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プロレスラーの壮絶な生き様を語るコラムが大好評! 元『週刊ゴング』編集長小佐野景浩の「プロレス歴史発見」――。今回のテーマは「プロレスマスコミの御大が語るプロレス取材の難しさ」です! 




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――今回は「プロレスラー取材の難しさ」についてお伺いします。小佐野さんはGスピリッツなどでオールドレスラーや関係者にインタビューされていますが……たとえば定説とは異なる話を相手がしてくるケースはありますか?

小佐野 事実じゃないというか、思い違いや、記憶が前後しているケースはけっこうあるよね。だからGスピで大変なのは事前調査なんですよ。相手に昔のことを思い出してもらうために、その材料をいっぱい提供してあげないといけない。

――そうすると相手も思い出してくるんですね。

小佐野 あと重要なのは、その時間を共有していることですね。たとえばどんなに資料で調べたり、俯瞰して振り返っても、その時代のことを知らないと当時の熱はわからないと思う。それは実際に見ていないから。

――そういえば以前このコーナーで「大木金太郎」をテーマにお願いしたら断られましたね(笑)。

小佐野 大木さんのことは知らないわけじゃないですけど、取材をしたことないですし(苦笑)。それは力道山時代も同じです。なぜあのとき日本国民が力道山に熱狂したのかは、知識はあっても理解はできていないんです。でも、それは仕方のないことなんだけどね。そんなことを言い出したら何も物を書けなくなってしまうから。

――最近は業界外の方がプロレスをテーマに扱うケースが多いんですが、ファンのあいだで議論になるんですね。

小佐野 業界外の方が書くと賛否両論になるはずなんですよ。業界外の人間が書いたから「これが真実だ!」と褒める人もいれば、古くからのマニアは「何も知らないじゃないか」と批判する。プロレスラーって業界外の取材には良くも悪くも構えるところがあるんですよ。カッコつけて大袈裟に言ったり、丁寧になったり。

――逆に業界内の人間じゃないと取材を受けないケースもありますよね。たとえば馬場さんの側近で、WWEのエージェントも務めた佐藤昭雄さんとか。

小佐野 昭雄さんは業界内の人間の取材すら受けないです。基本的にプロレス業界の人と付き合わないから。あの人がプロレス界から足を洗ったのは97年1月。最後はFFFという団体に関わってたんですね。

――バイク便会社にオーナーとなった幻のインディ統一機構ですね。

小佐野 旗揚げ前に潰れちゃってね。そのときに昭雄さんは「こんな素人に騙されたんじゃ焼きが回ったな」ってことで身を引いたんです。「鏡を見たときに普通に歩いてる自分がいたから、身体が壊れる前にやめよう」と。プロレスをやっていると、みんな腰やヒザが悪くなるでしょ。いい区切りだということで業界と縁を切って全然連絡が取れなくなったんです。

――小佐野さんとも連絡は取れなくなったんですか?

小佐野 取れない時期がありました。アメリカの昭雄さんの自宅に『週刊ゴング』を送っていたんだけど、編集部に連絡があって「もう送ってこなくていい。じゃあ小佐野くん元気でね」と電話を切られたきり10年くらい連絡が途絶えたんです。

――徹底してますねぇ。

小佐野 手紙を送っても返事はなし。そうしたら「カリフラワー・アレイ・クラブ」というアメリカのレスラー親睦会があるでしょ。そこに出席していた昭雄さんとNOAHの仲田龍氏が会ったんです。昭雄さんはJ・J・ディロンから「ひさしぶりに顔を出さないか」って誘われて「昔の仲間の前ならいいか」って出席したみたいで。そこで仲田龍氏は昭雄さんの現在の連絡先を聞いて。

――そこで消息が掴めたんですね。

小佐野 「個人的に話がしたい」と仲田龍氏を通したらオッケーの返事が来て。まずプライベートの近況を交換して「じつは取材をしたいんです」とお願いしたら「日本語のリハビリを兼ねて小佐野くんならいいか」ってことで。アメリカでは全然日本語をしゃべってないから。

――旧知の小佐野さんだから取材はオッケーだったんですか?

小佐野 ちゃんと馬場さんと昭雄さんの関係がわかってる人ならということだよね。でも、みんなリタイアしちゃってるから現役のマスコミではもういないんですよ。馬場さんと昭雄さんの関係を知っていないと、冗談めかしに言ったものをそのまま書かれたら悪口に読めてしまう場合もある。そうなったら昭雄さんとしても困るんですよ。もともと2人は師弟関係だったけど、昭雄さんが全日本のブッカーになって、立場的に対等とは言わないけども、付き人の昭雄から佐藤昭雄となった。そして昭雄さんがWWF(現WWE)の窓口になってからはまた関係も変わったわけだから。

――いままでの上司と部下の関係ではなくなってきますね。

小佐野 「馬場さんが俺にどういう感情を持っていたか、俺が馬場さんにどういう感情を持っていたか。俺と馬場さんの関係を知っていれば、言わんとしてることはわかると思うけど」と。けっこうシニカルな表現をする人なので、そこで誤解されたくないんですね。それほどあの人にとって馬場さんは大切な人だし、ジャイアント馬場のことを知り尽くしている。正しいニュアンスで伝えてくれないと困るというわけですね。

――プロレスの場合は、リング上の表現も難しいですよね。

小佐野 昭雄さんは「世界チャンピオンになるレスラーは相手の腕を取って、いかに暇つぶしができるかだ」と言うんです。その意味をちゃんとわからないと難しいでしょ。それはただ時間をやり過ごしてるわけじゃなくて、そのやり過ごし方が重要なのであって。

――プロレスというジャンルをよく知ってないと誤解を招きますね。