プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回のテーマは「諏訪魔」です!
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――高山善廣選手の事故が大きなニュースになっていますが、今年に入ってからリング上の事故が多発したこともあり、「何かしら規制すべきではないか」という声も挙がっています。
小佐野 うーん、規制といっても難しいのは、たとえば高山の件は自分から仕掛けた技でしょう。酷い投げ方をされたというものでもないから「何を規制するの?」となるよね。プロレスって使い手がちゃんとその技を調節ができるかどうかというとこともあるんですよ。相手のレベルに合わせて変えられるかどうか。
――ジャンボ鶴田は相手に合わせてバックドロップの角度を変えてましたね。
小佐野 ジャンボは相手の受け身の技術に応じた投げ方をしていた。だから「この技をNG」という話でもないと思うんですよ。
――現実に即したかたちで何か施行するのは大変なんですね。
小佐野 格闘技はルールによって守ってるわけでしょ。脊髄攻撃はダメとか、ヒールホールドが禁止されたことがあったり。
――90年代のパンクラスが一時期そうでしたね。
小佐野 人間同士がやってることだから、最終的にはマナーや良心に依られるとは思うんだけど。仮に危険だから規制したら、ほとんどのプロレス技が禁止になっちゃうよ。まず垂直落下のブレーンバスターは首にダメージを与えるからダメ。バックドロップも頭から落とすものは禁止。
――頭から落下系は全面禁止になりますね。
小佐野 雪崩式ブレーンバスターも背中から落とすのはいいけど、垂直落下はダメとかね。トペは避けたら危険だから必ず受けましょうとか相手の動きも制限しかねない話になってくる。
――飛び技は大ケガのイメージが強いですねぇ。
小佐野 飛び技でケガをするケースもかなり減ったよね。いまはそこまでムチャはしないから。ルチャもみんな凄い飛び方をしてるけど、ちゃんとリカバリーしてるし、イチかバチかで飛んでないんですよ。余裕を持って失敗しても事故が起こりづらいように飛んでいる。
――じつは見た目の問題ではなかったりするんですね。
小佐野 以前、世志琥が安川惡斗をボコボコにしたときにスターダムでは顔面パンチが禁止になったけど、じゃあエルボーはいいの?と。エルボーのほうが危険だという話があるし、ハイキックはどうなるんだ?って。
――ハイキックのほうがダメージはありますね。
小佐野 だから一概に技を規制すればいいという話はないとは思いますね。
――最近の事故はダメージの蓄積によって……というケースですね。
小佐野 やっぱりダメージの蓄積になるんですよ。レスラーの身体が正常かどうか、WWEはメディカルチェックが厳しいですよね。スカウトしても検査結果によっては契約しないこともあるから。
――新日本もメディカルチェックはしっかりやってますね。それでも事故が起きてしまうんですが……。
小佐野 新日本にはトレーナーがついていて、誰がどんな治療を受けているかも記録しているからね。
――リングドクターも帯同して、シリーズのたびにチェックするとなると、必要になってくるのはお金ですね。
小佐野 お金だよね。何かあったときのために保険にも入らなきゃいけないし。それこそ健介オフィスは試合前に血圧の検査をやってたからね。血圧が高いと試合をさせてくれないんだから。
――そこまで徹底してる団体は聞いたことがないですね。
小佐野 そこは北斗晶の方針だった。彼女は全女時代に首をケガしてるから、そのへんはしっかりしてるんだよ。健介オフィスはフリー選手を集めて興行をやってたんだけど、全選手に保険をかけてたんです。だからお金がかかりすぎて、何回も試合ができなかったんですよね。
――経済面から保険をかけられない団体もあるでしょうね……。
小佐野 坂口(征二)さんが社長時代の新日本も、スーパーJカップで他団体から選手を集めたときは、みんな派手に飛ぶから全員に保険をかけていたしね。
――その団体がどうやって取り組むかですね。
小佐野 技に関して言えば、団体内次第になっちゃうんだよね。何か規制した場合、そのことを発表するか、しないのか。発表したら見てる方だって興醒めしちゃうから。事故が起きたら団体内で何かしら話し合いを絶対にしているはずなんですよ。「こういうことはマズイね」とか「こういう技はやめようね」とか。それはあくまで暗黙の了解であって、何かをルールを作って規制することは「はたしてそれはプロレスなのか?」ってことになっちゃうと思うんだよね。難しい問題だと思います。
――大きな事故がないように取り組んでもらいたいですね。
――今月のテーマは全日本プロレスの諏訪魔選手なんですが、先日の小島聡戦にかぎらず、外部の選手と絡むとどうにもおかしなことになるという。
小佐野 そういう試合が多いですよね(笑)。あの試合は解説を私がやったんですが、悲しい試合でしたねぇ……。
――小佐野さんは諏訪魔選手のことをデビュー当時から見てますよね。
小佐野 「就職します!」と言った入団会見から見ていますね。あのコメントは言わされたんです。諏訪魔本人はどんな意味があるのか知らなくて。
――あ、そうなんですか。ジャンボ鶴田オマージュを本人は知らなかった。
小佐野 全日本としてはジャンボ鶴田のイメージで売りたかった。諏訪魔も中央大学レスリング部出身だし、出場ではできなかったけどオリンピックを目指していたわけだから。あとから本人は「そういうことだったのね」と(笑)。
――ということは、プロレス自体は詳しくなかったんですか?
小佐野 いや、そんなこともないんだけど。子供の頃からプロレスは大好きで。とくに全日本が好きだった。スタン・ハンセンや天龍さんがいた頃の全日本。
――諏訪魔選手の年齢的に天龍同盟の頃ですかね。
小佐野 プロレスラーになるためにまずは受け身だろうということで、中学のときに柔道を始めたんです。ところが柔道に熱中していくと段々とテレビでプロレスが見られなくなってくる。四天王プロレスの初めの頃までしか見れてなかったのかな。
――四天王プロレスの洗礼を受けてないんですね。
小佐野 そうして大学からレスリングを始めて。
――そこも鶴田さんと同じ!
小佐野 中央大レスリング部OBに旧UWFの社長だった浦田(昇)さんがいるから「プロレスに行けますかね?」って相談したら「オリンピックに出るとか、箔をつけてからのほうがいいんじゃないの?」と。ますますレスリングに邁進することになって。
――プロレスのためにレスリングだったんですね。
小佐野 馳浩からプロレスの勧誘を受けていたみたいなんだけど、目の前にはオリンピックという目標があったんでしょうね。アテネオリンピックを断念した段階で全日本プロレスにお世話になりますということで。本人は訳も分からず「ネクストジャンボ」として売り出されてね。
――そこまでジャンボな条件が揃っていたら仕方ないですね(笑)。
小佐野 諏訪魔がハミ出したレスラーという捉え方をするならば、彼はデビュー以降前座で試合せずにセミファイナル、メインで試合をしてたんですよ。
――それだけ期待されてたんですね。
小佐野 凄かったのはデビューしたばかりで、あのベイダーの巨体をもの凄い角度のジャーマンで軽々と投げちゃうし。あのジャーマンで首をケガしたレスラーもいたんですよ。それでジャーマンを使わないようになる。
――封印しちゃったんですね、危なすぎて!
小佐野 基本的に強いんですよ。でも、デビューしたばかりの新人だから、プロの厳しさを教えるためにどこかで叩かなきゃならない。そのときに彼を痛めつけたレスラーが3人いたんですよ。佐々木健介、川田利明、鈴木みのる(笑)。
――ひえっ、名前を聞いただけで吐きそう(笑)。
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