80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマはダスティ・ローデス、ゴールダスト、コーディのローデス親子物語です! プロレスラーの旅立ちとは何か――?
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――今回のテーマは、新日本プロレスのイッテンヨンで飯伏幸太とも対戦したコーディ、その父親ダスティ・ローデスや兄ゴールダストのローデス一家です。
フミ かつてコーディが主戦場としていたWWEには、2世レスラー3世レスラーがたくさんいるんですね。いまスマックダウンの女子チャンピオンであるシャーロットはリック・フレアーの娘。ローマン・レインズはシカ・アノアイの息子。ナタリアはスチュ・ハートの孫。いつのまにかベテランになってしまったランディ・オートンのおじいちゃんは、“ビッグ・O”ボブ・オートン。あの力道山と戦ったプロレスラーです。そしてお父さんの“カウボーイ”ボブ・オートンは新人の頃、全日本プロレスのチャンピオンカーニバルでジャンボ鶴田と対戦したり、新日本では藤波さんと戦ったかと思えば、海賊男ビリー・ガスパーに変身したり。1984体制のWWEではホーガンやアンドレらトップ集団の中にいました。
――そういえばゲストとして呼ばれたIGFでも、海賊男の衣装を着てたとか(笑)。
フミ いまのランディ・オートンは3代目なんですが、怪奇派でいま一番売れているブレイ・ワイアットも3世なんです。おじいちゃんがNWA、AWA、WWEのメジャー3団体で活躍したブラックジャック・マリガンで、お父さんはマイク・ロトンド。
――ロトンドは証券マンキャラのマイケル・ウォールストリートとしても活躍してましたね。
フミ マイク・ロトンドはタッグパートナーだったバリー・ウィンダムの妹と結婚して、2人のあいだに生まれた息子がロトンドやウィンダム姓を名乗らずブレイ・ワイアットとして活躍してるんです。
――プロレスファミリーは数多く存在するんですね。
フミ 今回のテーマはローデス親子ですが、このダスティ・ローデスという日本の呼び方は和製英語の傑作なんです。スペルは「Rhodes」ですから本当の発音はローズ。プロ野球で言えば、巨人やオリックスで活躍したタフィ・ローズと同じなんですね。
――本来はダスティ・ローズが正しい。
フミ なぜ「ローデス」になったかといえば、これは東京スポーツの桜井康雄さんの“作品”だと思われるんですね。最初は「ローダス」というカタカナ表記だったものが、いつしか「ローデス」に変わり、正式な発音が「ローズ」とわかったあとそのまま「ローデス」として定着していった。
――ダスティ・ローデスは本名ではないんですよね?
フミ 本名はヴァージル・ラネルズ・ジュニアといいます。「ダスティ・ローデス」というリングネームの由来は2つの説があって。1950年代にメジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツで活躍したジェームス“ダスティ”ローズという選手から取ったという説。もうひとつは『群衆の中の一つの顔』という映画の主人公ロンサム・ローズという役名から取ったんじゃないかと言われてますね。
――子供心に「どうしてローデスはスーパースター扱いなんだろう?」って不思議だったんですね。太った体型だし、華麗な技がないのに「アメリカドリーム」という輝かしいニックネームで。
フミ ローデスは日本で考えられてるよりも、アメリカでははるかにビックネームなんです。あの身体でどうして大人気だったかといえば、日本でいえば橋本真也が痩せていたら、あそこまで愛されなかったことに近いですね。
――あー、それはよくわかります(笑)。
フミ ローデスが筋肉隆々だったスーパースター・ビリー・グラハムのような肉体だったら、あそこまで人気者にはなっていなかったのではないかと思います。グラハムもカッコイイいいけど、ローデスのほうが好きというファンはたくさんいた。なぜかといえば、ローデスはブルーワーカー、つまり労働者階級の星だったんですね。太ってることもビールをたくさん飲む労働者階級の証だったんです。
――アメリカの生活文化から育まれていったレスラーなんですね。
フミ “アメリカンドリーム”を名乗る前は“プラマーズ・サン”、水道屋さんの息子を自称していて。いまなら職業差別かもしれませんが、家の水道を修理にやってくるオジサンの子供でも、なりたいものになれる、手に入れたいものが手に入る、夢は現実になるということを体現していった。アメリカンドリームとして上り詰めていったんです。
――ファンから愛される要素がたくさん詰まっていたということですね。
フミ ローデスのプックリとしたお腹には大きなシミがあるんですが、そういう見栄えの悪さも隠さない。どんなに有名になっても、もの凄い南部訛りでしゃべる。ジャイブトークといって、白人なのに黒人のようなアクセントでしゃべるんですね。“テキサスからやってきた”というキャラクターも面白いんでしょうね。白人と黒人のプロレスファンどちらからも支持されたんです。
――ダスティ・ローデスそのものがギミックだったということですね。
フミ スタイル的には凄くテクニシャンというわけではないんですけど、長い試合をすることができて、血だらけファイトもウケました。殴る蹴るにイス攻撃。ストリートファイトスタイルが得意で、70年代から80年代のアメリカのプロレス雑誌を見ると、ローデスは上半身裸で、ジーンズにカウボーイブーツを履いて戦ってるんです。
――あの当時は不思議な格好に見えました。
フミ いまならストリートファイトスタイルということはすぐに理解できますよね。通常のプロレスとそこまで変わったことはやっていたわけではないんですが、「今日は血を見るぞ!」というシグナルを送ってたわけですね。
――日本では大仁田厚さんがストリートファイトスタイルを積極的にやりだしましたが、大仁田さんはアメリカ南部に武者修行中してましたから、その影響は受けてたんでしょうね。
フミ 大仁田厚がローデスやジェリー・ローラーら南部のプロレスの影響を受けていたことは間違いないですね。話を戻すと、ローデスは1945年生まれ。終戦の年に生まれて、日本でいうところの団塊の世代、アメリカではベビーブーマー世代で同年代の人口がもの凄く多い。プロレスラーとしては70年代から00年代まで息長く活躍したんです。デビュー当初はディック・マードックと伝説のタッグチーム「テキサス・アウトローズ」を結成して、チーム名そのままのラフファイトで人気となり、AWAではあのディック・ザ・ブルーザー&クラッシャー・リソワスキーと戦いました。
――アウトローの新旧世代闘争!
フミ レスラーのタイプとしてはどちらのチームも似てるんです。金髪の中アンコ体型のおっちゃんたちが殴る蹴る。テキサス・アウトローズはブルクラの若バージョンだった。ちなみに大ベテランのブルーザーとクラッシャーはファイトスタイルは全盛期と変わらないまま、ヒールからベビーフェースになってたんです。
――この対決はお客さんも燃えますね(笑)。
フミ テキサス・アウトローズはコンビを解散して、その後はそれぞれが各テリトリーで活躍するんですけど、年に何回かはタックを結成してたんです。日本でも何度かコンビを組んでいて、一番最初は国際プロレスで、全日本プロレスでも結成して、80年代の新日本プロレスでも2人はコンビを組んでいますね。
――シングルプレイヤーになってからローデス人気が爆発していくんですね。
フミ NWAフロリダというNWAの中でも最も人気のあった地区でトップヒールだったローデスが、ベビーフェイスに転向した瞬間はいまだに語り草なんです。アメリカのマニアであれば日付まで覚えてるんですけど。
――歴史的な1日だったんですね!
フミ 1974年5月14日フロリダ州タンパ、ローデスはメインイベントで韓国の巨人パク・ソンとタッグを組んで、エディとマイクのグラハム親子と対戦します。ところが試合中にパク・ソンとマネージャーのゲーリー・ハートがローデスを裏切って襲うんです。鉄柱攻撃とイス攻撃でローデスは血だるま。パク・ソンの暴挙に怒った観客は暴動を起こすんですよ。
――暴動! 熱い!!
フミ 地元タンパの警察隊が出動するという騒ぎに発展したほどで、ファンたちは血まみれのローデスを騎馬戦のように担ぎ上げてドレッシングルームまで引き上げていったんです。そこからローデスはベビーに転向してスーパースターの道を歩んでいくんですね。配管工の息子から、みんなのヒーローとなり、そしてアメリカンドリームとして上り詰めていく。ハーリー・レイスを倒してNWA世界王者になりますが、なかなかベルトは獲れない時期が続いて、チャレンジャーの立場のときにお客さんは毎回ソールドアウトになったんです。ついにチャンピオンになったときは短命だったんですけどね。
――あっという間に転落しちゃいましたねぇ。
フミ チャンピオンになるまでがドル箱カード。成り上がりぶりが感情移入できたということで、防衛戦が期待されるキャラクターではなかったんですね。
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