかるんですね。
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